見出し画像

Family.27「三浦家」になろうよ

あらすじ

「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。

“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。

まずはこちらから↓

家系ラーメンとは?

総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。


 ブラジルでは子供が観光客に花を売りつけている頃、イタリアでは恋人がトレビの泉でジェラートを食べていた。その時、ベトナムでは屋台のおばちゃんが観光客にキレており、アメリカではタイムズスクエアを闊歩するビジネスマンがネクタイを締め直す。同じ時、日本ではフォロワー数が多い謎の美女と預金額が多い謎のおじさんが肉を突っつきあっていた。

 昭和では、体育教師が10歳にも満たない悪ガキを平手打ちして満足気に笑う。(時代による文化・風俗の変遷を表現すべき為、あえてそのまま表記しております)

 平成では、ヒスを起こした女教師が10歳にも満たないいたいけな子供を怒鳴りつける。(時代による文化・風俗の変遷を表現すべき為、あえてそのまま表記しております)

 令和では、親たちのディスを恐れた新人教師が10歳にも満たない狡猾な子供を異常に丁重に扱う。(時代による文化・風俗の変遷を表現すべき為、あえてそのまま表記しております)

 出会い系サイトがマッチングアプリに、援助交際がパパ活に。ルーズソックスから紺ソに。紺ソからショートソックスに。看護婦は看護師に、スチュワーデスはキャビンアテンダントに。言葉も狩られ、憧れだったKAWASAKIのゼファーは生産中止になった。

 そして昭和から令和になった。もう令和が始まって6年。要は、世は、変化してるよ。って事だよ。平成ってなんだったんだろう。前略プロフってなんだったんだろう。

 しかし、遥か昔から存在するエジプトの壁画には「最近の若者は言葉遣いがなってない」と記されていたそうだ。人間の本質はいつの時代も変わらないらしい。

 それより団塊の世代とかロスジェネとかZ世代とかみんなネーミングズルくない?就職氷河期でさえなんかカッコよく聞こえるぞ。あたしらなんか「ゆとり世代」名前ダサ過ぎないか?最弱かよ。

 そんな事を考えながら東京の外れで空腹になっている頃、インスタグラマーが港区に永遠に籠って肉で巻いた雲丹を食べて痛風になっていた。一生高級寿司と時計の写真をアップしてればいいさ(時代による文化・風俗の変遷を表現すべき為、あえてそのまま表記しております)

 相変わらず言葉遣いがなってないようで。時代は変わってもあたしは変わらないみたいだった。

“レペゼン葛飾”金町で打ち立てた金字塔『三浦家』

 ここは『武蔵家』総大将「三浦慶太氏」が地元葛飾区に立ち上げた“新しい形の”家系ラーメン店だ。

 
 最近では「ネオ家系」と呼ばれ、家系界にムーブメントを巻き起こしている。詳しくはこちらの記事から。


 流石の話題さだった。お昼時にも関わらず長蛇の列。並んでいる時の椅子率の高さたるや否や。正直、都心から離れたこの場所でこんなにも人が集まるなんて。と思ってしまった。

 先に食券を買い、新しいiPhoneを買いに来た感覚で、代表待ち禁止の列が短くなるのをひらすらに待つ。

 先頭近くまで辿り着くと、三浦さんを発見する。寅さんのロンTを着ていてかわいかった。芸能人に会ったみたいにドキドキする。

 入店。壁は『武蔵家』を彷彿とさせる赤、テーブルは清潔感のある白。好みを聞かれ、固めのオーダーとライスをお願いする。

 最高潮を迎えた心臓を抑え付ける様に席に着く。すると早速、白い受け皿に乗った黄色い器があたしの前に置かれる。

『三浦家』の一杯は、見るからに家系っぽくなく、見たことのないビジュアルに…

麺喰らう前に面食らう。



もちろん提供してくれたのは総大将だ。

「泡じゃないとこから飲んでください味変わるので」

言われた通りに泡じゃない所にレンゲをあてがい一口。

 これは完全オリジナルだ。しかし完全に家系ラーメンだ。いや、豚骨が強いあの『武蔵家』だ。

 温故知新を持ちつつ破壊と再生を繰り返す。スクラップ&ビルド。不変さと可変さ。

 “ネオ家系”の意味を感じた所で、フランス料理の「ポシェ」のような泡を味わう。

 美味さがバブル。こんなにも概念をぶっ壊してくれるのか。心の中で新たな文化を奉る。

 そして『三浦家』のスープは、武蔵家の豚骨感が全面に押し出されるかと予想していたがそれを包み込む油が凄まじかった。

木村は拓也。三浦は油。

鶏油の旨みがカリスマ的。ミウアブだ。



 味玉のタレを掬って鶏油に混ぜてたが、旨味の一因はそれだろうか。


 さらに麺は、本当に酒井製麺なのかと思うくらい違う麺の様相を呈する。

 同じサカイでもノリピーと雅人くらい違うじゃないか。麺も別班だ。天才だ。


いつもの様に「お前だけの丼」を作っていると・・・


同じく地元を愛するあのラッパーの声が聞こえる。

こんな東京の隅じゃ無理
そんな状況の不利が武器

ZORN「AREA AREA (Remix) 」

 まさに天から降るように煌めく言語。ZORNや三浦さんが地元葛飾を代表しているなら、オジロと道助は横浜をレペゼンする。

 三浦家が仕組んだ誰にも真似できない極上の味。東京の外れにあるハズレない一杯。家系最前線。本家本元。ここが最善、そりゃ人が集まるわな。

珍しくまくり。

Coolな風が吹く Hotな風が吹く 葛飾の風が吹く。

家系に真剣。かっこいい背中がそこにはあった。

寅さんと両さんの地で積み重ねる研鑽。

東京都葛飾区、本物の讃美歌が鳴り響く街。

都会じゃ生まれないいなたいクール。

――――――三浦家、食べなきゃ死ぬから。

こうして【三浦家】が道助の家族になった。幸せになろうよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?