これから介護の世界に来る人へ ③
前回「Tシャツにサンダルで面接を受けに来るような志望者とは、一緒に仕事はできない」と書いたら「カッコつけている、と思われるかもしれないから、もう少し掘り下げたら」と助言されたので補足しようと思う。
僕は以前、小さな地方自治体の職員も経験したので、最初はとにかく、右も左も無個性のいわゆる「公務員」の仕事服に慣れなくて、注意されるたびに自分の服装のなにがおかしいのかが全然わからず悩んでいた時期があった。
ところがある日、いつもはおっかなくて苦手な部長に諭されて、全てが飲み込めたのだった。
「制服がない分、公務員らしい格好っていうのがある。オシャレしろって言っているんじゃない。業務時間内だけ「〇〇市の職員です」って思われるような格好でいるって事なんだよ」今ではもう、この考え方もきっと古臭いのだろう。SNSがこれだけ幅を利かせていると、もはや職員は24時間「そこに属する人」として捉えられがちだ。特にON/OFFが曖昧な芸能、マスコミの方々の不祥事がニュースで流れると、少々気の毒な気持ちにもなる。
もちろん、小さな街の公務員には、洒落た感じも柔軟な雰囲気も期待されてはいない。ならば多少ダサくても、ワイシャツにピンとしたスラックスか綺麗なチノパンと革靴を身につけるべきだった。全身真っ黒ジャージじゃダメだったのだ。当時は介護予防事業の担当で、おのずと動きやすい服装で一日を過ごしていたが、ルーティンとして運動系の仕事が終わったら、出勤時のワイシャツとスラックスに着替えるようにした。
なぜなら、役所の窓口には常にいろいろなお客さんが訪れるから。特に何かにつけてわざわざ役所まで足を運んでくださる世代の方々は、その昔、もっと厳しい就業時のドレスコードがあった。会社から「夏でも冬でも、常に職場ではスーツを着るように」「新入社員は初任給で革靴を3足揃えなさい」と教えられていたり。
そんな人生の先輩達と関わっては「介護予防のためにウォーキングしましょう!ダイエットしましょう!」と耳の痛い話を聞いてもらう必要があったし、なにせお高い介護保険料に対してのご意見にも、真摯に窓口業務で対応しなければならなかった。Yシャツとスラックスには大きな意味があった。今までジャージだった僕の窓口対応に渋い顔をしていたお客さんも、Yシャツとスラックスの僕の言う事はすんなり受け入れてくれたりもして、今思い返せば単なる「身だしなみ」以上の価値があったのだと思う。
さて、今の仕事に話を戻すと、その人に「介護」が必要となった時、人生はいよいよクライマックスを迎えようとしているのだ。そんな方々はほとんどと言っていいほど、初対面でお会いする僕に、封切り初日のハリウッド映画のような盛り上がりを期待をしている事が多い。そこにもしも、近所のコンビニに行くかのような格好をした僕が目の前に現れたとする。いったい誰がこれからのいい関係や、納得のいく仕事っぷりを想像してくれるだろうか。
たぶん、初対面で出会った僕の服装のその先には、職場の同僚や上司、その上の組織である自治体の職員や、果ては全国の地域包括支援センターの職員達が透けて見えている。前回「Tシャツにサンダルで面接を受けに来るような志望者とは、一緒に仕事はできない」と言ったのはこんな思いがあったからなのだ。
余談になるけど、東日本大震災以降BCPのような考え方も様々な業界に浸透してきたので、被災した直後から業務を遂行しよう、と考えた時、自分の体を守る意味でも仕事の際の服装はとても重要だと思っている。僕は、肌を露出しない服装だけでなく、ある程度の耐久性があるしっかりした靴を選ぶようにしている。
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