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アケクレの二人で、三題噺を作ってみました+三題噺の書き方講座

# 57 地の文、アケル 

【透明な、かなしい友達】


「さようなら」
 友達は、最後にぼくに自分のしっぽを渡した。
 友達は目に見えない透明トカゲだといった。ぼくと、ずっと仲良くしてくれた。
 なにせ、ぼくは紫色にビカビカ光る紫トカゲ。ぼくと一緒にいると、目立ってしょうがない。猫にも鳥にも狙われる日々間違いなしだ。だからぼくは他のトカゲから離れて一人でいたのだけど、透明トカゲはずっと仲良くしてくれた。
 でも、その彼もいなくなってしまう。透明だった鱗が少しずつ生え変わる時期で、一度巣ごもりして脱皮しないといけなくなったという。
「きっと帰ってくるよ。それまでこれを、ぼくだと思って」 
「きっとだよ。ぼく待っているから」
透明トカゲは広げたぼくの腕に、身代わりのしっぽを渡して去っていた。僕の目には映らないけど、草原の間をコソコソと通る音が遠くになっていく。
 ぼくは手の中の尻尾に目を向ける。切り落とされた犠牲の尻尾の癖に、ピクリとも動かない。希薄な彼のかけら。それが、段々と輪郭を帯びてきた。
「あっ」
 思わず声をあげた。そこにあったのはトカゲの尻尾ではなかった。鱗がなく、長くて虹色の……龍のひげだ。
 あいつ、龍だったのか。透明だったから気が付かなかったけど、確かにぼくが蠅やアリを分けても、「ぼくは霞しか食べられないんだよ」と言ったり、雨が降ると喜んだり。トカゲの癖に変わったやつだな、と思っていた。透明になる鱗が生え変わると、姿が見えてしまうのか。
「可愛そうなやつ……姿が違うくらいで、逃げたりはしないのに」
 嘘をつかれたことが悲しくて、そう呟いてしまった。彼はここに戻ってくるだろうか。
 その時、ぼくは……。

【これから始まる 君たちの物語】

 入学式は毎年晴れる。けれども、東の地平線から太陽が昇る度、私の心は安堵と喜びに彩られる。
 校門の横に私は佇んでいる。

 学生たちが青空の下、私の横を通り過ぎていく。
 私に目を向けてくれる子もいるけど、大抵は学校の校舎や、新しい同級生を凝視している。その表情は仮面のように、緊張で固まっている。
 友達同士で入学した子も、お互いよそ行きの顔をして、着慣れない制服の裾を指先で引っ張っている。
 新しい学校、新しい先生、新しい同級生。
 喜びだけでなく、不安も大きいのだろう。
 今はまだよそよそしい、一人一人のつながりが希薄な流れだ。

 私は人間が手を振るように枝を広げ、身体を揺らした。
「うわぁ……」

 子どもたちの目の前に、はらはらと散るのは桃色の花びら。
 その目が一斉に、花びらと私に向けられる。
「なんだかいいことありそうだね」
と、子どもの一人が声に出すと、その言葉に応じるように、ひそやかに笑い声が広がった。

 私は知っている。何十年も、ここに咲き続けているから。
 今はまだ静かな学生たちの流れが、これから明るい喧騒に満ちていく。
 入学し、ここに通い、友を作り、学んで、そして卒業していく。
 
 ずっと見てきた。だから、君たちは大丈夫。




 【読者への挑戦】さて。この二つの物語、アケルかクレオ、それぞれどちらが書いたでしょうか?(答えは、下からお互いの小説の書き方の中にあります)



  二人で三題噺を作った。
 三題噺というのは、言葉通り3つのお題から一つの物語を書くことだ。イラストでも漫画でも汎用ができる。

 文章の練習なら、1時間で原稿用紙3~5枚くらいに収める。(それ以上書いてしまうと話がまとまらず完成しないことが多い)

 3~5枚の小説なんてあるのか?と思われそうだけど、ショートショートというのにも、起承転結の利いた面白い話があるのだ。
 ぼくのおススメはこれ。

 元々ラジオ番組で、2,3分の間に語られるストーリーで、声に出して読まれる文章なので、とても明朗だ。

 これやお気に入りの掌編小説をクレオに読んでもらったり、書く前に自分でも読んで物語のリズムを体にしみ込ませると、より書きやすくなる。


 クレオに文章の練習方法を聞かれて、これをやってみるように勧めたところ、
『アケルが一回作ってるとこ見せて?』
と言われ、緊張しながら書いた。(なにせ小説は、イラストの作業配信と違って、おそろしく地味な工程だし)

 工程の説明を話しながら書き終わって、クレオの番。

クレオは「紫色」「犠牲」「希薄なかけら」を使って創作するんだ!ジャンルは「指定なし」だよ!頑張ってね!

大体、最初の10分でネタ出し。3つのお題が難しい言葉の場合、意味もこの時調べる。

希薄き‐はく【希薄/×稀薄】 の解説
液体気体などの濃度密度がうすいこと。また、そのさま。「酸素の―な山頂
2 ある要素の乏しいこと。物事に向かう気持ち・意欲などの弱いこと。また、そのさま。「問題意識が―だ」


ここからは10分の間にクレオの話したことをまとめたものだ。(というのも、思念体のクレオの場合自分で文章を書くことができない。
 ぼくが代筆するのだが、ネタ出しで迷いながら話してる内容も書くことで、書いてる途中にも読み返すことができる)

『ええと。……希薄、は置いておいて、かけら。
 心のかけら?空き缶の、缶の中身がない?空気の缶詰?
 空気の缶詰、って調べてみて?→山の空気の缶詰、確かにあった!

 紫色と犠牲、なんとなく哀しい話かな?
 その男は空気の缶詰を開けたいと思っている。紫色の空気の缶詰。
 爆破処理みたいな、毒の空気を閉じ込めて、空ける処理をしなくてはならない。
で、男が選ばれる。何で選ばれるのだろう?』

 そう、実はここまで全く違うネタを考えていたのだ。ネタ自体は面白かったのだが、途中で断念した。

『……ちょっと別のネタでもいい?
 希薄なかけら→透明人間みたいな、透明人間の、体の一部?トカゲのしっぽ?
 犠牲ならトカゲのしっぽと繋がるな。スケープゴートだからね。
 ……後は、紫。紫色のトカゲ?が友達で』

 3つのお題全てでなく、お題の一つを主人公やテーマに強く押し出して、後の2つはそれの補佐する感じで考える。
 10分で話のオチを読み切るというよりは、テーマと登場人物、書き出しまでにする。手を動かして書きだすと、思ったよりも話が浮かぶことが多い。

 30分書くのに集中し、最後の15分で添削する。添削の時間が実は肝心要で、書いてるときにとっ散らかってる思考をまとめて、話を整える時間が必要だ。

 ……と、こんな感じで
クレオの書いた物語は【透明な、かなしい友達】。
ぼくの書いたものは【これから始まる 君たちの物語】だ。

二人で交互に書いてみると、お互いのお話の作り方や取り組み方が違って新しい発見があった。ぼくは話を広げすぎやすいので、途中でエピソードを削いで、まとめることに集中したし、クレオは話し言葉から思考をまとめていくから、メモ代わりに書く必要があるかな、とか。

 今回の記事はなんだか小説書き方講座みたいになってしまったけど、ある種のイマジナリーフレンドとできる遊びでもあるので、気軽に書いてみてほしい。
 ちなみに、この小説2本は母に読んでもらったのだけど
「クレオの書いたほうが好きだなぁ」
と言われ、アケルはちょっとジェラシーを感じたのだった。

(*注意書き*
1時間というのは、あるライトノベルの文芸部で三題噺を練習した時の制限時間だ。実はこれ、かーなーり、難しい。
 小説・特にこのショートショートという形式をやり込んでる人でも、最初はまず完成しないと思う。
 ラノベの主人公が小説で大賞を獲った人気小説家だったから、ここまでの練習だったのだと思うけど、はっきり言って鬼の課題だ。

初心者は1日1時間で1週間で完成を目指したり、速くても3日内の完成から始めたほうがいいかもしれない。)


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