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【JICA Volunteer’s Next Stage】ボリビアで行動力磨きまちづくりに生かす―市民主体の長く続く日本語教室へ

☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します

杉本 要さん
●出身地 : 北海道
●隊 次 : 2010年度2次隊
●任 国 : ボリビア
●職 種 : 環境教育
●現在の職業 :北海道 恵庭市職員/JICA特別嘱託


誰もが住みやすいまちへ
 市民主導による花のまちづくりが盛んで、近年は「ガーデニングのまち」として知られる北海道・道央に位置する恵庭市。その恵庭市役所にJICA海外協力隊(JOCV)の帰国隊員が勤務する。ボリビアで環境教育隊員として活動した杉本要さんだ。杉本さんは、恵庭市企画課で、2021年5月からJICA特別嘱託という枠組みで市職員として働く。主な担当は国内の多文化共生に関する仕事だ。恵庭市に住む外国人の相談担当や、日本語教室の立ち上げなど、誰もが住みやすいまちづくりに取り組んでいる。
 就任直後には、東京五輪に参加したグアテマラ選手団の調整役兼通訳としても活動した。競技の一部が北海道で開催されることから、恵庭市がグアテマラのホストタウンを担った。杉本さんはJOCV後、中南米地域で草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員やJICA企画調査員・専門家を約7年経験。その中で培ったスペイン語力や、現地文化への理解の深さが評価されての抜擢だった。
 現在は、恵庭市に住む外国人に向けたガイドブックの作成や日本語教室の運営などを行っている。ガイドには、日本での基本的な生活ルールや生活習慣、緊急時の対応方法などを盛り込み、外国人にもわかりやすい「やさしい日本語」で作成中だ。日本語教室は2022年5月に市民と一緒に『日本語ひろば「えにわ」』を立ち上げた。恵庭市には、留学生向けの民間の日本語学校はあるが、在住外国人が通える教室はなかった。だが留学生以外にも、多くの技能実習生や外国人労働者がいるため、どのような立場の人も学べる地域の日本語教室が必要とされていた。月2回ほど教室を開き、日本語の会話練習を行う。お互いの文化について教え合ったり、料理教室を実施したり、外国人と日本人の交流の場としても活用される。日本語教室は市が中心となって立ち上げたが、杉本さんは自らが教室の運営をリードしすぎないように意識しているという。そこにはJOCV時代の反省が反映されている。


JOCV時代、環境フェスティバルで環境教育指導者用ガイドブック の説明をする杉本さん=杉本さん提供


「仕切りすぎ」が裏目に
 JOCVではボリビアの農業灌漑組合に所属し、用水路の
適切な利用方法や環境汚染に対する啓発活動を担った。農業用水路は水が少ない同国において重要な役割を果たすが、不法投棄などにより本来の機能が発揮できない状況にあった。そこで環境啓発活動を実施することで、本来の用水路の姿やきれいな街を取り戻すことを目指していた。杉本さんは近くの教育機関や住民組織などに農業用水路の重要さを説いたり、ビラを配ったり地道に活動を続けた。だが壮大な目標を前にし、目に見える効果は現れなかった。
 それでも、杉本さんの取り組みに共感する人もいた。地元の学生たちだ。彼らと学生団体を立ち上げ、街でごみ拾いをしたり、環境フェスティバルを開催したり、環境教育の普及に取り組んだ。しかし、杉本さんが帰国すると1年ほどで学生団体の活動は停滞してしまった。杉本さんは「当時は自分が仕切りすぎて、運営体制が十分に確立できなかった。その反省を教訓に、今の日本語教室では、市民の人と一緒に形作ることが目標だ」と話す。「将来的には、運営はボランティア団体が担い、市はサポートの立場で関われるよう、少しずつ運営面や広報面などで市民に分担してもらっている。それぞれが負担を感じないように、長く続けられる日本語教室を作っていきたい」と意気込む。
 杉本さんが多文化共生に力を入れるのは、地元の北海道に対して長年感じていた問題意識が根底にある。「北海道は本州に比べて外国人が少なく、道民はあまり外国人に慣れていない印象がある。今の外国人を積極的に受け入れる流れの中で、北海道もそれについていく必要があるが、準備が十分ではないと感じる」。この思いから積極的に行動してきた杉本さんだが、そのアグレッシブさは同僚からも評価される。上司の吉成祐輔さんは、「杉本さんは、さまざまな人がいることを把握した上で市民同士の交流を進めながら、日本語教室の設立など意欲的に挑戦している。SNSも駆使しながら、直接的なアプローチで周りの人を巻き込む力もある」と働きぶりを語る。杉本さんは現在の仕事について、「現場レベルの仕事でJOCV隊員に戻ったような気持ちになる。一人ひとりの市民と密に関われて、個々人に寄り添える環境がありがたい」と笑顔で語った。
 海外で外国人として過ごしてきた杉本さんだからこそ、日本に住む外国人の気持ちを自分事のように深く理解できるのだと思う。杉本さんの存在は、多くの市民に安心感をもたらしていることだろう。

(本誌編集部・吉田 実祝)


恵庭市役所に勤務する杉本さん(手前)と上司の吉成さん
日本語教室の運営について市民と協議する杉本さん(右奥)=杉本さん提供

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本記事は国際開発ジャーナル2023年2月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)

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