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築90年の新しいオフィスが伝える本当の価値とは

 こんにちは。identity academy2期の孫千惠です。
identity academyでは様々なオフィスを使用させていただいて、授業を展開しているのですが、先日こんな(↑)建物で講義を受けました。

新橋駅から歩いて3分のところに建つ、テラコッタタイルを基調としたビル。横断歩道を渡る人のなかにも、思わず立ち止まって写真を撮る姿が見受けられました。現代的なビルの合間に突如現れる歴史的建造物に、通行人も興味津々のようです。

じつはこの建物、今年4月にオープンしたばかりのコワーキングスペース&シェアオフィス、「GOOD OFFICE 新橋」なんです。昭和7年建造の金物屋の店舗、しかも文化財の建物内部をリノベーションしたそう。

都心には次から次にピカピカなガラス張りのビルが建っていくなか、新橋の建物をリノベーションし、オフィスにした背景にはどんな思いがあったのでしょうか?

今回はこちらを運営する、グッドルーム株式会社の小倉弘之さんにお話を伺ってきました。

―本日はよろしくお願いします。
まず、小倉さんはなぜここで、シェアオフィスをやろうと思ったのでしょうか?

 僕が会社を創業して今まで、5回の引越しをしたんですよ。最初は8坪くらいのワンルームからスタートして、2年くらい経って20名くらいになって。当然入りきらないので、みんな仕事や打ち合わせをカフェでする、みたいな状態でした。さすがに狭いので、次に移ったのが40坪くらい。その次に140坪、500坪と借りていったのですが、それってあまり効率的じゃないなと。だから、臨機応変に場所を足したり減らしたりできるようなシェアオフィスがあったらいいんじゃないかと思ったんです。

本当は人数の成長に合わせてオフィスも借りたいけれど、ベンチャーだとそんなことも言っていられないので、先に大きめのオフィスを借りちゃうんですよね。最初はガラガラでも賃料はたくさん払っていて、その後スペースが足りなくなっても、しばらくはぎゅうぎゅうで仕事をすることになる。

それにベンチャーって当たり前に引越しがありますし、毎回内装に投資をするのは大変なんです。だから僕らのシェアオフィスを使えば、事業というメインイシューだけを考えればいい。若いうちから良い場所を使えるし、一等地にあるシェアオフィスともまた違って、スタンダードな価格で提供できているのではないかと思います。

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確か、identity academyも対面とオンライン配信のハイブリッドでやっていらっしゃいますよね。これからの会社は、大きな拠点が必要なくなったり、いろんな場所で仕事することも増えると思うんです。必ずしも一箇所にはとどまらない働き方へと変わっていくんじゃないかと思っていますね。僕らも今、シェアオフィスが10箇所くらいあるので、それらを活用してもらえるような取り組みができると面白いし、新しい働きかたも提案できると思います。

オフィスには、ちゃんと座って集中できるスペースも必要だと思うんですが、普段と違った場所、たとえばこうやって話していたり、屋上でお昼を食べているときにアイデアが浮かぶことってあると思うんです。そうやって、発散と収縮がどちらもできるような場所を用意していきたいなと考えています。

―いいですね。屋上を拝見したとき、特別感があって感動しました。

 そうですね。屋上で仕事していると、意外と気持ちよかったりするので、最近はだんだんと暑くなってきていますが(笑)お気に入りの場所です。

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―GOOD OFFICE 新橋はシェアオフィスとしてオープンされましたが、どのような人にこの場を活用してもらいたいですか?

 AIやDXなどの、いわゆるバズワードにのるためではなくて、世の中にも役立つし、自分はこういうことが好きだから、事業を立ち上げたい!と思っている人です。なぜかというと、AIが流行るからAIの領域を頑張ろう、という人よりも、自分のやりたいことと、世の中のニーズがうまくマッチしている会社が、うまく成長すると思っているからです。

起業する人は、成功・キャピタルゲインを得たいという目的からスタートする人と、好きなことをやって、それが世の中のニーズに合っていたという人の、大きく2種類がいると思っているのですが、僕らは好きなことを伸ばしたい、という人たちが集まる場所として、環境からサポートできるオフィスでありたいなと思います。

新橋は、学生にはあまり馴染みのない場所だと思うんですけど、東京駅や有楽町は大企業が中心なのに対して、このあたりは中小企業が入っているビルが多いんです。だからこそ、大企業とベンチャー企業がネットワークできる場所を提供していきたいなと思っています。

大企業のイベントスペースとして使ってもらう他にも、森山さんの identity academy だったり、大学のゼミに使ってもらったりして、ベンチャー企業に限らない、さまざまな交流が生み出される場所を目指しています。

―先ほどここで開催されていたワークショップもすごく盛り上がっていましたね。さっそくこの場所の持ち味が生かされているようです。

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―純喫茶や古着など、古いものに良さを感じる風潮が来ていると思うのですが、リノベーションオフィスを広げていくことで、どんな未来をつくりたいですか?

 同じ椅子がずらーっと並んでいる、いわゆる「オフィス」というような単調な空間は好きじゃないんです。変化のある場所、普段とは違う場所がすごく大事で。そこで僕らは、オフィスでも無垢のフローリングを使ったり、いわゆる普通のオフィスにはないものを使ったりします。

それで、なぜ古いものなのかというと、丸の内の一等地にあるオフィスビルみたいな、もともと価値もクオリティも高いものの価値を上げて、より高い値段で貸し出してもそんなに意味がないと思っているからです。逆に、誰も見向きをしなかった場所に付加価値をつければ、お客さんも嬉しいですし、トップクラスのビルの価値を上げるのと違って、一般の方にも使ってもらえる価格になります。

僕らのグッドルームは「どこにもない、ふつう」をミッションにしていて、暮らしのスタンダードの質を上げていくことを大事にしています。だから、一般の方にも手が届くものを提供していきたいと思って、このような事業を展開していますね。

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―お話を伺うなかで「付加価値」がキーワードだと感じました。小倉さんにとって、付加価値とはどんなものだと思いますか?

(熟考)
「みんなが注目していないからこそ、自分たちが注目すればできること」だと思っています。

たとえば金融でも、みんなが買う株は高くなるわけじゃないですか。だからみんなが目をつけていないところに、目をつけるのが大事ですよね。

だけど、株と違って建物は手を加えられる。僕らは自社で大工やメディアも持っているので、自分たちで手を加えて価値を積み上げ、さらに発信することで、古いものへの見方を変えていけるところに、僕らの強みがあるのではないかと思います。

―今の事業が、全部繋がっているんですね。それって戦略的にやられていたりして…?

戦略というほどではないんですが(笑)、自分たちでどうやって価値を積み上げていけるかを考えるのは、大事な要素だと思っています。

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―最後に。小倉さんにとって、「良いもの」って何ですか?

えーと。(熟考)ちょっと答えと違うかもしれないですが……

僕らのオフィスとか住宅では本物の、無垢の木を使うんですよね。たとえばここでも(床を指さす)、本物のタイルという、素のものを使ったりしています。

ベンチャー企業でも、着飾った姿を見せるのではなくて、素のものをちゃんと正しく見る、評価することが、僕らにとっては大事な価値観かなと思っていて。

日本はこれまで、クレームを受けたくない、問題を起こしたくない、という考えでやってきた結果、本当の触れ心地や素の良さ、本物の大事な価値を評価しなくなってしまった世界があると思っています。

たとえば今の高級なマンションは、本物の木ではなくて、偽物のフロアシートが使われていることが多いんですね。だから傷もつかないし、床鳴りもしない。一方で、無垢の木は本物なので、伸び縮みして床鳴りもするし、傷もつきます。

でも、僕らのシェアオフィスを含め、本当の良さをもった企業や人を評価して、引き上げていけるような会社になっていきたいと思っている。それが僕らの大事にしていきたい価値観です。

―なるほど。となると、良いものを使うのにはリスクがあるということですか?

 言い方は悪いけれど、万人から非難されないこと、一部の人から「いいね」と言ってもらえること、どっちを求めるのかという考え方なのかなと思っていて。僕らのオフィスもそうですが、万人狙いではないんですよね。

日本のこれまでの大企業は、万人が「NO」とは言わないものを作った結果、魅力的なものが出てこなかった。消去法的に誰もが「悪くないよね」と言うけれど、印象には残らない、みたいな。

僕としては、そうじゃないものを作っていきたいなと思っていますし、それを良いと思ってくれる人にこれから発信していきたいです。

―尖っていく感じでしょうか?

そうじゃないと、ベンチャーとしては負けてしまうというところもありますし。いままで大企業がやってきていないことにベンチャーが取り組んで、新しい価値観を提案していきたいと思っています。

―ありがとうございました。

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あとがき

 取材後に、オフィスの価値観があらわれた光景をちょうど目の当たりにしました。金物店だったころのお得意様が、移転したことを知らずにやってきたときのこと。建物内の様相の変化にとまどう老婦人に、オフィスの方が、移転先のお店の案内だけでなく、丁寧にお店へ電話で連絡までされていたのです。昔から長く愛されてきたお店への思いを受け止め、大切にする姿勢が息づいているのを垣間見ることができました。

 帰りがけ、コミュニティマネージャーの嶋川さんにGOOD OFFICE新橋のこれからについてお話を聞いたところ、最新テクノロジーの実証実験の場、そしてビジネスに限らず地元住民や学生も含めたコミュニティのハブとなり、新橋の活性化に貢献する役割を担いたい、とのお返事をいただきました。楽しみですか、と聞くと、遠くを見つめて「夢がある」と答えてくださったのが、とても印象的でした。

 変化の激しい激流にしがみつき、乗りこなしたものだけが成功を収めるといわれる現代社会。そこに提示された、世間にもてはやされていることではなく、自分の好きなことを源泉とした取り組みを評価し、本当に良いものを素のまま生かしたい、という新しい価値観に、次の時代の気配を感じました。

 他人の評価軸に流されるのではなく、自分が主観的に本当にいいと思うものを探しだし、リスクを背負いながら付加価値をつけていく。このGOOD OFICCEの経営思想は、図らずもidentity academyが教えるリスクマネジメント思考そのものです。

 先の読めない、正解のない未来なら、自分たちの理想を形にすればいい。GOOD OFFICE新橋は、そんなことを私たちに伝えてくれているように思います。

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