【小説】 ブルー
「いつからピアノ弾いてたの?」
「3歳くらいだと思う。覚えてない。そっちは?」
「私は高校に入ってからドラムを始めた! それまではまったく」
「バンドメンバー、みんな、そうなの?」
「ヴォーカルのアキちゃん以外は、みんなそう。だから、最初のライブはすごかったよ(笑)」
「やっぱり、あの人か。なるほどね」
「アキちゃんは、本物の天才だと思う! リオンくんも相当だけどね!」
「ありがとう。その人って、何者なの?」
「何者って(笑) 別に普通の女の子だよ」
「ふーん」
「やっぱ、リオンくんの目からも、すごいと思った?」
返信なし。以上6通。
音楽祭から一週間。
私たちのメールはここで途切れた。
何度も何度も彼からのメールがないか携帯電話を握りしめる日々。
これはやっぱり恋なのだろうか・・・。
彼は音楽祭の日から学校には来ていないらしい。噂では転校するんだとか。でも、そんなことメールでは聞けなかった。なんか、デリカシーがない気がしたから。私もこの春からは、大学に行かないし、メールも電話番号も知ってるんだから、聞かなくてもいい気がしたんだ。
「んん、なんか停滞してる」
卒業式の練習のために学校に来る数日。
学年単位で動くから、時間は長いし、面倒くさい。
合唱曲「大地讃頌」のパート練習。ああ、退屈だ。
「なにが?」
同じアルトパートのミウがあくび混じりで聞いてくる。
周りを見ても、皆、似たような表情を浮かべていた。
「なにもかも」
ぶっきらぼうに答える私。
進路先が決まって浮かれていた時期はあったが、いざ卒業間近に迎えると、気分が晴れなかった。マリッジブルーってこんな感じなのかしら。
リオンからの連絡が途絶えたこと、バンドの今後、私の将来。
すぐに答えが見えてこないことの数々。
悩んでたって仕方ない案件の山積み。
今を生きるというよりも「次の課題は次の課題は」と身構えていることに、疲れてしまった。
「なんか分かるかも」
ミウは再びあくびをした。
なんだろうね、まったく。
進んでる感じがしない。音楽祭では、あんなに心躍っていたのに。
「大地を愛せよ。土に感謝せよ」
「は? なにそれ」
「かしだよ。歌詞。ミウ、土に感謝せよ!」
ミウは、ぷははと思わず吹き出した。
そして、譜面に目を落とし、オウムのように繰り返す。
「大地を愛せよ、か・・・」
大地ってなんだろう。愛するってなんだろう。
ヒロナはまるで身の入らない日々を送っていた。
窓の外には、濃いブルーの空が広がっていた。
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