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【小説】 確信へ


 アキちゃんとリオンくんは、ずっとスポットライトの中にいた。実際に光が当たっていたわけではないけど、私の目には、そうとしか見えなかった。海外の映画のような雰囲気に、脳内で勝手に補正されていく。美女と野獣というよりも、ロミオとジュリエットのイメージが近いかもしれない。しかも、二人の間には映画みたいに障害がない、しあわせなストーリーだ。
 リオンくんが「歌は昔からやってたんですか?」と殊勝に質問をすると、アキちゃんは「はい」と返答。まるでお見合いみたいな会話を私たちは見せられていた。ミウとマキコちゃんに視線を送ると、「やれやれ」と肩をすくめるそぶりをした。自分達に入り込む隙間はないね、と言われてるみたいだった。
 二人の会話を見るたびに、私の胸はキュッとした。羨ましいワケでもないし、嫌な感じがするワケでもない。でも、心臓を吐き出しそうになるほど、胸が締めつけられるようだった。

「見えてきたね」
 帰りの電車の中で、隣に座るミウが言った。
 しかし、私の頭の中はスポットライトを浴びる織姫と彦星のことでいっぱいになっていた。だから、ミウが何を言いたいのか分からなかった。
「なにが?」
 素っ頓狂な声が出る。
「曲だよ、きょく」
「ああ・・・ね」
 今日の出来事が巻き戻されていく。
 本来の目的であるミウのピアノ指導は達成された。それどころか、リハーサル前にリオンくんの演奏をみんなで見れたおかげで、曲の方向性や輪郭がクッキリした。この成果は大きい。
「私のピアノがまだまだなのは分かってるけど、もしかしたら、ウチらは今の編成の方が、音楽の幅が広がっていいのかもしれないね」
 ミウは自分の膝を鍵盤に見立て、ピアノの指をさらいながら確かな手応えを感じていた。車内は夜だというのにとても静かだ。私たちの会話も自然と小さくなるが、ミウの言葉は線香花火みたいにパチパチとはじけていた。
「アキも想像以上にベースが馴染んでたし。てか、あまりにも簡単そうに引いてたから若干凹んだよね。私のこれまでの3年間はなんなんだって」
「でも、このカタチを作ったのは正解だと思う。曲によって楽器を変えればいい。それはきっと私たちの強みになると思うし、バンドとしての色にもなるから。リオンくんという強力なサポートもあるから、なんとかなる気がするんだよね」

 曲を作った時から思っていた。
 この曲はバンドを変えるって。
 それは、じわじわと自分一人だけのものではなくなり、メンバー全員に伝播しているのかもしれない。喜ばしいことで嬉しいこと、のはず。なのに、素直に喜べない自分がいる。
 車窓の向こう側に写る自分は、ひどく老けた、悪い顔をしていた。

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