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【小説】 ポロポロとニヤニヤ。


 ライブは大成功だった。
 学校が一丸となって祝福してくれてるみたいな拍手が起こり、アキちゃんは泣いていた。私たちは大きく手を振り、舞台袖にハケると、会場からは大きなアンコールが沸き起こる。会場はうすやみに包まれ、舞台上では次の準備が始まっている。

「時間ってなんですか? 今、舞台転換してるだけですよね? この時間がもったいなくないですか? だったら、私たちだけ出て行って、挨拶だけでも無理なんですか!?」

 マキコは袖で叫んでいた。鳴り止まないアンコールにどうしても応えたいと、進行役に必死に訴える。私たちにしか見せたことがない、マキコの魔女のような形相に、周りのスタッフや先生も顔に衝撃をはりつけていた。
 半ば強引に許可をとった私たちは、マイクを片手に再びステージに戻ることになった。予定外の出来事にスタッフも動揺し、照明は遅れて明るくなったし、音響は慌ててマイクを入れたせいで、会場には「ールありがとうございまーす!」と変なところから声が響いてしまった。それでも、会場は再び黄色い声援に包まれる。

「機材や時間の都合上、演奏はできないのですが、みんなの想いを受け取りました!」

 まるでスターのような口ぶりでマキコは語った。
 先ほどまでの形相はどこへやら。ニッコリ笑顔を浮かべ、堂々と手を振りながら、顔全体を会場に向けて、スポットライトを浴びている。会場からは拍手が起きたり、「えー!」とか「ありがとう!」なんて声が飛ぶ。

「また、どこかでお会いしましょう! ありがとうございました!」

 そういうと、マキコは深々とお辞儀をしたので、私たちもつられるように頭を下げた。横を見ると、アキちゃんはポロポロと涙を落とし、ミウは「やっぱりマキコは女優だねえ」とニヤニヤしていた。
 私たちのバンドは、明月高校音楽祭で、伝説を作った。

 

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