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【JICA Volunteer’s Next Stage】現地人と一緒にキルギスの魅力発信―可能性を広げる出会いが詰まった協力隊

☆本コーナーでは日本で活躍するJICA海外協力隊経験者のその後の進路や現在の仕事について紹介します

緒方 美鈴さん
●出身地 : 熊本県
●隊 次 : 2019年度1次隊
●任 国 : キルギス
●職 種 : 体育隊員
●現在の職業 : ОЙМО(オイモ)代表


SNSでの出会いからブランド立ち上げ
 2021年12月に「ОЙМО(オイモ=キルギス語で「伝統的な柄」の意味)」というブランドが誕生した。立ち上げ人の緒方美鈴さんは、国際協力機構(JICA)海外協力隊で赴任したキルギス文化を日本に広めようと活動を始めた。キルギスの職人と協力しながら、手作りの衣服や雑貨をECサイトやマルシェで販売している。
 ブランド立ち上げのきっかけはSNSだった。緒方さんが、帰国後にキルギスの小物を買おうとSNSを眺めていると、毎回同じ人が作った小物に目が留まった。そこでその小物をつくっているローザさんにダイレクトメッセージ
を送った。チャットでのやりとりを続けるうちに、彼女が抱える悩みが見えてきた。首都から離れた地方の暮らしでなかなか販路が拡大できないでいること、これまでは夫が出稼ぎをして収入を得ていたが、夫は病気がちで安定した収入が見込めないことなどだ。「ローザさんの話を聞くうちに少しでも生活が豊かになるように自分がサポートできることはないか考えるようになった。そうして思いついたのが日本でローザさんの商品を売ることだった。さっそく日本人向けの商品を作ることを提案し、ECサイトを立ち上げた」(緒方さん)。
 ローザさんをはじめ、連絡を取っていたキルギスの職人たちに直接会いたいと2022年4月下旬、自ら飛行機を取ってキルギスを訪問。首都から車で6時間以上かかるサル・カムシュ村で初めてローザさんと対面し、事前に制作を依頼した商品の確認や普段の仕事場である工房を見学した。職人に直接会って、その人柄を確認できたこと、ブランドへの思いを共有したことで、改めて一緒に事業をしていく決心ができたという。

キルギスのアクセサリー職人の作業場で、商品の確認をしている=写真は全て本人提供


道を狭めていたのは自分自身
 実は、協力隊に参加する前の緒方さんは体育教師になることが夢だった。しかし、キルギスへの渡航、コロナ禍を受けて日本に一時帰国したこと、そしてキルギスに赴任できたことで考え方に変化が生まれた。「たくさんの人と出会い、今までは知らなかった仕事や生活、価値観、考え方に触れて新しい世界を見ることができた。全てが自分の可能性を広げる出会いだった。これまでは教員になるという道しか見えていなかったが、道を狭めていたのは自分自身で、本当はたくさんの選択肢があることに気づいた」
 特に一度帰国してから再赴任したときの経験が今につながっている。JICAの安全面の理由から以前の任地には戻れず、首都ビシュケクの学校で体育指導をした。しかし、1カ月後には学校が長期休みに入り、本来予定していた隊員活動ができなくなった。そんなとき、JICAのボランティア調整員から紹介されたのがキルギス共和国日本人材開発センター(KRJC)だ。KRJCはもともと、日本とキルギスの相互理解の促進やキルギスのビジネス人材育成を目的に設立され、現在は日本文化を伝える場としても活用されている。そこで緒方さんは、キルギス文化を日本に伝えようと動画作成を始めた。伝統工芸品の作り方、一村一品プロジェクトの紹介、キルギスに住んでいる人しか知らないことなどを、さまざまな地域を回って取材し、動画を作った。その中で、キルギスには自身もまだ知らない魅力があふれていることを実感したという。

協力隊のときに日本語クラブで「上を向いて歩こう」を合唱した


試行錯誤を繰り返し、一歩ずつ前進
 日本とキルギスでの遠隔の仕事は、作業の進捗状況や商品の確認などで苦労も要する。言語も壁の一つとなっている。「隊員生活を終えるころにはキルギス語の日常会話レベルは話せるようになったが、ビジネス英語ではより正確さを求められる。言いたいことが言葉にできなかったり、小さな認識のズレが重なったりするとフラストレーションがたまる」。だが、「失敗するのは当たり前のこと。試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ改善していきたい」と前を向く。多くの苦労がある中、励みとなるのはオイモと出会った人からの感想だ。「『キルギスという国を初めて知れた』『キルギスに行ってみたい』など、興味関心を示してもらえるとまた頑張ろうと思える」と笑う。
 今年5月、緒方さんは新たな一歩を踏み出し、キルギスへ移住した。オイモの商品制作の他、これまでの経験を生かしフィットネストレーナーとして運動指導も行っている。自身の思いに素直に行動し、どんどんと進化を重ねる緒方さんとオイモから目が離せない。

マルシェ出店時の様子(右が緒方さん)

本記事掲載誌のご案内
本記事は国際開発ジャーナル2023年10月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)


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