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[レポート] 問題解決から始めないイノベーションアプローチ(コンセプト編)

世界的な感染症流行により、未来の不確実性をますます強く感じる今。そんな時代において、目の前にある課題の解決のみにフォーカスするだけでなく、「新しい問題(課題)」を生み出すことも求められています。2020年6月3日に開催された株式会社SEEDATAIDL [INFOBAHN DESIGN LAB.](以下、IDL)の共催オンラインセミナーから、そのヒントを掴んでみましょう。

問題解決から新しい「意味」の提案へ

「デザイン実務家として、デザインリサーチやデザイン教育におよそ20年関わってきたなかで、ここ3年〜5年テーマに大きな変化が出てきました。今日はその中で考えていることを皆さんと一緒に議論できればと思います」と、自身の課題感からトークをスタートしたIDL マネージングディレクターの井登友一。

「『今あるものを進化させること』から『まだないものを考える・つくる』」への要請の変化。それを提示された消費者が一瞬「これは何だろう?」と混乱してしまうような、攪乱(かくらん)的な価値を生み出すためのデザインや、その企業の根幹となるデザインプリンシパル(デザインするにあたっての原則)といった、抽象的なものに変化していると言います。

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(この数年で依頼テーマはより“未来”にシフトしていると言う)

その背景にあるものとして挙げたのが、「大抵のサービスは"さほどひどくなくなった"」「改良価値に2倍のお金は出さない」。利便性や簡単さを突き詰めてきた"工学的価値の限界”と指摘します。

豊かで多様なこの時代に企業がわざわざ選んでもらうためには、問題解決は当然のこと、この世にない「説きたくなる問い」を提示することが必要。つまりそれは「問題解決から新しい意味の提案」への移行です。

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(近年注目される「意味のデザイン」をベースに、新たな価値提案の重要性を提示)

では、それまでには持ち得なかった、異なる意味を持つためには何が必要なのでしょうか? 井登は事例として「照明としてのロウソクと癒やしをもたらすアロマキャンドル」、そして「情報機器の進化ではなく、"携帯電話を再発明”したiPhone」を引き合いに出しながら、「うまい意味の見つけ方、そしてうまい意味の伝え方が必要になる」と述べました。

マーケティングコミュニケーション上のコンセプトやメッセージ転換ではなく、その製品やサービスが持つすべての項目を解釈し、倫理観や社会構造、文化などの多様な項目からその時代における持つべき意味、文脈を生み出すことが必要。そして、意味の転換はメインストリームの周辺、つまり特別な状態や事情がある人が持つ文脈の中で生み出されてくると続けます。

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そのために「Design as R&D(DRD)」の視座が必要だと説きます。

短期間の合理的・割り切った研究開発ではなく、中長期的視点で製品サービス、企業全体、社会全体それぞれの段階における「意味」を見いだしながら、考えていけるのではないかとメッセージを送りました。

「哲学を持ったブランド」を生み出すカギ

続いてトークを行ったSEEDATAのチーフアナリスト・大川将さん。トライブドリブンイノベーションを起点とした「トライブの義憤から発想するブランドの哲学」というテーマでトークを行いました。

トライブとは「先行的な消費者グループ」を指します。対象の領域における消費行動の中で確固たる哲学を持ち、その哲学を言語化するスキルを持った消費者像。IDLとパートナーとして、さまざまな案件のリサーチを行ってきたほか、過去にはトライブを活用した新規事業開発プログラム「Future SEEking Program」を共同で開発しました。

そのSEEDATAには多くの商品開発・事業開発担当者が悩んでいる課題が寄せられると大川さんは話します。豊かな時代における多様な価値観を前提としたこれらの課題。

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その解決にはどんなアプローチが有用なのでしょうか。

トライブの義憤」と、「DNVB(Digitally Native Vertical Brand)」と評される「哲学を持つブランド」の2つを起点に、そのヒントを提示します。

1つ目の「トライブの義憤」とは、トライブが持つ「もっとこうあるべきではないのか」という怒りと憤り。トライブはその性質からマスターゲットが持ちうる価値観をすでに持っており、そのトライブが持つ義憤を仮説とすることで、マスポテンシャルに転換しやすい、新たな視点を見つけられると言います。

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(トライブの義憤を解決することが、不満が顕在化しづらいマスユーザーの不満改善に繋がる)

そして、2つ目の「哲学を持ったブランド」。企業都合のストーリー消費ではなく、消費者が感じていた社会や世間への疑問が存在意義となっているブランドを指します。

例えば、サプライチェーンの徹底的な透明化を図り、日本でも展開をスタートしたアパレルブランド「EVERLANE」やブログ「Into The Gloss」を発祥としてコスメ/スキンケアプロダクト開発を行う「Glossier」といったブランドが、すでに多くの支持を受け始めています。

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(DNVBに属するブランドは、一般消費材からマットレスなど、広い領域に広がりつつある)

さらにその背景として「これらの潮流は、ミレニアルズのインサイトの変化に端を発します。自分と商品の間に、関係づくりのための物語が必要になっている。これは欧米だけでなく、日本でも徐々に必要となっている考え方です」と続けます。

消費者は「この商品の購入・所有を自分でどう納得し、周りに説明する」ための物語(ナラティブ)を求めている。日本でも女性用下着の「Nagi」や完全栄養食を提供する「COMP」、安心・安全な食品や調理キットを提供する「Oisix」などのブランドを例として提示。具体的な哲学の構築の方法については、次回の実践編のイベントで公開しますと、締めました。

トークディスカッション

2つのインスピレーショントーク後は、参加者から質問フォームに寄せられた内容について、2名の登壇者にSEEDATA 代表取締役社長 宮井さんを交えて、トークディスカッションを行いました。質問は以下の5点。

・兆しと予測はどう異なるのか?
・コモディティ化した製品とナラティブ
・価値と意味の違い
・トライブはエクストリームユーザーとは違う?
・トライブが抱える義憤はどこまで確からしいか?

その模様は、下記のグラフィックレコーディングの3枚目をご参照ください。

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パネルディスカッションの続きは、IDLのラジオ番組「IDL/R」にて。お答えしきれなかったご質問にも答えていく予定です。どうぞお楽しみに。

(記:川田智子)

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