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100日後に死ぬワニ(パロディ・ショートショート)

男は気が狂っていた。鏡にうつる自分の姿が、緑色の肉食獣のワニに見える。

知人が、「ワニは四つん這いの大きなトカゲだが、君は2本足で立っている。ワニはアマゾンの川に生息するが、君は人間社会で生活している」と説明しても聞く耳を持たない。

自分の姿と、ワニの区別がつかないのと同様に、「四つん這いと二本足」、「水中の生活と陸上の生活」のちがいがよく分からないのだ。

狂人のワニ男は、自分を「歩くブランドバッグ」だとも思いこんでいた。

クロコダイルの革でできた高級バッグに下着と、上着と、ズボンが入っているのをイメージしてもらいたい。脱いだ時に裏返しになった靴下みたいに、カバンを裏返しにすると、中の衣服はカバンから外に出てしまう。



拾い画像。キャラクター靴下が裏返ると怖い。

彼は歩くブランドバッグといっても、裏地の面にひっくり返ったワニ革のカバンだから、中の衣類が外に飛び出し、それがちょうど服を着た状態になっているのだ。

もしもバッグが裏返しでなかったら、彼はすっ裸で、衣類は彼のお腹の中にしまわれていることになってしまう。

人間社会に生きるマナーとして、服を着る習慣を取り入れ、表裏のひっくり返ったワニでいると男は言う。


自分をワニだと思い込んでいるこの狂人は、ワニのように肉しか食べなかった。ある友人は、彼を狂ったワニたらしめているのは、この肉しか食べない偏った食生活にあるのではないか、と考えた。

彼も口グセのように「あー早く人間になりたい!」とよく言っているし、彼のこの野菜嫌いを克服することが、彼を狂ったワニ妄想から解放し、人間にすることのできる唯一の方法ではないか。

彼女はさっそく大量のブロッコリーを茹で、ボウルいっぱいのサラダをテーブルに並べ、ワニ男には内緒で、「大麻」を99グラムも混ぜたオーロラソースを上からかけて、「だまされたと思って一口食べてみて」とフォークに突き刺したホカホカのブロッコリーをワニ男の鼻先に近づけた。

狂人は十字架を突きつけられたドラキュラのように「うーーーっ」と顔をそむけたが、彼女の献身的な協力に、だまされてもいいと鼻をつまんで、ブロッコリーを口にした。

「うっうまい!!!特にこのソースがうまい!これをかければ野菜がいくらでも食べられる!!」

山盛りのサラダがあっという間に、ワニ男の胃袋へと消えた。

テーブルの上では一切れも手をつけていないローストビーフが冷たくなっていた。

彼女は翌日もサラダをつくり、特製の大麻入りオーロラソースを上からたっぷりとかけたが、昨日より1グラム大麻の量を減らした。

毎日、1グラムずつ大麻を減らすことで、100日後には純粋なベジタリアンとなり、自分をワニだと思い込む狂った妄想は霧消する、、、か?

ワニ男は大麻の減量に気づくこともなく、毎日サラダを残さず食べたが、やはり偏食であるから、今度は肉にはまったく手をつけなかった。

肉に手をつけなくてもワニ男の強固な妄想は今のところ消えず、鏡にうつる自分がいまだにワニとしか思えないと言っている。彼女も男の獣性の克服こそが、課題だと考え、肉料理を食卓に並べることをやめ、ワニ男は100日間、サラダだけの食生活で通した。

100日後、ついに大麻が無添加の山盛りのサラダをペロリとたいらげたワニ男は、こうして純粋なベジタリアンになった。

ワニ男に手鏡をさし出した女は恐る恐る聞いてみた。

「鏡にうつるあなたはまだワニなの?」

「今までありがとう。君のおかげで、100日後に僕の中のワニは死んだ!僕はワニではなくなった!!」

「ついに人間になったのね!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「僕はウサギになったよ!」

そういう男の顔にはマンガのドラえもんのように両の頬にそれぞれ、放射状の三本のヒゲが生えていた。

ウサ耳のドラえもん

ウサ男は後ろをむいて体を折り曲げると、モゾモゾと自分のお尻から直接に食糞を始めた。

口の周りにうんこを付けた男に、彼女は悲鳴をあげて逃げ出してしまった。

男も女を追いかけて外に出た。

「待ってくれ!!」

ぴょんぴょんと「ウサギ跳び」で追いかける男だが、あまりにも遅いので彼女との距離はぐんぐんと開いていく一方だ。

男はいつしかジャングルに迷い込んだ、一匹のウサギとなっていた。

その時!!

「ぐわーーーーーーっ!!!!!」

男に巨大なワニが飛びかかった。

「ぎゃーーーーーーっ!!!!!」男の叫びがこだまする。

ピーポーピーポー、救急車のサイレン。

「赤信号なのにこの男が飛び込んできて・・・」

男は大通りでダンプに轢かれて即死だった。

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