【小説】 道中


 そういえば、雨が降ってない。
 年末年始には、なぜか、晴天が続く。
 夕方の空には、キラキラと幾つもの星が顔を覗かせていた。
「ヒロナ、もっとスピード上げていいわよ!」
 鼻を赤くさせた母が後ろから大きな声を上げている。
 北風を切りながら目当ての焼肉店へ向かっている三台の自転車は、綺麗に縦に並んでいる。私、弟、母。自転車で出かけるときは、いつもこの形。今は先頭を私が走っているが、昔は父が先頭だった。
 ヒロナのペダルを漕ぐ足に力が入る。
「もう、お正月モードも終わりなんだからね。二人とも今日は年始最後の外食を味わいなさい!」
 母は返事が無かろうが、構わず話し続ける。
 年始最後というヘンテコな言葉に引っかかったが、正面から受ける凍てつくような風がヒロナを閉口させた。
 代わりにユキトが「年始最後ってなんだよ!」と答えてくれる。さすがは弟だ。姉と頭の出来は違うとはいえ、気になるポイントは同じだったことに安心感を覚える。
 「え、なに?」と母が聞き返したことに思わず吹き出してしまったが、それ以上はユキトも何も言わなかった。ヒロナはせっせと白い息を吐き出し、目を細めながら、必死でペダルを漕いだ。

 
 

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