【小説】 チラつく。
「あ、マキコちゃん」
ステージ上にマキコが現れた。クラス全員がシャツ姿にカラフルなイージースカーフタイを身につけている。マキコは深いグリーンのスカーフ。顔立ちもあるのか、年下だというのに落ち着いた大人の雰囲気を感じる。
客席から「かわいい」「やっぱ、コスチュームが揃うといいね」などと、ひそひそ声が聞こえてくる。明らかにこれまでの会場の空気と違う、ざわつきが起こった。
「やっぱり、マキコって華があるんだねえ」
ミウがしみじみと言った。私も、そう思う。
贔屓目なしに、マキコの身体からはキラキラとエネルギーがこぼれ出している。指揮者よりも、伴奏者よりも、クラスの一員であるはずのマキコが一番光っていた。実際、「広瀬さんだ、広瀬さんだ」って、男子たちもざわついている。本物って、こういうことなのかもしれない。
指揮者が手を挙げると、ザッという音をたて、歌う姿勢に入る。客席の音の波が凪いでいく。一瞬の沈黙が生まれた途端、指揮者は手を振り、伴奏が始まった。間の使い方、緊張感の生み出しかたは、これまででピカイチだった。客席の集中が一気にステージに向く。しかし、伴奏が良くなかった。ピアノの音はベタッとして、踊っていない。やけに右手のタッチ音だけが強く聞こえてくる。
ヒロナの頭には、何度も、一年生のピアニスト、リオンの影がチラついた。
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