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【小説】 拍手の海の中で。


 マキコのクラスの合唱が終わった。
 会場には万雷の拍手が響き渡った。
 歌唱力もそうだが、それよりも団結力、表現力が目立っていた。衣装のイージースカーフタイをカラフルに仕立て、自由曲「春に」で、それぞれが個人の花を咲かせるという演出は、感動をよんだ。
 中でもマキコの存在感は、飛び抜けたもので、蜜をチュッっと吸ったら味がなくなりそうな花ではなく、いつまでも味がしそうな可憐な魅力を放ち続けていた。

「元々華はあったけど、マキコは自信がついたのかもしれないねえ・・・」
 拍手の中で、ミウがぽつりとこぼす。その奥で、アキは手を真っ赤にしながら、いつまでも手を叩いてる。
「うん、バンド始めてから磨きがかかってる気がする」
 根っからの音楽少女であるアキと並んで、未経験者であるマキコがギター・ヴォーカルを任されるなんて、本人も予想していなかっただろう。いつもアキと比べられ、アキの圧倒的な歌唱力、表現力の前に、マキコはどうすることもできなかった。人一倍練習するしか、道は残されていなかった。
「やっぱり、練習って、何かしらのカタチになるんだね」
 まるで自分に語りかけるようにミウが言う。
「技術的に上手くなるってこともあるけど。そんな積み重ねが、マキコみたいに自信に繋がっていくんだよね。それがバンド内でも、いい着火剤になってるし」
 そういうと、ミウは腕を上げながら大きく拍手をステージに送った。
 しばらくの間、拍手はやまなかった。

“自信って、自分で見つけるんだ・・・”
 手を叩きながら、ヒロナは心で思っていた。
 マキコの生き様を見ていると、痛感させられる。
 結局、全て、自分次第であることを。
 容姿に恵まれ、成績も優秀。数々の美辞麗句を浴びてきたはずなのに、マキコは驕る様子を見せなかった。むしろ精神は不安定で、バンドに問題を持ち込むのは、いつも彼女。そこには、心の不安が隠れていた。
 だから、バンドに入りたいと言ったのかもしれない。
 自信を持ちたかったのかもしれない。
 震えていた猫は、少しずつライオンに近づいていた。

 誰かの評価が、自信に繋がるワケではない。
 どれだけ褒められたとしても、最後に判断するのは、自分。
 自分が自信を持つしかないのだ。

 ステージからマキコがハケていく。
 拍手の海の中で。
 にっこりと。
 

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