見出し画像

【小説】 友の線引き


 久しぶりに高校時代の友人と食事に行った。バンドのことで頭がいっぱいになることが多いが、私にだって普通の友達くらいはいる。いっぱいいる。友達の線引きはわからないけど、友達と思えば、みんな友達だと思う。

 ユキとハルコとランチ。
 ハワイアンテイストのおしゃれなカフェ。
 店員さんの「アロハ!」「マハロ!」という掛け声が響く店内。
 大きな水槽、南国デザインの壁紙、天井に付いた大きなプロペラがクルクル回っている。優雅なランチタイムって感じ。

 女の子らしいガーリーなコーディネートで全身を彩る二人をみて、高校卒業以来、誰とも会っていなかったことに気付いた。涙袋にラメをのせたバッチリメイク、耳にはキラリと光るリングを揺らしている女子二人からは、大人びた香りが漂っていた。対する私は、日焼け止め程度の極薄メイクに全身モノトーンコーデで、色気のカケラもない。学校を卒業してたった数ヶ月しか経っていないのに、なにがここまで差を生んだのか・・・。

「彼氏の家に泊まりに行ったら、整理ができないことが発覚して、すごい萎えたんだよね。やっぱ生活を覗くとその人の本性が見えるよねェ」

 とユキ。

「ウチの彼氏は、電話とメールとか、実際に会ってない時には盛り上がるのに、実際に会うと急に喋らなくなって、他人事みたいになるんだよね。マジで謎」

 とハルコ。

“めんどくさ・・・”

 と心の中の私。これは高校時代から変わらない。恋愛話になったら、私はお手上げ。どうして人は恋の話が好きなんだろう。
 
「ヒロナは最近どうなの?」
「いやぁ、バンド一色よ。今はアルバム制作に入ってて、夏には全国ツアーだから、そのためのリハかな。でも、もっと曲作りの勉強しないといけないから、1日中家でパソコンと睨めっこしたり、ドラム叩いたりで終わっちゃう」
「そうじゃなくて、恋愛のほう!」
「ああ、いや・・・」

 森口リオンが脳裏に浮かぶ。ピアノの前に座る静かな姿。なめらかな指さばきに反比例するように、強いタッチ。キラキラした音の雨。思い出すだけで、口角が上がる。

「いるんだ!」

 瞬時にユキが反応した。
 鼻息を荒げ、瞳孔が開いている。
 ああ、恐るべし嗅覚。

「いやいや、いないない! なんとなく気になるってだけだし。デートもしたことないし!」
「だれだれ!?」

 テレビ記者のように有無を言わさず問い詰めてくる友達に、小さな吐き気をもよおしたが、必死で飲み込んだ。

「二人が知らない人だよ。ライブで知り合ったピアニストの人だから!」
「なんだー! 芸能人かと思ったのに!」
「でも素敵じゃん! ヒロナも大人になったねェ!」

 なにを期待していたのか分からないが、二人はそれ以降、私に恋の話を振ることはなかった。しかし、その後も恋バナは続き、私の耳には「アロハ!」と「マハロ!」の声が大きく聞こえるようになった。
 こんなことは、高校時代から変わらない。私は私の道を進んできた。
 でも、なぜだか、この日だけは、私は友達の輪から外れた気がしたんだ。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?