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【起業のアトリエ】法人設立は信頼の可視化 目指すは産地から関わるブランド(Beast Barracks代表 根岸渓介さん)

アパレル、シルバーアクセサリー、テキスタイルをはじめ幅広い分野のデザインや製作を手掛ける、合同会社Beast Barracks代表の根岸渓介さん。
2022年6月に法人設立をした理由、ODMの仕事を受託した経緯、起業にまつわる今までとこれからをお聞きしました。
※本記事は、イデタチ東京の入居者に、起業の経緯や課題、将来の野望を聞くインタビューイベント「起業のアトリエ」を元に再構成しています。

◆スピーカー
根岸渓介さん(合同会社Beast Barracks代表)

「NEGISHI DESIGN Lab.」の個人活動から、
合同会社Beast Barracksを2022年6月に設立した代表・根岸渓介さん

職人の技術を駆使したテキスタイルデザイン、オリジナルのファッションブランド、インフルエンサー特化型アパレルODM・OEMを主軸に、パターン、縫製、ニット、シルバーアクセサリーから家具まで幅広く手がける。服作りの全工程を自ら行う。様々な有名アーティストとコラボし、グッズのプロデュース及び製作を展開。2022年6月合同会社Beast Barracks設立。

「起業が近道」の理由 多軸の経緯

Q)起業の経緯は?
学生時代にファッションブランドでインターンをして、企業で働くメリットも理解していましたが、ファッションの川上から川下までを一貫して行う事業を自分でつくりたい、しかも最短ルートでと考えた時、起業が近道でした。
 
Q)ファッション、シルバーアクセサリー、テキスタイル…といろいろな分野を手掛けていますが、それぞれのきっかけは?
高校生の時からシルバーリングを趣味で制作していました。ジュエリーはファッションの一部と気づき、ファッションデザインを学ぶ学校に進学しました(文化服装学院→文化ファッション大学院大学卒業)。
 
ファッションをデザインする中で、まず直面するのが生地。学生はみな日暮里で生地を買うのですが、生地のデザインができれば無敵では?と思ったのがテキスタイルへの興味のきっかけです。生地の種類や産地を調べ、産地の方々と出会う中で、人が産地を作り、産地から生み出される生地をファッションデザイナーが形にするという原点に気づき、自らテキスタイルを企画制作することに。並行してシルバーアクセサリー制作していたので、テキスタイル、シルバージュエリー、ファッションデザインという分野に枝分かれしていきました。 

アポなしで愛知のテキスタイル工場へ

Q)テキスタイルは、産地に足を運んで、直接工場にアポイントを取って人脈を広げて学んだとお聞きしました。
誰かが教えてくれて、ここに行っておいでということはないので、直接依頼しました。基本的に断られますが(笑)、何度も電話します。アポを取らずに愛知の工場に行き、「今工場の目の前です」と電話して、無理を言って見学させてもらったことも。体当たりで学んできました。
 
Q)最近根岸さんがつくった、伝統工芸のすりはがし染めの友禅とは?
これは、京都の染め職人の工房に通って制作したテキスタイルです。通常は、捺染台に生地を張った状態で染めますが、染料を台に塗り、ペティナイフで染料を削る手法です。その上に版画の要領で生地を敷き、染料を固着させます。すりはがし友禅という、その工房オリジナルの手法です。

◆ すりはがし染め
プリント台に糊で柄を描き、その柄を生地に写し取る技法。
気温や湿度に左右されやすいため、職人による長年の経験から得た感覚と巧みで繊細な技術を必要とします。

https://www.kyoto-artuni.com/technique/
根岸さんが制作した、すりはがし染め友禅の生地

 これはゴム手袋で柄を作っています。染料を張った上に、ゴム手袋で模様を描いています。感覚で描くため再現性はないですが、一期一会の柄の出会いもテキスタイルの一興です。


ゴム手袋で柄を描いた生地

イデタチ東京は“起業の母”

Q)イデタチ東京に入居の経緯は?
日暮里出身ということもあり、周辺でアクセサリー制作と洋服を縫えるアトリエを探していました。インスタグラムで入居者募集の広告を見て、締め切り2日前に急いで申し込みました。
 
Q)入居のメリットは?
入居当初は、起業が何か、起業支援施設がどんな場所かよく理解していなかったのですが、インキュベーションマネージャーとの面談やヒアリングで、やりたいことがどんどん定まっていきました。イデタチは、迷った時のガイドであり、「起業の母」のような存在。アンサーのきっかけがもらえる場所という意味で、すごくメリットがあると思っています。
 
Q)伸ばしていきたい強みは?
シルバージュエリーをやっていて、服を作れる人はまずいない。服を作れてテキスタイルを作れる人もまずいない。その3つのスキルを掛け合わせられるのが強みです。例えば、ODMでは生地は商社から仕入れることが一般的ですが、「生地にオリジナリティをもたせるなら、この機屋(はたや)さんと取り組めば」という提案や、工場との人脈作りも可能です。
 
アパレルは利益率が低い業界で、多くのハイブランドは、バッグ、小物、財布、ジュエリー等で利益を生み出しています。テキスタイル制作とファッションデザイン以外に、アクセサリーや小物領域をカバーしている強みを伸ばしていきたいです。

信頼を可視化するための法人化

Q)なぜ法人化するのか? きっかけは?
ODM業は量産しないと利益に繋がらない世界。ODMでは、必然的に大きい会社や法人と取引をするようになり、個人で取引できない状況が増えたのが、法人化した最大の理由です。取引先に自分を信頼してもらうことを可視化する、信頼を数値化するには、まずは法人化だと入居から1年経って分かりました。
 
Q)会社名の由来は?
会社名は合同会社Beast Barracks(ビーストバラックス)です。アメリカの陸軍の士官学校・ウエストポイントの、最もつらい訓練機関をビーストバラックスと言います。日本語に訳すと、「獣舎」。本をよく読むのですが、書籍「やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」の中で出会った言葉です。

アメリカの陸軍で、厳しい訓練を乗り越えて生き残るのは、もともとのエリートではなく、低スコアで入隊した人と聞いたことがあります。違いは、経験してきた挫折の数や、劣等感を強みに変えていくところ。それは世の中で重要なことなのかなと。自分もコンテストなどで折れまくってきました。生きていく中で、無理難題が降りかかっても、どんなに折れても、それを力に変える会社にしたいと思っています。

ビースト、獣という言葉の響きも気に入っています。世の中に食らいついていきたい。未来をかぎ爪で切り開きたい。能力はあるけれど社会になじみにくい、獣のような人たちを集めて、いつか世の中を変えていくブランドをつくりたいと思っています。
 
Q)現在の課題は?
課題は、生産力と効率です。今までの生産力では間に合わない。量産に時間をかけたら、効率が見合わず、受注量に見合うように生産効率を上げないといけない。人を増やせるように効率を考えないといけないですね。

目指すは、世界に日本の伝統技法を届けるブランド

Q)これからの展望・野望は?
産地づくりから関わり、産地を世界に届けていけるようなファッションブランドをつくることです。産地づくりから関わるのはリスクもありますが、作ったものに責任を持ちたい、自分で作ったものには魂が乗ると思っています。今のファッション業界は、サプライチェーンが長く、右から左でお金が発生することも。中間マージンが多いと、原料を作る人がどんどん儲からなくなってしまう。10年後、自分が関わった京都の伝統工芸の染め物が残っているかと聞かれると、正直首を縦に振れないです。自分のブランドが世界に大きく広がることで、日本の地域に根付いた伝統技法や、日本の伝統工芸が保全、保管されていくことまで見据えたブランドをつくりたい。単にブランドを立ち上げるだけではなく、自ら産地をつくるのが一番の課題解決になると考えています。それが野望です。
 
Q)どのようにデザイン(装飾)を思いつきますか?
無意識のうちにイメージを繋げて着想することが多いです。例えば、これまで蓄積した情報が引き出しに入っていて、左上と右上の引き出しを繋げて、面白いものができるのでは?と考えたりします。分析が得意なので、今までのデザインや素晴らしいものを構造化し、最小単位を組み合わせるイメージです。構造と構造を結び合わせて新しいものをつくることもあります。
 
Q)“構造”とは、どういうイメージでしょうか?
「裂き織り(さきおり)」という、生地を細長いリボン状に裂いて、生地で生地を織る江戸時代の伝統技法があります。ある産地で、すごく透明な薄い布のオーガンジーに対して、金属のメッキ加工をしたものを見た時、裂き織りのリボン状の布をこの素材でつくったら、まだ見ぬものができるのではと思いつきました。掛け合わせることが得意なので、そのような着想方法が多いですね。
 
Q)最後に一言!
ファッション、シルバーアクセサリー、テキスタイルと様々な分野を手掛ける自分の雑食性も、「ビースト」らしいと感じています。野草でも肉でも何でも食べる。そんな風に力強く成長していきたいです。


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