【小説】 束の間の休憩。
マキコちゃんの受験日が迫り、さすがのマネージャーも仕事を詰め込むことはできなかったらしい。束の間の休息。それでも、この数ヶ月の私たちの仕事量は尋常ではなかった。未成年であることが防波堤になり、深夜労働こそなかったが、毎日のように写真を撮られたり、人の前に立ってきた。私たちは一気に階段を駆け上がっていた。 マキコちゃんが受験に専念してる間、バンドの活動はなくても、収録したテレビ番組や、CM、ラジオ、雑誌は世に出続ける。阿南さんのマネージメント力は、想像以上に力強かった。
「バンドとして動けないなら、それを好機と考えた行動をした方がいい!」
そう意気込み、阿南さんが次に仕掛けようとしていたのが、アキちゃんのソロライブ。普段は物腰の柔らかい阿南さんも、ここ数ヶ月で目の色が変わった気がする。背筋が伸びて、肌に張りが生まれ、笑顔も増えた。そして、言葉に宿る生命力が強くなり、社内での評価も上がったらしい。
アキちゃんのソロ活動のおかげで、私とミウはすっかり職を失った。とはいえ、ミウはキャンパスライフを楽しんでいたと思うし、私は恋人を作ったりと、バカンスを満喫してたんだけどね。今できること、今だからできることと、それぞれが向き合っていた。
私の初めての恋人は、近い将来の留学を考えていた。それは期限付きの交際関係と捉えることもできる。だって、頻繁に連絡が取れるワケではないし、物理的な距離感は、心の距離とも繋がってきてしまうだろう。私は少し焦っていた。終わりに向かう恋愛なんて、イヤだ。そんなことを毎日のように私とリオンくんは電話で話したが、リオンくんは「留学した先で恋をするほど、オレは間抜けじゃないよ」と笑っていた。そうかもしれないけどさ。ただでさえ会える時間が少ないんだからさ。そう思っちゃうのが人情でしょうよ。
お互いに練習や作曲という仕事に追われ、なかなか予定を合わせたデートはできなかった。そして、私は、誰にもこのことを言わなかった。
この時期、恋愛の曲がやけに多く生まれたのはそういうことだ。
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