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【小説】 知りたいから教える。


 「誰かに教えることが一番の勉強になる」って聞いたことない?
 私はある。しょっちゅうある。親友のミウはまさにそうだった。勉強できない私に懇切丁寧に教えてくれた。「なんでミウはそんなに優しいの?」って聞いたら、「教えることが自分の勉強にもなってるから」だって。多少の照れ隠しはあると思うけど、大部分が本心だったと思う。

「ミウ、凄くいい感じ! Bメロ最初のアウフタクトをもっと意識してもらうのと、もう少し歌詞をイメージして、ベースが踊ってほしいかも!」

 ブースにいるミウは真剣に頷いている。ペンで譜面に何かを書き込み、目を瞑ったり、指遊びをしながらイメージを膨らませていた。コントロールルームには、ベースの低音がボンボンと響いている。単一に聞こえる低音だが、ミウのベースは、何かを語っている気がした。

「整ったら教えて下さい!」

 今度の私の言葉には何も反応がなかった。黙々と弦を弾いて、微調整をしているのがわかる。ミウは反射的なタイプというよりも、少し時間がかかるタイプ。自分の中で整理して、流れを掴まないと気分が乗らない。

「ミ、ミウちゃんは、ほ、ほ、本当に丁寧な人だよね」

 後ろのソファで三角座りしているアキちゃんが優しく言った。

「た、たぶん、日常生活も、こうやって過ごしてるんだろうね」
「うん、昔からミウって、こんな感じかも。自分で考えながら、物事を進めていきたいんだろうね。で、それを私が全然違う角度から壊していくの。だから一緒にいても面白くてさ。ミウも多分、同じことを思ってて、時間はかかるかもしれないけど、ついてきてくれる。ミウはとっても柔軟だから」

 ミウの話をするほど、ミウを理解しようとしてる自分がいた。
 ボンボン、ベンベン響く丸い音が、ミウの生き様を表している気がした。合理的に考える部分と、人間的な部分が混ざっているから、クールとかサバサバしてると言われるけど、本当のミウはたぶん違う。この音を聴けばよく分かる。

「こっち側にきてから、色々発見があるよ」

 そう言ってブースの中を覗くと、ミウが大きく息を吐くのが見えた。
 すぐにマイクのフェーダーをあげ、声をかける。

「じゃ、いくね?」

 ミウはコクリと頷いた。


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