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【小説】 2度目の告白。


「ヒロナは、ピアノが好き?」

 リオンくんの目の中に、自分の不細工な顔が見えた。不安そうな顔してる。そんな顔しないでよ、私。せっかく好きな人と美味しい食事をしてるんだから。でも、リオンくんの質問の意味が分からない。どう答えていいか分からない。だから、どうしても不細工になってしまう。
 私は、すぐに返事ができなかった。
 一瞬だけ空いた時間の隙間の中に、心の声が渦巻いた。
 ピアノも好きだけど、リオンくんの弾くピアノが好き。いや、リオンくんが好きだから、ピアノの音色が素敵に聴こえるのかもしれない。いやいや、そもそもピアノの音色が好きなのかもしれない。ピアノが好きだから、リオンくんのことも好きになった可能性もある。私はピアノが好きなのか。リオンくんが好きなのか。リオンくんのピアノが好きなのか。音楽が好きなのか。そんな自分が好きなのか。よく、わからないよ。なんなの、その質問。

「ぜんぶ……」

 私の口から出てきたのは、情けないほど子どもじみたモノだった。
 緊張して、気持ちが高ぶっているのに、カレーとラッシーのおかげで、口の中は驚くほど潤っている。

「私は、リオンくんのピアノも、リオンくんも、全部好き」

 三秒も経つと、リオンくんの顔を見ていられなくなって、目をそらしてしまった。リオンくんは一切、目をそらさなかったと思う。店内の壁には幾何学文様の壁画アートの写真がたくさん飾られていた。人が作ったとは思えない幻想的な写真の数々に、一瞬目を奪われた。胸の鼓動がおさまって、やっとリオンくんの方に向き直ると、彼は幸せそうな顔をしていた。

「欲張りだなぁ」

 初めてリオンくんが心の底から笑っているのを見た気がした。クシャッと目元にシワができて、口が大きく弧を描いた。きっと、今のリオンくんの手は温かいんだと思う。演奏会後にした握手とは違う、人間らしい温かさを感じた。

「俺は、ヒロナのことが好きだよ」

 あまりにも唐突だったから、私はビックリすることもできなかった。リオンくんも自分で驚いたみたいに、肩をビクッと動かした。

「自分の気持ちをどう説明したらいいか分からないんだけど。ピアノを弾くたびに、ヒロナの顔が思い浮かんできて、ピアノで伝えようと思ってたんだけど」

 そう言うと、彼はナンを一切れ口に放り込んだ。たっぷりカレーを浸したせいで、また口元にカレーがついている。

「……言っちゃった」

 リオンくんは、女の子みたいに頬を桜色に染めた。

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