これから介護の世界に来るひとへ
介護業界に足を突っ込んで、はや10年近くが経った。
僕は、もともと小さな市役所の福祉課からキャリアを始め、今は政令指定都市の地域包括支援センターで働いている。
最初のきっかけは、自分の仕事が誰がみてもわかりやすい「今後、AIに取って代わられる仕事」だったため、このまま指を咥えて黙って怯えているよりも、より生き延びられる業界にチャレンジしたかったからだ。
30代からの転職で緊張した当時をよく覚えている。しかし、なにより鮮明に思い出すのは、最初に面接を受けに行ったある社会福祉法人の面接会場だ。
スーツに革靴の志望者は僕一人。周りは普段着、というより夏だったのでハーフパンツやサンダル履きの者もいて面食らった。その後内定をいただき、やんわりと断ったのだが「役職のポストを用意する」「他社よりいい条件を出すので、就活が全部済んだらぜひもう一度連絡をいただきたい」と熱心に口説かれたがお断りした。なぜなら自分が面接官だったら、志望者が面接会場にハーフパンツやサンダルできた時点で「お帰りいただく」よう促すだろうと思ったから。
こう書くとちらほら「格好で仕事をするわけではない」「IT業界でも、服装は自由化されている。時代遅れだ」と言われるだろう。でも僕は、自分が働いている会社に、新卒の就活生でも分かるような事が実践できないような人や、検索サイトで「就活 身だしなみ」と調べられないレベルの人に来て欲しくない。
介護の業界は、他の業界では当たりまえの事ができていない事が多くて、業界のイメージを損ねる一因になっていると思う。施設の防災対策しかり、職場のハラスメント対策しかり、と枚挙にいとまがない。
前述の身だしなみやマナーもその一つ。心配なのは、他職種を経験した人が中を見たら、ショックで「やっぱり他の仕事にしよう」と思うのでは、という事だ。
新たに扉を叩いてくれる人、介護の分野に興味を持ってくれた人が失望して辞めてしまわないようにするのは、今現場にいる僕のできる事だ。
コロナ禍の影響で、飲食業界など他職種からの転職が増えている。今まで介護畑から介護畑、という人材の動きが主流だったこの業界で、これはちょっとした「革命」だ。僕も今年に入って、多くの方と名刺交換をしたし、新たな門を叩いた方々にお会いするたび「これからの介護業界の力になってください!頑張ってください!」とエールを送っている。情けは人のためならず。そうでなければ、自分の未来もお先真っ暗なのだ。
もういい加減、ネガティブなイメージにはうんざりだ。
高い離職率、常に人不足の業界と言われて久しい。不鮮明な会計処理や、利用者に対する暴行など眉をひそめるような事件も多い。今現場で働いている者が、こんな状況を野放しにしていいはずがない。どげんかせんといかん、なわけだ。
ありがたい事に、ここ何年かの傾向から、他業種が新規参入してくるケースも非常に多くて、介護はこの先も「お金を産める分野」である事にホッとする。少子化の今、未来のない業界になんざ若い世代が来てくれるはずもない。
また、定年退職後の新たな働き口として介護業界を選ぶ方が増えている、という話も聞く。これも明るいニュースで、これから定年を迎える世代は、様々な分野で辣腕を振るってきた世代で、僕のような現場の人間が学ぶ事も多いと思うからだ。
正直、扉を叩いたきっかけは「食っていくため」「生きていくため」だった。
でも、貴重な経験をたくさんさせてもらったし、人生の先輩と思える方にも何人も出会った。だからこそこの分野をもっと盛り上げたいし、自分のできる形での恩返しがしたいと思っている。
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