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Chapter7
私は徐々に男を好きになる。
もちろん一目惚れをしないということではない。
しかし、それは外見が好みということであり、恋愛感情とは少し離れたものの気がしている。ただ、ピースの一つが埋まっただけだ。
私が人を好きなるときは、パズルを作る感覚に近い。
ハマるピースが多くなるほど、好意は増していく。
容姿や性格はもちろんなのだが、清潔感、会話の速度、歩幅、金銭感覚、身体の相性など、色々なピースが組み合わされないと恋愛には発展しない。
マキコに同じ話をした時には随分と盛り上がった。
「わかるー! パズルって呼ぶ感じがハルらしいわ。私はそれを加点方式って呼んでるけどね」
マキコはノンアルコールでも一緒に居酒屋で盛り上がることのできる数少ない親友だ。年齢を重ねるほど恋をすることが難しくなってきているという私の話に彼女は前のめりで話を聞いてくれた。
「でも、それって恋に落ちてからの話でしょ? 落ちるまでが大変なんだよ。え、恋に落ちるまでも加点方式なの?」
私が聞くと、彼女は「うーん」とうなりながらジンジャーエールを口に含み、数秒後、コクリと頷いた。
「だから、あたし、すぐ恋しちゃのか」
「うん。しかも、加点されていく点数が高いんだよ」
「うんうん、平気で100点超えてくよ」
「バスケじゃないんだから」
彼女は「確かにー!」と笑いながら、ポテトをチリソースにディップした。
マキコは恋多き女だった。
容姿端麗で少しの天然さを兼ね持つ彼女を放っておくことの方が難しい。
いつも誰かに恋心を抱いているので、二人で食事に行くと、最後には必ず恋愛の話になる。
「マキコはそうかもしれないけどさ、私は恋が始まるまでは違うからさ。せっかくピースがハマってきたのに、身体の相性が合わなかったときの絶望感ったらないよ」
チャンジャを口に入れると、あまりの辛さに思わずむせてしまった。
「ちょっと! 辛いもの苦手なのに食べる癖、ほんとに治しなよ!」
マキコは私に水を差し出しながら「でもさ」と続けた。
「ハルは本当にバカ。最後にエッチを持ってきちゃダメなんだって! 女は肉体関係を持ってからが始まりなんだよ? もう学生でもないんだから、少しでもアリだと思ったならGOだよ」
確かに一理あると思った。どれだけ会話が弾んでも、夜に本性は現れる。
性格などのピースのズレは許容できても、肉体関係のピースだけは少しのズレも許容できない自分に気付いた。
赤く染めた舌をヒイヒイさせながら考えていると、それまでの楽しい雰囲気とは一転して、マキコは真面目な表情になり、自分に言い聞かせるかのように話を続けた。
「あたしは好きな人とはたくさんエッチしたいし、したくない時はちゃんとしたくないって伝えられる関係でいたいからさ。むしろ、肉体関係が一番重要かもなって思ってるよ。だから、そこをゴールに設定しないんだよね。エッチが神聖な行為だと思ってるのって学生までじゃない?」
恋多きマキコを煙たがる人は多い。
しかし、彼女には自分の恋愛観がクッキリと見えている。
そして、自分の気持ちに正直だ。
だからこそ、恋が必然的に多くなるし、恋愛のトライアンドエラーを繰り返すことが出来ない人間が彼女を疎ましく思ってしまう。
私は、そんなマキコがカッコよく思えた。
「で、そろそろ、いないの?」
「うーん・・・」
「もー! せっかく美人なのにもったいない! 感覚的にアリだと思う人とかはいるでしょ?」
パッと頭に思い浮かぶ男性は何人かいたが、それは好きという感情よりも、マキコに言われたような感覚的なもので、ボンヤリとしたものだった。
そのうちの一人に、8歳年の離れた佐川オサムの顔があったのだ。
「うーん、まあ、それはいるかな」
私は、ポテトをチリソースにディップした。
2時間21分・1570字
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