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【小説】 最高


「緊張してますか?」
 鏡越しにマキコが聞いた。どことなくはにかんだ様子だが、眼には真剣な色が見える。必死で、緊張を押し殺そうとしているのだろう。
「ううん、いや・・・うん」
 微妙に間のあく、なんとも歯切れの悪い回答に、自分で可笑しくなる。素直になりきれない会話に照れ臭くなってしまった。
「ですよねえ・・・、これが高校最後のライブですもんねえ」
「・・・そうだねえ」
 途切れ途切れに沈黙が訪れるが、マキコは気にしない様子でヒロナにメイクを施す。丁寧にパフを叩き、何度も鏡越しにチェックをする。
 目を閉じて、開ける。その度にヒロナはマキコの顔を見るが、微妙に視線が合わない。
 二人の後ろ、会話が聞こえているのか分からない距離で、アキがギターと戯れ出した。ライブの練習とは違う。指ならしを兼ねた、暇つぶしや気分転換を目的としたリラックスした音色。私には奏でることができない、素直で優しい音。
 顔をブラシが通過する。ギターに合わせて、アキのハミングが聞こえてきた。ウグイスが鳴いてるような、春の陽気に包まれた気分になり、とろんとしてしてしまう。
 緊張すると言ったそばから、コクリコクリと船を漕ぎ出すヒロナに、マキコは思わず頬が緩んだ。
 本番前の喧騒の中で過ごす、ゆったりとした時間。・・・最高!

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