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【小説】 恋バナ


 「アキちゃんって、リオンくんのこと好きなの?」と聞くと、アキちゃんは緊張したように耳を真っ赤に染めた。わざとらしく下を向いたり、そっぽを向いたりして、ニヤついたりかぶりを振ったりと、大忙しのリアクション。
 あまりにも分かり易すぎる反応にツッコもうと思ったけど、本人の口からどんな言葉が飛び出してくるのかを待ってみた。私って、いじわるだよね。

「・・・わかんない」

 しばらく経ってから、アキちゃんはポツリと言った。二人でいるには長すぎる沈黙だったと思う。だから、そう言われた時、私は思わずゴクリと音を立ててアイスココアを飲み込んだ。空気まで一緒に飲み込んだから、お腹が膨れる。ぎゅるると喉がなった。
 
「リオンくんのことが好きなのかもしれないし・・・」

 素直すぎる言葉だった。
 その純粋さが、ナイフみたいに私の胸に突き刺さる。
 
「もしかしらら彼のピアノが好きなのかもしれない・・・」

 私も同じだよ。
 だけど、たぶん、その両方なんだ。

「まだ、わかんないの・・・」
「うん」

 私はうなずいた。
 アキちゃんは、言葉に詰まらなかった。
 どこにでもいる、女の子の顔をしていた。
 楽器が上手いとか、歌が上手いなんて微塵も感じさせない。

「彼のピアノを聴いていると、胸がじーんとして」
「うん」

 なにげなく語る姿に、悲しくなる。
 私は、うん、しか言えないことに悲しくなる。

「リオンくんのピアノだって、なんか分かるの」
「うん」

 汚い感情が湧き起こる。
 つらくて恐ろしくて、ドロドロする。

「でも彼のことがスキとか、そういうことでもない気がして・・・」
「うん」
 
 嬉しそうに喋られてもイヤだけど、こうして迷いながら喋られるのはもっとキツかった。そっぽを向いて、本気で照れてる様子が痛かった。ステージの上にいる時みたいに、スラスラ言葉を喋れられるのが、イヤだった。いつもみたいに、言葉に詰まりながら話してよ。
 やっぱり、アキちゃんは本気だ。本気で彼のことが好きらしい。こんなに広い世界なのに、どうして同じ人を好きになるんだろう? なんで?

 私は目をそらさずに、ずっと彼女をみていた。
 アキちゃんは、ミルクティーをズズズとすすった。 
 少しずつ動揺も落ち着いてきたようで、やっと目が合った。
 綺麗な目。黒目が大きくて、ひんやりした目。でも、冷たいとかじゃない。悲しみを乗り越えたみたいな、優しい眼差しだった。

 アキちゃんが、ほんの少しだけ微笑んだとき、とうとう私は目をそらしてしまった。

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