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名探偵コ〇ンの第三次性徴(異常SFショートショート)

(この話、書いてるうちにだんだん、小松左京の「日本アパッチ族」っぽくなった)

◎立て続く推理ミスに絶望する名探偵コ〇ン。彼は、自殺をするほどに悩んでいた。彼が実行した自殺の方法は、少年探偵団が犯行現場の指紋を採取するのに使うアルミニウムの粉(探偵七つ道具)を、粉薬のごとく大量の水とともに飲み下すというもの。

(探偵七つ道具であるピッキング用の「耳かき」の、後ろについてるホワホワした綿毛に粉をまぶして、犯人の指紋の取れそうなところにポンポンとやると浮かび上がってくる。指紋をセロテープにくっつけて、黒い厚紙に貼るとフィンガープリント・ファイルの完成。)

致死量のアルミニウムを瓶から直接に飲み、「ボフッ」と口から銀の鱗粉を舞い上がらせると、やかんの水をぐびぐびとあおるコ〇ン。たちまちぐるぐる回る目の玉をくるりと裏返し、ばったり大の字に仰臥する。

果たしてコ〇ンは死んでしまったのか。

◎しばらくの仮死状態の後、黒目を取り戻すと、ガバッと起き上がり、両手で喉を押さえて嘔吐した。どばどばと垂れ流れる粘液に混じって、ジャラジャラチャリンチャリンと口内から大量にあふれ出す「1円玉」。両の目から出る涙も、一粒一粒が1円玉。

◎そうなのだ。コ〇ンが自殺を決行する前の晩に、マッド・サイエンティストのアガサ博士は寝ているコ〇ンの鼻腔に、クロロホルム(探偵ものでおなじみのアイテム!少年探偵団も必携の探偵七つ道具の一つ)をたっぷりと染み込ませたハンケチを当てがい、アルミニウム他・様々な金属を消化し、硬貨に変える新発明の人工臓器を移植したのだった。臓器は小型の造幣機。人体に拒絶反応の起こらない、博士の発明した新素材からできている。臓器医療を劇的に変えるような画期的な代物だが、そこは狂気の科学者。

コ〇ンくんの致死量のアルミニウムを飲む自殺的行為には、「生」と「死」の相反する欲求が混ざりあっている。金属を消化したいという、彼の与り知らない臓器による内臓的な生の欲求を、絶望している彼は、強い自殺願望と思い違いしたのだろうか。少なくとも服毒自殺のつもりで飲んだアルミニウムの粉から、硬貨を造幣するために新臓器は機能している。

(SMプレイも、「生」と「死」という正反対の欲求が50:50(フィフティ・フィフティ)かな?ここら辺をもっと書きたいのだが、SMがよくわからない。刑法判例百選でも、SMプレイによる死亡事故について扱っていた。子供の時って性的なことに対する恐れがあった?その恐れは大人になるにつれて分離していくのだけど、それが分離せずに屈折して、部分的に強化されたのがSM?食欲と違って、性欲は文明社会において大っぴらには歓迎されず、タブー視する傾向にある。性行為はやはり「死」を連想させるからだろうか。通常の性行為と、SMプレイの違いは相対的なもので、それの含んでいる「死」の割合の差?)

◎その後のコ〇ンくん。涙の数だけリッチになる。笑 金属を飲む行為は自殺や、「死」の意味からは分離して、内臓の欲求に忠実に応えるものとなった。子供が自分の性欲を「死」に直結する恐ろしいことだと思っていたのが、いつしか大っぴらな性欲になるように、コ〇ンくんの第三次性徴(第二次性徴ではない)は金属をモリモリ食べて、硬貨をザクザク出すこと。コ〇ン君は「見た目は子供、頭脳は大人」でおなじみだが、高校生探偵の工〇新一が薬のせいで小学生の見た目になっているだけで、とっくに第二次性徴は経験済み。「見た目は子供、頭脳と性器は大人」がより正確な表現。第三次性徴を経て「見た目は子供、頭脳と性器は大人、金属も食べる」スーパー小学生というより新人類へと進化。

◎ところでコ〇ンくんは体内でつくった硬貨を、目から口からチャリンチャリン出すのだけど、通貨の偽造はれっきとした犯罪。彼は金属を食べるようになってから、体内の新陳代謝系が根本から変わってしまい、胃などの臓器はすっかり退化し、やがて金属以外は食べなくなった。

◎自分の出演している映画を観に行っては、ポップコーンの代わりに小さくちぎってクシャクシャにしたアルミホイルをむしゃむしゃ食べながら、映画のできばえに感動して目から小銭をザクザクと出すコ〇ンくん。もちろん「お代は見てのお帰り」。チケットを買わずに、自身の活躍をとったドキュメンタリーだからと顔パスで、彼が特設した関係者席のど真中を陣取り、少年探偵団の仲間たちの座席もきっちり確保。それでも代金を求められると、しぶしぶ全部1円で支払おうとする。もちろん落語「時そば」のように一枚、二枚と数えて「今、何時だい?」と代金は必ずごまかすし、硬貨になる涙が足りずに代金が支払えない時は、スケボーでピューーーッと風のように逃げてしまう。

コ〇ンくんは手汗の代わりに、蝶の鱗粉のように金属の粉が手から染み出してくるから、彼が触ったところにはくっきりとした指紋。工事現場に侵入しては、ゴマキの弟と共謀して、食用の銅線や電動工具を窃盗する行為を繰り返していたけど、現場に鑑識の仕事を大幅に減らす指紋をたくさん残していったから、あっさり逮捕。

少年院のコ〇ンくんは鉄格子をカプカプやる奇行を辞めず、これには面会に来たガールフレンドの蘭ねえちゃんも愛想を尽かすし、メグレ警部もコ〇ンくんの変わりように言葉を失ってしまった。

◎少年院を出たコ〇ンくん。彼の偽造した通貨だが、アガサ博士の改良版により、紙幣にも対応し、その大半は博士のある発明のための資金に投入されていた。その発明とは。。。博士は少年探偵団の元太くんに、彼の社会的な信用や立場をいっぺんにすべて崩壊させるよな弱みを握られて、強請られていた。元太くんこそ、恐るべき小学生。博士は元太君の大好物のうな重や、うな丼にするクローンウナギの研究開発に、元太君に怯えながら日夜、取り組んでいた。同じく少年探偵団の光彦くんが行方不明になったが、博士の研究所で飼っている電気ウナギがうようよ泳いでいるプールに落っこちて、感電死してしまったからだ。

◎変わり果てたコ〇ンくんは、探偵七つ道具の虫眼鏡を金ヤスリに持ち替え、リュックの中は粗目♯40番~極細目♯1000番までのサンドペーパーでいっぱい。金箔ばりの仏壇を紙やすりで削っては、かつおぶしのような削りかすをむしゃむしゃ。三時のおやつは芯に巻いてあるアルミホイルを一巻き。東京タワーの鉄骨を金ヤスリでゴリゴリやっては、鉄粉を塩酸とサイダーで割ってプハーッと酔っている。「塩酸なんか飲んで口の中も、食道も、胃もただれないですか?」「キラーーーーーーーーーーーーン」総金歯の歯列を見せびらかしニッと笑うコ〇ンくん。歯茎も、口蓋も、食道も金メッキで眩しい。どんどんメタル化するコ〇ンくんを解明しようと、口から内視鏡を入れてみた内科医はあまりの眩しさに目がくらんで、一時的に目が見えなくなった。


◎いつしかコ〇ンくんは名探偵から、社会の脅威となっていた。車を食べるし、金属という金属はなんでも食べてプリプリとコインにかえてしまう。

◎体の金属化がどんどんすすむコ〇ンくんの帝丹小学校での銃撃戦。メグレ警部が指揮をとる警官隊の激しい銃弾の嵐。一歩すすむごとにコ〇ンはますます頭から、足の指先までブロンズ色を帯びて、動きが鈍くなる。コ〇ンくんの眼鏡のレンズに当たった銃弾は、博士の開発した防弾レンズに施された幾何学的な計算に基づく設計により跳ね返されてしまう。物理的にはレンズが巨大ならばミサイルだって弾き返すことができる。跳弾で二名の隊員が殉職した。

◎ついに全身がブロンズ化し、メグレ警部と、毛利探偵、蘭ねえちゃんの目の前で「真実はいつも一つ」のポーズのまま動かなくなるコ〇ンくん。ヒビ一つ付かない眼鏡。両目からはそれぞれ温かい人間の涙が一筋、流れていた。

◎ここは半世紀後の帝丹小学校。元太校長が、当校では二宮金次郎の像の代わりに、名探偵コ〇ンくんの銅像が立っている由来を全校生徒を集めた朝礼で話す。少年探偵団の冒険譚や、コ〇ンくんたちとの友情、失った大切な仲間。名探偵コ〇ンのコミックスを片手に話す、元太校長のお尻から、生きのいいウナギがピチピチと出たり入ったりしていることに誰も気が付いてはいない。

元太くんも、金属を食べるコ〇ンとは別の新人類へと進化を遂げていたのだ。

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