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Family.34「黄金家になろうよ」

あらすじ

「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。

“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。

まずはこちらから↓

家系ラーメンとは?

総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。


 父が連れてってくれた映画。上がり続けるメーター。自由研究の成果。

 今年も辛い「炎天下」が終わった。

 打ち込んだ部活。ひとりぼっちのクラス。HIPHOPに喰らう。

 毎年「9月」は憂鬱だった。

 遅すぎる青春。黒歴史を編集。夢破れた全部。

 去年が「先週」のように過ぎ去っていく。

 大人になってもお盆休みは関係なかったし、ロングバケーションにも無縁の32歳。

 年齢のせいか最近、昔のことをよく思い出す。過去に興味はない。大切なのは今の積み重ねである未来だけ。そう思っていたはずなのに。

 ヤンキーの呼び出しが怖くて買わなかったKAWASAKIのゼファーを街で見かけたからだろうか。青春ド真ん中のAqua Timezが限定復活したからだろうか。それとも小学校からの友人が離婚したからだろうか。

 もう大人だったあの頃。金が無くて有線のイヤフォンで音楽を聴いていた。バイト休憩の煙草を吸うたった5分だけだとしても。ROCKを流せばスーパースターになれたし、HIPHOPを流せば強くなれた気がした。その時間は無敵だった。毎日のようにランニングしていたあたしに「また今日も走るの?」と同棲していた彼女が小馬鹿にしながら質問して来た事を思い出した。

 最近また有線イヤフォンが流行っているらしい。リバイバルブームで昔の物が至る所で目につくからノスタルジックな感情に駆られるのか。

 目的もなく集まって海を見に行ってたあの夜が懐かしい。同級生を好きになった親友を応援していたあの夏が懐かしい。5時から5時まで飲んでいたあの日々が懐かしい。

 流れてく汗もそのままに青春はあっと言う間に過ぎ去ったが、今もまだ青春だと言う。20歳から40歳までが青春、40歳から60歳までが朱夏らしい。

 そうか、まだあたしの青い春は終わってないのか。だから今も変わらずランニングは続けているし、志半ばの人生を走り続けているのか。

錆びついた過去をその心に仕舞い込んで、輝かしい「今と未来」を想像しながら「みなとみらい」を目指す。

徐々に次第に弱った紫外線。
まだ何も終わっちゃいないぜ。


杉田家の血が煌めく「黄金家」

みなとみらいを南に2キロ、20分弱。此処は京急線「黄金町」。こんなにも名前負けするか、それくらい寂れそれでいて汚い場所だった。

しかし近くには『たかさご家』『千家』『寿々㐂家』『鹿島家』本店支店がひしめき合う“家系激戦区”まさに黄金に輝くエリアでもあった。

大岡川を越えたら目的地はすぐだった。家系カラーの「赤黒看板」が見えてくる。まさに絢爛だ。

いつか横浜に戻るなら住みたい街にある『黄金家』は、家系総本山『吉村家』から初めてお店を出した『杉田家』の姉妹店。直系の流れを汲む伝統的なお店である。


全身白の家系戦闘服を身に纏ったピュアな職人さん、真っ赤なテーブル。期待せずにはいられない。

ドキドキしながら食券を買う。『杉田家』で初めて味わった目玉焼きを味わおうと探すもボタンには「目玉焼き丼」しか見当たらなかった。

吉村家直系「杉田家 本店」
初めての目玉焼きトッピング


「すいません、目玉焼きトッピングってありますか?」

「目玉焼きなんかないよ!」怒られた。

無い物は無い。昔のことは昔のこと。振り返るな、気にするな。大切なのは今だ。

丼なしの目玉焼きを出してくれれば良いのに…そんな悲しみに暮れながら木箱を見つめる。


近くに『たかさご家』があるから酒井製麺ではなく佐々木製麺なのだろうか。そんな想像を膨らませていると、ご対面の時間になっていた。

圧倒的な美しさ。黄金の輝きがキラキラと存在感を放つ。

我慢出来ず猿山連合軍よろしく黄金のスープをサルベージする。

天地がひっくり返る美味さに、思わず叫び出す。

おっさん聞こえてるか!
黄金郷は此処にあったんだ‼︎



声を枯らしながらも、黄金の探索は続く。

青磁の器に潜んだ佐々木製麺が、ノックアップストリームのように口の中へと突き上がる。


目 耳 頭に 電気 VILIVILI。

MAX2億V放電(ヴァーリー)

我が、神なり。旨みの雷が全身を駆け巡る。


スープに麺はもちろんのこと、味玉もスモーキーなチャーシューも素晴らしかった。


その中でも白眉は「ほうれん草」だった。

黄金の輝きだけでなく緑色の光線が店内を包む。

シャッキシャキの歯応えが口の中が猛然と広がる。緑の行者にんにくも一翼を担っていた。

『黄金家』に訪れた際は必ず頼んだ方が良い逸品。


まさに此処は、神の国。

まさに此処は、味の海。


直系流るる「美味い血」が輝き放つ「スカイピア」



ご馳走様すぎた。




そして2023年9月。横浜時代最後住んでいた街「鴨居」に『黄金家』の2号店がオープンした。


なんのラーメン屋だったか記憶もないくらい久しぶりに訪れた鴨居駅。居抜きで入った『黄金家 鴨居店』が堂々と煌めく。

かわいいプーさんに見守られながら、10代後半から20代前半の記憶を思い出す。と言うか勝手に蘇る。

『吉村家』から『杉田家』へ

そして『黄金家』に意志が受け継がれるように

あたしの人生も「横浜」から「東京」へ

この先どうなるかなんて誰にもわからねぇけど

たまには振り返ってもいいかもな。

黄金の黄身


そんな事を君が呟いたんだ。


――――――黄金家、人生まだまだ終われんな。

こうして【黄金家】が道助の家族になった。幸せになろうよ。



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