支払いサイト

資金繰りをうまく回していくために重要なことに「支払いサイト」がある。

取次と良い取引条件を結んでいる大手や老舗の出版社だと、新刊本を取次に納品してから、その出版社に売上が入金されるまでのサイトがわりと短い。良いところだと即請求で翌月支払いという出版社もあると聞くが、小零細の出版社だと、5ヶ月後締めで6ヶ月後の支払いがほとんどだから、新刊本の売上を回収する前に、印刷代、製本代、印税、デザイン代、物流など販管費を支払う期日が来てしまう。なので、ざっくりいうと、売上が入るまでは大赤字になるということだ。
しかも新刊本は「委託」といって基本的に委託期限内ならば書店はいつでも自由に返品できる。なので当然、売上の入金は、取次に納品した本の合計金額から、返品された本の合計金額を引いて残った金額が最終的に売上として入金されるので、もしその新刊の刊行時に期待した数より本が売れないと、6ヶ月待ってやっと入金された売上金が先に支払った印刷代、製本代、印刷代などの合計より、最悪は低いことだってありうるのだ。これは恐ろしいことである。

こういうことがあるかもしれないので、資本力の貧しい小零細の出版社は、助成金や補助金付きの本とか、印税率が低い、印税無しの本、自費出版で先に製作費や営業経費を著者が払ってくれる本、共同出版で作った本を著者がたくさん買い取ってくれる本など、本ができてすぐにお金が入る本も作らないと、取次から、いくら入るか6ヶ月後まで分からない本を作り続けるなんていうことは、かなり危険なギャンブルのような経営状態になってしまうのだ。

たとえ名のある、過去に売れた実績のある著者であっても、毎回ヒットを飛ばせる著者なんて、ほんの一握りしかいないのだから、印税率が高く、初版部数も多く作らないと著者が納得して書いてくれないような本を作るのは、かなりの勇気と、この企画は絶対に売れるという企画力と編集力とその自信と確信、取次から売上が入るまで経営を持たせることができる余分な現金を会社に持っていなくてはならない。

なかには自費出版も低印税率も補助金付きもやらず、企画と編集力と、著者の原稿の力と営業努力だけて勝負して経営を続けているような、本当に尊敬する、私からすると雲上人のような出版社も存在するようで、そんな出版社には、いつも驚かされるが、今現在の僕には、我が社には、そこまでの力はない。残念ながらない。現時点では正直に冷静に自分の力を観察するとだ(いつかは、そのレベルに到達したいと目標と志は忘れないようにしてはいるつもりだが)。

話が長くなったが、なのでなるべく、印刷代、製本代、印税、デザイン代ほか、さまざまな出版にかかわる費用の支払いを、できるだけ後ろに、できるだけ取次から売上が入金される時期に近づけることが、資金繰りを、経営を安定させることに繋がるということになる。

僕がこの出版社を事業承継して、まず最初に、最優先で取り組んだのは、この支払いサイトの見直しを取引会社各社にお願いすることだった。
我が社の創業時の先先代の社長は優しい人で、取引先にもかなり良い支払いサイトの条件で契約していたので、本を作ると、一銭も売上を回収できないうちから多額の支払いが発生し、すぐに会社の運転資金が苦しくなるという状態だった。これは変えなければならない。
我が社の条件が、業界の相場より、取引先(印刷会社、製本会社など)にとって良い支払いサイトの条件だということは、他の出版社の社長たちからリサーチしていて知っていたので、たぶん各社は交渉に応じてくれると踏んでいたが、念のため、我が社の経営が苦しいなど、ネガティブなイメージを抱かれるのも不本意なので、支払いサイトの見直しの理由について、ポジティブな理由を説明をするようにした。
支払いサイトが伸びれば、資金繰りに余裕が生まれるので、毎月新刊を途切れなく不安も少なく出すことができるようになるので、印刷会社や製本会社にとっても我が社から生まれる仕事が結果的に増えて、長期的にはお互い売上も利益も上がる、お互いにとって利があるということを説明した。

結果的に、9割の取引会社に支払いサイトの見直しを飲んでいただいた(ありがとうございました。各社に感謝の気持ちは忘れません。なんだかんだ不況でどこも苦しく、支払いサイトも当然短いにこしたことはないのですから)。

まあ、本当ならば、取次会社が、我が社に売上を入金する支払いサイトを短くしてくれたら良かったのだか、その交渉は一社目でうまくいかず、ちょっと時期が悪いようなので今は諦めることにした。
我が社は新刊だけでなく、通常は即請求の既刊本の注文の売上についても、全額翌月の支払いにはならず、一部(取次会社によっては半分近く)6ヶ月後の支払いになっているし、卸しの正味も業界平均より低いので、創業より三期とも増収で黒字、売上は創業時の2倍にはなっているのだから、少しは交渉に応じてもらいたかったが、今は取次の減収がかなりひどい時期だったので交渉に応じる状態ではなかったようだ。

ということで、これから出版社を立ち上げる人、出版社を事業承継する人は、支払いサイトについては特に気をつけて、なるべく経営、資金繰りに無理が出ない条件になるように交渉することが重要だと思います。
といっても取引先の都合や関係性、信頼関係を損なうような強引な交渉は禁物です。
やはり信頼関係が、仕事がうまく繋がっていく基本になっているのは、そこは今も昔も変わらないと僕は思います。
あと、長い間、会社を潰さずに継続して出版社の経営を続けているような先輩経営者、社長達に経営、資金繰りの秘訣を直接ご教授願うのも、いいと思います。

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斜陽産業の出版業界。でも本が好き! 本に関連する仕事は書店から編集、営業まで多種多様、一点一点が全て新商品! これほど飽きない、面白い仕事はないけど、儲からないし、生活苦しいしで辛い。 そんな出版業界について、出版社の株式会社アルファベータブックス代表取締役、春日俊一が綴る。

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コメント (7)
racoco様
コメントありがとうございます。
(以下、コメントの意味と違っていたらすみません)
「実体が無いことに心地よさを感じている」、そうですね。それは今そうかもしれません。が、世代によっても違うかもしれません。物心ついた時からバーチャルな世界ばかりで生きてきた若い世代と私のように20歳半ばからインターネット普及した世代でも。

実体がない世界には心地よさと同時に、すぐに感情すら消費してしまう虚しさを感じることもあると思います。実体の世界には面倒くささと同時にリアルでしか味わえない感覚を通した感動があります。人間関係がまさにそうですし、活字を通した関係性を繋ぐ本もリアルな世界を知っていないと感動は薄れます。

最近、一部ですがリアルに戻ろうとする反動が出版業界で見られます。一人で出版社を起業したり、小さな書店を立ち上げたり。まだまだこの先、この世界、どう変わっていくななんて誰にも分かりませんし、GAFAだって20年後には古い会社になってるかもしれませんし、わかりません。今はただの過渡期でしかないかもしれません。
まあほとんど的中です。おそらく同じ価値観世代ですので、阿吽の呼吸でわかるのでしょう。これについては、あらためて記事に書こうかとおもいます。何か言いたいことがあったら書いてください。対談形式で作文してみようと思います。
racoco様のnote「「ナウシカ」はじつは実在の人物だった。ただし3000年前のギリシア」を読みました。私は宮崎駿は、新しい作品ほど観ていなくて、初期の作品、特に『ナウシカ』はたぶん20回ぐらいは観ていて、一番好きな作品です。あと最近NHKでリマスターをやっていましたが『未来少年コナン』も好きです。
『ナウシカ』そうなんですよ。私も「あ、まさに今の状況が『ナウシカ』の世界」に近いと思いました。一見美しい地球の、風が止まれば、すぐに肺がやられてしまう世界……人間が普通に呼吸ができない世界。恐ろしいことです。

でも、もしかしたら地球にとっては、地球を破壊し続ける人間を排除するために、そうしているだけかもしれませんね。新型コロナウイルスが重症化しないのは、重症化すると人間に気付かれて殺されるから、なるべく重症化しないで、どんどん感染を広げて仲間を増やそうとしている、なんてことを先日どこかの記事で読んで、妙に感心してしまいました。

脳みそなんてない、神経系もないようなウイルスが、なんでそんな作戦をとったりできるのか? まさに神秘。私はかつて若い頃、新興宗教に騙されてひどい目にあってから、「神」という存在にアレルギーがありますが、でもやはり何かこの宇宙には、人間には計り知れない「意思」があるのでは?と思うこともあります。

>何か言いたいことがあったら書いてください。対談形式で作文してみようと思います。
面白いですね。noteを始めてみて良かった、面白いなと思ったのは、Facebookなどの実名のSNSだと、結局リアルの付き合いの延長線上にあって、気をつかいすぎたり、逆に気をつかわない人と争いになったり傷つけあったりするのが面倒だったり怖かったりしましたが、noteは、まったくリアルに繋がれないような人と出会って、自分の記事を読んでもらったり、意見をいただいたりするのが、とても今は新鮮で良いです。
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