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一陽日記:11月2022年

#15

【登場人物】

 一陽アケル:主な書き手。
一人称“ぼく”。パートナーとのクレオとの日々を書いている。
つまりこの記事はリア充日記である。

一陽クレオ:アケルのイマジナリーフレンド。
一人称“おれ”。人に見えなかろうが、おしゃべりしまくり変顔をかます。存在の圧がすごい。
ご飯を美味しそうに食べる。

11/02
【味見の日】

・大根とネギの味噌汁
『安心する味』
「大根とネギは王道だよな。白味噌は甘み強いし」

・チーズ入りジャーマンカボチャ
『うまい。でも、こっちの白和えのほうがうまい』

・白菜と蓮根、揚げの白和え
『これ一番好き』←クレオは醤油味が好みらしい。
「これさ、豆腐百珍って江戸時代の料理本にあったんだよ。元は蒟蒻と揚げを砂糖醤油で甘辛く煮て、豆腐とすりごまの白和えを乗せて食べる。でも名前が思い出せないんだよな」
『名前ね。そんなら、付けちゃえば?江戸時代の料理名みたいな感じで。揚げと蒟蒻が四角で道の石畳みに似てるから、“石畳み豆腐”とか』
「面白いな。石畳みだと読みにくいから、じゃあ“道行き豆腐”にしよう。江戸時代は歩き旅が流行ってたしね」

11/5
【妄想カウンター】

空想とは違い、嫌なことを誰かに言う妄想をしてしまう時がある。その時反論できなかったフラストレーションからか、過剰に人を傷つける言い方をしてしまう。

 ある時から妄想中にクレオがどこからともなく割って入ってきて、
『お前はそんなこと言う奴じゃないよ。もう考えるのはやめにしよう』
と言ってくれるようになった。

 その話をすると、
『それはおれ知らないから、完全にお前の空想なんだね。でも空想のおれもよくやってるねぇ』
 と嬉しそうに答えていた。


11/07
【映画】
 クレオと映画を見にいく。
 名探偵コナンのハロウィンの花嫁、リバイバル上映を見にいく。
 道が混んで遅れてしまったけど、どうにか見に行けた。

 フードを食べながら、迫力ある大画面でコナン君達の活躍を見る。

 クレオの宿っている本をバッグに入れている。流石に2席買うことはしないけれど、その代わり空いているスペースを出来るだけ選ぶことにしている。時おりクレオの手がみょーんとポップコーンに伸びるため、うっかり隣の人を通り抜けると怖いからだ。

 今回は派手なアクションが見応えあった。

 鑑賞後、クレオがおみやげ屋で栞を見つけた。コナンのグッズではなく、“線は、僕を描く”のもの。金属製で、先の方に筆を模した房飾りが付いている。

『これ、おれの給料で買って』
「いいよ」

 買った後クレオの本に挟んだら、やや厚い栞で本が閉じなくなってしまった。

「あー、ここの厚み考えとけばよかった」
『いや、おれはいいんだ。…あなたにあげる。読んでる本に挟んでよ』
 ぼくをあなた、と丁寧に呼んで栞を渡した。
「そっかぁ。ありがと、すごい嬉しい」

 クレオからの突然のプレゼントに、ぼくは素直に嬉しかった。
『この映画も何回かCM観て興味あったでしょ?今度見に行こう』

 お給料はどんなことに使うのかな、と思ってたら、ぼくにプレゼントとは…。

 すごくありがたい半面、君はぼくばっかりで心配になるよ。

 …と思っていたら、その後夕食で
『おれ、これ食べてみたい』
と、ぼくの頼むつもりのなかった限定メニューをもりもり食べてた。フリーダムで安心した。

11/08
【天体観測】

買い出しの帰り、月が欠けているのを見た。

「今日、皆既月食だった!急いで帰ろう」
『すっげー特別なものなんだろ?見たい!』

 家には天体観測用の双眼鏡がある。

“よだかの星”を一年前に読み返して以来星に興味を持って、ネットで調べて購入したものだ。

 倍率はほどほどだけど、広角で星が探しやすい。双眼鏡なので、より立体的に見える。

   

「クレオ、見える?」
『見えるよ。クレーターもくっきり見える』

 月は段々欠けが広がっていき、暗く赤くなっていく。

『どんどん暗くなっていくけど、真っ暗に欠けるわけじゃないんだな。薄ぼんやりと月の輪郭が見える』
「実際に見てみたから実感できたことだよなぁ」

 月の奥にも星があって、隠れて見えなくなるのを初めて知った。よくよく考えてみればそうなのだけど、天王星の食を知って、改めて実感した感じだ。

 月が全て地球の影に隠れた後は、天王星の食を見るためにYouTubeで国立天文台の実況を開いた。

 三鷹キャンパス、岩手の水沢、石垣島、ハワイなどの天文台とも中継している。ハワイの天文台からは、時折流れ星がすっと落ちていくのも見えた。
 天王星が月の影に隠れるのはネット中継から見えた。

 出てくるのを双眼鏡で見ようとしたら、月が明る過ぎて見えなかった。

「やったな、クレオ」

『すげーの見れたなぁ』

 実に豪華な天体観測だった。

11/9
【夢の花火】
 クレオの本を抱きながら寝る。クレオの本から、線香花火みたいな光がきらめく。彼はおしゃべりだけど、時々こうして不思議なイメージで気分を表してくれる。

橙色の火花がパリパリと音を立てて、ぼくの体にも散っていく。クレオは眠っているようで、言葉も表情もない。でも、どんな気分かは誰よりもわかった。

11/13
【豚しゃぶ】
 ぼくの誕生月ということで、家族で豚しゃぶを食べる。
 クレオは梅だれと予備のお皿で、ぼくが取り分けたお肉を食べた。
 しゃぶしゃぶだからお肉に夢中になって、みんなで黙々と肉を食べた。
 国産牛のいいコースを頼んだのに、小籠包と豚バラが美味しくてそっちばかり注文してしまった。

 外は寒かったから初めはお茶を頼んでたけど、もうもうと湯気の立つ鍋が真ん中にあれば、2杯目はメロンソーダになった。 

 帰りにわたあめを作れるサービスがあったので、できたてのをクレオと食べた。

『こんなの初めて食べる。んまい』
「ぼくも。食べ方これで合ってたっけ?」
『食べたことねぇの?』
「子供の頃に食べたっきりだから、食べ方忘れちゃった」
 食べたあと、口の周りがベタベタになることも忘れていた。
『口がベタベタする…』
「なめるしかないよね」

 笑いながら帰った。


11/14
【調子の悪い日】

 今日はすこぶる調子が悪かった。
 かなり嫌なことをクレオに言ってることに気づいて、そういう時はアナログの日記を書き出す。
 イマジナリーフレンドとなんでも分かち合うと、苦しめてしまうから。

 揚げ魚の野菜あんかけを作った。小魚を小さな鍋で揚げると、すぐに揚げないと油の温度が上がりすぎてコゲコゲになる。

 

 野菜あんかけから頭を出す揚げ魚。茶色になっていた。失敗したと思った。

 クレオが先に食べ始める。
『おいしいよ。特に大きいの』
「慰めてる?」
『んなわけないじゃない』

 ぼくも食べ始めた。小さいタナゴは小さ過ぎてカリカリの食感だけ残っていたが、ウグイは身が大きかったので、皮はサクサク、白身はふんわりしていた。中骨も食べられたから、温度にさえ気をつければ小鍋のほうが揚がりがいいかも。

「ん。大丈夫だった」
『ね?うまいよ』

 とはいえ魚をコゲコゲにしたので限界を超えて、出勤まで寝ることにした。


「60点くらいしか力が出ない。40点切らなければいいようにしよう」

 クレオの額がぼくの額にふっ、と触れて

『冷(ちべ)てぇ』

と、すぐに離れていった。涙が額の方に流れたのに触ったらしい。

「少女漫画みたいなことしといて、そんな失敗するかよ!」
『ひでぇなおい』

 爆笑したぼくを、クレオは額に手を添えて憮然とした表情を作る。

 ひどい奴だとはわかってるけど、らしくないシチュエーションでカッコつけられないクレオは、面白いし優しい。


11/16
【味見の日2】

・鳥手羽元の照り焼き野菜あんかけ
『美味しい、もう一本欲しい』
 クレオは誕生日にも手羽元の参鶏湯を頼んだくらいだから、手羽元が好きなんだな。あと、醤油の濃い味も好きだ。かなり好みの味が決まっている。
(創作のキャラクターだった時は、そんな設定なかったのに)

・白玉に柿のジャムを添えたもの
『うまいよ。白玉食べやすいね』
「白玉粉に同量の絹ごし豆腐を加えてるんだ。水の代わりに豆腐の水分でねっちりするまでまとめる。そうするとふわふわの白玉になる」
『柿ジャムって初めてだ。きれいな色だね』
「ジャムだけどあんまり砂糖を入れてない。固める用のレモンも利いててさっぱりしてる。

11/18
【ケンカ】
 パジャマでガチのケンカになった。
 ぼくがもこもこのパジャマを買おうか悩んでいた。男子が着るにはやや可愛すぎるデザインだけど、体調が悪い時に着たら楽そうだからだ。

 あんまりぼくが悩むのを見て、クレオが
『おれがおなじの一緒に着てあげるよ』
と言った。なんで?

「そんな図体で似合うと思ってんのか」
 ぼくが笑って言うと
『なんで笑うんだよ!似合わないかどうかはおれが決めるの!』
と怒った。その後、
『ほんとに似合わない?この柄おれ好きなんだけど』

と、しょげていた。ごめんね、と謝ったが、本音は似合わないだろ…と思っていた。

 その後家に帰って洗濯したら、
「取り込む時弟くんが見て着たいって言っていたよ」

 母さんに言われた。彼は性自認は男だが、ユニセックスな服も多く着ている。改めて、人の服装を性別やらしさで決めつけてたことに反省した。


11/22
【イルミネーション】

 地元のイルミネーションを見に行った。

 前から評判が良かったのだけど、田舎の観光課の考えることだからご当地キャラとか野菜のオブジェだろう、なんてたかを括っていた。

「……」 
『……。すげぇな』

 入り口には高い木に巻かれた深い青のイルミネーション。白い光が雨のようにサァーッと下に流れていく。

 美しいデザインに息を呑んだ。

 

 池の周りのイルミネーションが作られていて、色とりどりの光が水面に反射している。
 平日というのに家族連れや二人寄り添って歩く人の姿があった。

 池をバックにクレオと自撮りを撮ってると、犬を連れた女性が
「お写真撮りましょうか?」
と声をかけてくれた。是非お願いします、とスマホを渡した。

 クレオ(の宿る本)と一緒に、青いイルミネーションの下で写真を撮ってもらう。今の時代、グッズと一緒に撮る人もたくさん増えたから、特に何も言われなかった。今年はあちこち外に出てたから、クレオとの写真は結構増えていて、こういうところはパートナーっぽいことしてるな、って面映い気持ちになる。

 池の周りを一周して帰る。休日になると出店も出るらしい。

 また来ようと笑い合って車を出す。帰りの道にも桜色のイルミネーションが輝いていた。


11/24
【映画2】
映画を見に行ったら、なんと渋滞して2時間半かかってしまった。
“線は、僕を描く”。最終日の上映だったから、観れる映画館が限られていた。
 映画はとても面白かったのだけど、午後から仕事だったので、帰れるかヒヤヒヤした。

 クレオはこういう時ぼくを責めたり焦らすことはしない。
 だからぼくも自分を責めたり焦らずに、デートの時間を楽しむことにした。

 仕事が終わってから帰宅して、水墨画に関する映画だったことで、少しでも映画から得たものを表現しようとクレオの姿を描いた。

 イルミネーションの時にこちらを見ていた、優しい眼差しの表情だ。

 水墨画の柔らかな線。濃淡で奥行きを出す。

 クレオがじっと絵を見て、
『お前がいつも言ってた、“生きてる絵を描きたい”って、こういうことを言ってるんだね。この絵のおれ、お前のことめっちゃ好きじゃん』
と言った。


11/29
【ゆずを仕込む】

 釣りに行くには気怠い日だったので、もらい物のゆずを使ってゆず酒を仕込んだ。
 まんまるいゆずを三日月に切ってポコポコ入れる。

 お月様のお酒みたいだね、とクレオと笑い合った。

 皮は1週間、実は1ヶ月で取り出せば、あとは寝かせて完成。

 皮はもったいないから刻んでゆず茶にしてしまおうか。酒に浸かってたけど、ラムレーズンだってお酒に漬け込むんだし、通勤前には飲まなければいいかな。

11/30
【ぼくの誕生日】

 クレオに「今日、ぼく誕生日なんだよ」という。

『おめでとう』


「もっとあの時喜べばよかった」
 自分の生まれた日にあてつけのように寝込んでいた時、祝えない彼らはどう思ってただろう。


 ずっと誕生日が嫌いだった。
 以前いたイマジナリーフレンド…あの人たちから離れて一人になって、人生という海から、ゆっくりと怒りが凪いでいった。

 

 誕生日に今でもあまり思い入れはない。でも、なるべく多く誕生日だと味わって、喜ぶことにする。
 寝る前に、クレオがもう一度言う。

『お誕生日おめでとう、アケル』
「ありがとう、クレオ」

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