「こころ」読書感想文
著者
夏目漱石(1867~1916)
7月11日読み始め7月15日読了。
あらすじ
「私」が、父の今際の際に立ち会うために帰郷しているその最中、「先生」から、分厚い手紙が届く、走り読みするとそれが遺書のようなものだということが分かる。矢も楯もたまらず、「私」は東京へ向かう列車に飛び乗り、そこでその手紙を読み返し、「私」は先生の重い過去を知ることになる。この作品では、その「先生」からの手紙が大半を占めている。
印象に残った人物
「私」の友人、K。愚直で一本気な性格。そんな彼が下宿先のお嬢さんに恋をしてしまう。そしてそれを最も信頼する友人である「私」に打ち明ける。しかし、同じくお嬢さんに恋していた「私」は……。
純情すぎるKが下した決断が、悲しすぎる。
感想
「こころ」という題名から、なんとなく「心あたたまる、ほんわかストーリー」と思い込んでいたんだけど、さにあらず。これは「こころが痛くなる」物語だった。
「私」が一応主人公ではあるものの、物語の大半を占める第三章「先生と遺書」では、主人公は遺書の書き手である「先生」となる。そこで明かされる先生の過去が悲しくて重くて、心が痛くなる。
以下、思いっきりネタバレになるのでご注意を。
「私」には同郷の友人Kがいるのだが、彼はかなりの気難し屋さんで、人付き合いが大の苦手。そんな彼を、「私」は自分と同じ下宿先に、半ば無理矢理住み込ませてしまう。下宿先は戦争未亡人とその娘という世帯。自身がこの二人の存在に癒されて人情の良さを知った「私」は、頑なに自分の殻に閉じこもっているKの心を二人によって開かせたいという想いがあった。果たしてその目論見はうまくいき、Kは次第に人間らしさを見せるようになる。
そんなある日、「私」はKから告白される。下宿先のお嬢さんのことが好きであると。同じくお嬢さんに惚れていた「私」は、思い悩んだ末、その母親にお嬢さんとの結婚の許可を申し入れ、すんなりと認められてしまう。しかし数日後、それを知ったKは自害するのだった。
もうね、Kってのは本当に偏屈で、今でいう社会不適合者なんだよ。それを「私」と下宿先の女性二人が心を解きほぐしていくんだけど、その行き着く先が「死」だなんて……。そしてお嬢さんと所帯を持つことになった「私」も、やはりKの死の重さに耐えきれなくなって自害。なんとも言葉がない。
Kが「私」に告白した後、二人は房総半島を歩いて旅するんだけど、そのときの二人が、なんというか生命力をキラキラ輝かせているようで、とっても楽しそうで、この先の人生辛いこともあるだろうけど、この旅を思い出すことで「そうだ! 人生捨てたもんじゃない!」と思い返せるような、そんな素敵な時間を過ごしていたのに、いたのに、いや、いたからこそ、その後の「死」という結末が余計に際立ってくる。
純情すぎるKと、そしてやはり純情だった「私」、さらに取り残される妻(お嬢さん)、彼らの“こころ”を思うと、自分の心が苦しくなる。
なんとも凄みのある小説だった。
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