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【小説】 卒業するって、考えるってこと。


“そっか、悩むようになったのか・・・”

 ヒロナはボンヤリと窓の外を見上げ、ミウとの会話を思い出していた。
 グラウンドの向こう側には、家々が連なり、道路、公園。もっと先には駅があり、街に繋がる。学校という内側から見る景色は、こんなにカラフルに見えるのに、一歩向こう側に足を踏み入れると、世界が恐ろしいほど残酷に感じてしまう。
 それは、外側から見る学校も同じこと。

 誰も彼もが、他人に無関心。
 興味の中心には自分がいる。

 早いうちから当たり前のことに気付けたからこそ、周りを気にせず行動ができたという面もある。
 バンドなんてまさにそうだ。
 誰も自分のことを気にしていないのだから、やってしまった方がイイに決まってる。そう考えて生きてきた。
 そして、この仮説は、正しかった。
 バンド活動が活発化し、大人の社会に混じる機会も増えたけど、子どもと何も変わらない。
 他人に無関心で、興味があるのは自分のこと。
 私も、そうだ・・・。

 三学期が始まってから、こうした時間が増えていた。
 先生の声が、冬の乾いた教室に空虚に響いていたが、ヒロナの耳には何一つ届いていない。目に入る景色に感覚が反応するだけ。
 カラスが空を舞い、ワンワンと、どこかで犬が叫んでる。平日の昼間からスポーツウェアを着込んで走る人がいれば、とぼとぼと歩く老人もいる。連なる家の一つ一つに物語が存在するのだろう。
 誰しもが子ども時代を過ごし、夢を追っていた時期が、きっとあったはず。

“私の夢ってなんなんだろう・・・”

 そのことばかりが、ヒロナの中心にあった。
 ミウは「大学に行かないって決めることもそうだけど、ヒロナは夢がハッキリしててすごいよ」というけれど、胸の裡ではハッキリなんてしていない。
 常に問答。
 自問自答の繰り返し。

 この春から、ヒロナはフリーターになる。
 カッコよく言えば、アーティスト活動に専念するということだが、世間的な立場から言えば、フリーターと変わらない。
 だからこそ、自分の現在位置を確認したいのかもしれない。
 自分の人生という地図を持ちたいのかもしれない。
 
 ヒロナは考える。
 今日も、明日も、明後日も。
 音楽が、バンドが、彼女を変えた。

 ヒロナは、無意識のうちに、音楽を「道」にしようとしていた。


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