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【公開記事】GDPマイナス27.8%(?)の規模感について

 昨日のエントリ(「【公開記事】GDP(2020年4-6月期)一次速報解説」)に続いて,2020年4-6月期のGDP一次速報についてのお話.予想通り,今朝の新聞各紙は「年率換算」27.8%減との見出しが並びました.この数字は前期比7.8%減が今後1年間続いたとしたら……という実感・実態両方になじまない表記だというのは昨日指摘したとおりです.

ところで!? 
何%かどうかはさておき,GDPはどのくらい失われたのでしょう.
なぜか今回の話題……金額で話す人が少ないんですよね.

 政策論議においても,ボリューム感なしに……「○○兆必要!」とか「そんな必要はない!」といっていても何を論じているのかわかりません.普段絶対に触れることのない金額なだけにまずは大雑把な量感を持つようにしましょう.

 日本の2019年の名目GDPは約560兆円です.昨年の一年間で日本国内で新たに生産された価値(付加価値)であり,国内で得られた所得総額が560兆円というわけ.これを四半期(3ヶ月)あたりになおすと約140兆円となります.今回の前期比マイナス7.8%の経済成長(収縮?)率は,以前は140(兆円/三ヶ月)だった所得が約11兆円ほど低下したことを意味します

 ここで少し想定シナリオを用いて,もう少し詳しく今次のショックのボリューム感を考えてみましょう.

早期収縮シナリオ

 四半期ベースで見たショックのピークが4-6月,その後経済が急速に回復基調となり来年の4-6月期には2019年と同水準の経済活動水準になるという楽観ケースから考えてみましょう.
 ベンチマークは2019年の名目GDP実績値とします.1四半期(三ヶ月)で平均138.5兆円(季節調整後)が昨年実績.
 コロナショックの影響がはじまる1-3月期のGDPは136.7兆円と減少しました.そして,4-6月期には126.6兆円と大きな低下となります.今後のGDPは直線的に回復するとし,2021年4-6月期には再び138.5兆円となるならば………

 サイズ観を直感的に意識してほしいので上図は意図的に縦軸を0から表示してみました.青の「シナリオ1」が今後のGDPの推移予想.オレンジが(GDPがシナリオ1想定の通り推移した場合)2019年平均と比べて各期のGDPがどれだけ低いかをあらわしています.この2019年平均に比べて低下した所得の額を以下仮に「所得欠損」と呼びます

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 2019年に比べた所得の欠損は総計31.4兆円ほど(2020年度中は29.6兆円)になります.いかがでしょう? 想像よりも巨額だ! という人もいれば,あれ? 思ったより少ないと思う人もいるのではないでしょうか.

 現在すでに決定されている一次・二次の補正予算では合計58兆円ほどの予算が措置されています.これらのうちGDPには直接寄与しない所得補填タイプの支出(一律給付や持続化給付・雇用調整助成など)は25兆円ほど.仮に予備費の半分が所得補填色の強い使途に用いられるならば……合計30兆円.シナリオ1のケースで必要になる所得補填規模とほぼ等しくなります
 等しくなると言うより……予算作る中の人がこのシナリオ1と似たような想定で経済対策の規模を考えていると思われます.この想定.5月時点では妥当だったと思われますが,現在の状況を考えると少々楽観が過ぎるでしょう.

ちなみに

 なお,以前のエントリでは二度にわたる補正予算の経済効果(GDP引き上げ効果)を20兆円ほどと粗く推計しました(「二次補正予算の評価と経済成長率予想 」).やや楽観的に見積もってもGDPへの影響は30兆円ほどでしょう.
 思ったより小さい!?と思った人が多いかもしれませんが……今次の経済対策は所得移転・融資支援にあたるものが多くこれらはGDPには計上されません.あくまで各施策の波及効果(給付金によって消費が増加したなど)のみがGDPに計上されます.GDPへの効果が小さいからと言って所得補填・支援が不要なわけではないのでご注意を.

長期化シナリオ

 現在の状況をみると,来年の4月に経済活動の水準が元に戻るというのは楽観的な予想でしょう.回復が2022年春にまでずれ込む場合には,所得はどの程度失われるのでしょう.

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 シナリオ2に従った推移の場合,今年度の所得欠損ーー2019年に比べて日本国内の所得がどのくらい減少するかの推計額ーーは38.5兆円と試算されます.
 これはすでに可決した補正予算ではカバーしきれない金額です.現在までの状況を観察すると,一次・二次補正の速やかな実施を進めるとともに年明け1-3月を対象にあと真水で8兆円ほどの所得補填型の支出が求められると思われます.また,2021年についても14.8兆円ほどの所得補填型の経済対策が求められます.コロナ対策は今年だけで終わる問題ではなくなりつつあるのです.

(この数字はあくまで,ショックがコロナの直接的影響のみと仮定した場合です.今後のコロナから派生しての景気停滞の問題は考慮していません.)

 以上の数字は……みなさんが考えていた規模感と比べ大きかったですか?小さかったですか? もちろん今後の経済状況の変化--なかでも世界的な不況の発生とその深化等の可能性等に考慮しない試算なのですが,政策の規模を考える際にこのような目の子の数字を頭のどこかに置いておくとよいと思います

懸念材料としての海外経済

 ちなみに2020年4-6月期の経済成長率は各国でかなりの落ち込みになっています.8/16現在時点でOECDのwebサイトに掲載されているものだけですが……以下に参考までに掲載しました.海外と比較してショックの大きさを把握することも大切です.

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 今後……というかすでに現時点での通関統計をみても,サービス業の急激すぎる落ち込みに加えて,コロナショックは徐々に外需の休息の縮小にともなう外需発不況の正確をあわせ持つようになってきています.GDP統計の基礎データである国際収支,さらには通関統計・国際間のサービス取引については,エントリ今しばらくお待ちください.

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