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[レポート] 問題解決から始めないイノベーションアプローチ(実践編)

さほど不便ではなくなった世の中において「新たな問い」を発見することの重要性と、現状の生活に満足していない生活者たちの「憤り」をもとに、どうブランド哲学を構築するのかーー。
2020年8月7日に行われた連続イベントの第2回では、IDL [INFOBAHN DESIGN LAB.](以下、IDL)と株式会社SEEDATAの共催イベント・第1回にお伝えしたこれらの考えの具体的な実践方法を、仮想プロジェクトを題材に紹介しました。今回はその模様をレポートとしてお届けします。
(前回のイベントレポートはこちら

新たな問いを生み出す「Design R&Dスパイラル」

はじめに登壇した IDLの辻村は、Design R&D(以下、DRD)と、それを活用し新たな問いを立てるためのフレームワークについて話しました。

DRDについて辻村は「デザインをR&D(研究開発)の対象として取り扱う考え方」だと言います。その思想の背景にあるのが「デザインの対象の拡大」。

「デザインの対象は、いわゆる色物形だけでなく、バリューチェーン全体にまで広がっています。その状況下でデザインを有効活用するためには、“切断思考”と“接続思考”、2つの思考をうまくつなぎ合わせることが重要」と話します。

切断思考・接続思考とは
切断思考:デザイナーの得意とする、過去の文脈に依存せず新たな視点を発見する思考
接続思考:これまで製品開発の現場で培われてきた、過去の文脈を継承しながら製品・プロダクトの改善指針を具体化する思考

そして、この「切断思考」は特にR&D(研究開発)の段階において必要とされる考え方だと辻村は話します。

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(R&Dにおける切断思考と、企画や購買、製造から出荷、販売、サービスにまたがるバリューチェーンに乗った段階の接続思考の組み合わせ)

その上で企業や製品の中長期的な価値創造の探索行為をR&Dと捉えるのであれば、技術開発だけでなくデザインもその中に包摂されていく必要があると続け、この考え方がDRDであると述べました。

では、実際の現場においてDRDをどのように活用すべきなのでしょうか。辻村は、DRDを実践する為の枠組みとして、DRDスパイラルについて紹介しました。

DRDスパイラルは、「解決すべき新たな問いを発見し、深化させる為のフレームワーク」だと言います。その特徴となるのが、PoV(Proof of Vision)と呼ばれるプロセス。

「従来の事業開発では、PoC(概念実証、Proof of Concept)、PoB(事業的な有効性検証、Proof of Business)を行うことで事業の妥当性と蓋然性を高めるのが通例ですが、DRDスパイラルでは、これらを行う前に解決すべき問いを発見し、ビジョンに落とし込むプロセスを置きます。このプロセスをPoV(Proof of Vision)と呼びます」と説明しました。

今回は、「家事」をテーマとしたサンプルプロジェクトを実践。話を締めました。

トライブの義憤から考える仮想プロジェクト「新しい家事」

続いて、前回も登壇したSEEDATAの大川さんから、今回のサンプルプロジェクトのテーマと、そのもととなったトライブの義憤についてお話しいただきました。

大川さんはトライブについて「現状の生活に対して強い憤り(義憤)を持ち、それらを積極的に解決しようと試みている人々」と説明します。今回のテーマである「家事」において、トライブはどのような義憤を抱えていたのでしょうか。

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(独自の哲学を持った先進的な生活者群であるトライブ)

トライブは家事に対して「『意識の一部を持っていかれてしまう』ことや『タスクの偏りが発生してしまう』ことなどに義憤を抱えている」と、大川さんは続けます。さまざまな義憤が存在する中で、今回は「自己決定感のない家事から解放されたい」という観点に着目したと述べました。

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(家事においてトライブが抱えている義憤の例)

その一方、「『急に発生するタスクを回避したい』だけで、家事全般に対して嫌悪感を抱いている訳ではない」とも話します。その例として洗濯を挙げました。

トライブへのインタビューの中で「洗濯物を畳む時間を、自分の心を落ち着かせたり一人の時間を作るために使っている」という話があったと言います。これらから「自分の好きなタイミングでできる家事はそこまで嫌なものではないのでは」と分析。この結果をもとに、仮説として「義務としての家事が無くなる」という哲学(義憤を解決するビジョン)を立てたと続けます。

問いを批判的に深める「クリティカル・ストーリー・メイキング」

大川さんに続いて登壇したIDLの遠藤は、哲学へと昇華した義憤をさらに深めていく「Critical Story Making」(以下、CSM)という手法について話しました。

遠藤はCSMを「実際に物語を書く行為を通じて行うことで、検討中のサービスやコンセプトに対して批判的な視点・姿勢を与え、新しい意味や哲学を生み出すことを目的とした手法」と紹介。

今回の物語の設計においては参加者の想像力を引き出しながら、哲学が存在しうる世界観を「主人公」「場所」「時代背景」「アクション」で基本設定。小説や映画の脚本において王道とされる“三幕構成”を用いることで文脈を紡ぎます。さらに、「対話や背景など詳細の描写を描くことで、設定した哲学やビジョンが受容されるのか、批判的な視点で捉え直すことができるようになる」と説明しました。

今回は、そのプロセスを用いた結果として「義務としての家事が無くなる」という哲学から「内に向かう家事」と「外に向かう家事」の2つの視点が生まれました。

※二編のショートストーリーは本記事最後にダウンロードリンクをつけています

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(CSMによって生まれた2つの物語)

この2つについて遠藤は、「内に向かう家事は、『内省の機会を創出する、マインドフルネスのような価値が家事にはある』という視点。外に向かう家事は、『家事には社会との繋がりを創出する価値がある』という視点です」と説明しました。

先ほどの辻村が説明したDRDスパイラルにもとづき、今後は「今回生まれた哲学について、専門家の方へのインタビューを通じて蓋然性を高めることを想定している」と締めました。

新規事業の実践者を招いたパネルディスカッション

IDLメンバーとSEEDATA大川さんによるプレゼンテーションの後は、ゲストにライオン株式会社の新規事業創造プログラムである「NOIL」で新たな家事の事業づくりに取り組む廣岡茜さんを迎え、事業開発におけるビジョンの検討や、そこにおける批評の役割を中心にパネルディスカッションを行いました。

廣岡さんが自身の家事に対する“義憤”から生み出した新しい事業を推進する中で行った批評のプロセスや、個人のアイデアを会社のビジョンと擦り合わせる際の考え方など、事業開発を進める上でのヒントとなるお話を聞くことができました。

詳細な内容については、下記のグラフィックレコーディングの2枚目をご参照ください。

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インフォバーン  グラフィックレコーディング部

廣岡さんには、IDLのラジオ番組「IDL/R」にもご出演いただき、今回のテーマについてさらに議論を深めていく予定です。どうぞお楽しみに。

(記:阿部俊介)


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今回のテーマでもあった“義憤”にも通じる、話題のエントリはこちらです。
4年前に料理をやめた。その理由

今回は私が料理を捨てた理由と、捨てて良かったことを紹介する。

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ウェビナー資料のダウンロード

ウェビナー内で使用した資料、CSMにて作成した二編のショートストーリーはこちらからダウンロードできます。

http://7795541.hs-sites.com/doc-dl_gifun_practice 

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