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【小説】 ね。


「なんかさ、もはや意地って感じがするよね」
「なにが?」
「ベースを毎日練習するとか、勉強することって」
「そうなんだ?」
「うん。まあ、意地って言葉が合ってるのかは分からないけど、今のところはしっくりくるかな」
「意地ねえ・・・」
「やめられないとかじゃないんだけど、続けていくための意地」
「ああ、そういうことか」
「『ここまでやってきたんだから、なんとか頑張りたい』ってのは、マイナスエネルギーが原動力になっちゃってると思うんだけど、そうじゃなくて」
「えー、私は、それもカッコイイと思うけどね」
「それとこれとは話が別。私は、そうなったら辞めるかな」
「まあ、ミウは、そっか。そうだよね」
「うん、無理。でも、そうじゃなくて、なんのために続けてきたかっていうことなのかなー・・・」
「え、ミウは、なんのために続けてきたの?」
「それが、意地なの」
「えー、難しいなあ!」
「だって、上手くなりたくて、練習するワケだから。そのための意地」
「上手くなるための意地?」
「うーん、なんか違う気がするけど、まあ、そんな感じ。そうとしか今は説明できないかも」
「へえ。わかんないけど、まあ、意地ってことね」
「そゆこと! ヒロナは? 頑張れる理由ってあるの?」
「そこなんだよねえ。分からないんだよ、正直」
「意外! そっか、まだ分からないか!」
「うーん・・・。いや、ミウがさ、あっという間に遠くに行っちゃったよね。中学までと全然性格違うもん」
「まあ、確かにそうかもしれない、もっとフラフラしてたというか、優柔不断だったというか」
「どちらかというと、私の方が明確に行動するというかね」
「そうそう、ヒロナって次々にいろんなこと仕掛けるから、すごいなあって思ってた。ま、そこは今も同じなんだけどさ」
「ありがと。でも、ミウは変わったよ。もちろん、いい意味でね。自分がしていることに、ちゃんと印をつけて歩んでるというか、生きてるって感じ」
「それはそうかも! 自分の中でも、できることと向き合おうって思えるようになったのかも」
「なんでなんで?」
「バンドと彼氏のせいだね。間違いなく」
「あはは! そうやって聞くと、言葉の響き悪いなあ」
「だって、それ以外にないからね!」
「バンドと彼氏のせいかあ」
「そうだね、どう変わったかは分からないけど、私もバンドに出会って変わった気がするなあ」
「うん、知ってる。ヒロナは悩むようになった。今まで以上に」
「そうだね・・・。今までこんなことなかったのに、なんか、めっちゃ悩む」
「今まで悩まなかったことの方がオカシイんだけどね」
「ね」
「ね」

ともだち同士の、「ね」。
それだけで、何かが、二人の中に通じ合った。

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