見出し画像

【小説】 自分にかける言葉。


「よく変われば、いいこと。自分がいいと思えば、いいこと」

 カラッとしたミウの言葉は、私の耳にべったり張り付いた。
 そんな自信ない。自分がいいと思えるか、なんて分からない。
 ただ、私は変わってしまった。それは間違いない。天真爛漫って言葉がぴったりの女の子のだったが、責任を少しずつ感じるようになり、今ではすっかり、いい子ちゃん。大人とやりとりするのもお手のものだし、ある程度は人に頼ることができるようになった。清く、正しく、美しく、という校訓が、黒板上の額縁の中にあったことを思い出す。
 模範的な生き方を選んだのは、音楽を作ること、みんなで作り上げることが楽しくてたまらないから。そのためだったら、なんだってする。いくらでも犠牲を払える。そう思う。

 休憩が終わると、新曲「Re Re」のリハが始まった。
 冒頭は、ミウのピアノとアキちゃんのボーカルだけが響く。跳ねる和音と、アキちゃんの美声が混じり、よく響く。綺麗なハーモニー。音の相性がいい。そして、ギター、ベース、ドラムが一斉にリズムを刻み出す。
 森口リオンのピアノ指導があった直後から、ミウは劇的に上手くなった。弾き方、方向性が見えたことで、練習の質が上がったのだろう。目指すものがあって初めて人は力を発揮できるんだと思う。
 アキちゃんのベースも見事としかいいようがない。幼い頃からギターを弾いていたとはいえ、上達速度が異常だった。彼女も見えない努力を相当重ねたのだろう。まるで身体の一部みたいにベースが手に馴染んでるのがよく分かる。小さな身体でゴツいベースをデンデケ弾く姿に、不思議な感動を覚えた。
 当然、二人に感化されるのは私とマキコちゃん。楽器コンバートをした二人を支えることができるのは、私たちしかいない。だから、負けじと練習する。負けず嫌いのマキコちゃんは、リードギターを弾けることの喜びもあり、これまで以上にのめり込んでくれた。もちろん、私もコツコツと練習を怠らない。
 結果として、「Re Re」のおかげでバンド全体の活気とクオリティが進化した。スタジオで初めて「Re Re」を聴いたマネージャーの阿南さんは、「ツアーが終わったら、すぐにシングルで出そう」と言うくらい、私たちの想像以上に曲は大きくなっていた。リハの段階でも成長を感じるのだから、ステージに上がったら、さらに曲は化けるだろう。

 バンドは変わっていく。否が応でも変わってく。もしかしたら、この体制が主流になるかもしれない。スリーピースバンドから始まって、マキコちゃんが加わって、音の幅も広がったところで、楽器のコンバート。
 大きな枠組みは変わらないのに、中身がどんどん変わっていく。良いも悪いも己次第。私たちが決めること。バンドも人も同じこと。
 変わっていい。いいに決まってる。
 そう、強く、自分に言い聞かせる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?