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ジョブを超えたイノベーションプログラム

和家一稀
京都大学院 工学研究科 材料工学専攻 修士1年→米系戦略コンサルティングファーム


はじめに

 IAには様々なバックグラウンドをもつ学生が集まりますが、このnoteが、特に自分と同じくコンサルティングファームを志望する学生にとって、IAへの参画を志すきっかけや自らの将来を考える呼び水となれば幸いです。

「コンサルティング」を知らないコンサルタントになる恐怖

 コンサルティングファームの人気が加速する昨今、自分もご多分に洩れず、この業界を志望し、縁あって内定をいただけたファームに就職することを決めました。

 内定をいただけたとはいえ、中高大とほとんど部活ばかりで、ボールを蹴るか投げるかしかしていなかった当時の自分は、経営コンサルティングの実情と言えば、選考過程のジョブで得た経験や知識の他には、ほとんど知らないような人間でした。

 そのような背景だったので、このままでは入社しても「コンサルティング」を知らないコンサルタントになってしまうという恐怖に怯えた状態、そして残る1年間をどう利活用するのが最善なのか悩んだ状態でのIAへの参画でした。
(ちなみに、就活の選考過程で知り合った東京の学生の多くが長期インターンをしており、そんなものがあるとは全く知らなかった地方大学生の自分は、より一層恐怖と劣等感を感じていました。)

「百聞は一見にしかず」

 IA5期が始動して間もなく、再帰性反射布レフライトを手掛けるMipox社との共創イノベーションプログラムが開始することを告げられます。期間は2ヶ月。進行方法や中間報告などの期日だけが決められた状態で、あとは学生に丸投げ状態。そんな条件のもとで取り組むことになった新規事業立案という高難度のプログラムは、ボスの「学生のチンケなアイデア出しには全く興味がない。よろしく。」という脅し付きでした。

 そんなこんなで不安だらけの幕開けではあったものの、いざMipox社から共有された初期情報をもとに新規事業の叩き台を考え始めてみると、多種多様な畑の出身の学生が集まっているためか、面白そうなアイデアがゴロゴロ出てきました。幸先の良ささえ感じていたように思います。

 そんな折、製品理解を兼ねた製品の生産工場を視察する機会を得ます。Mipox社の既存製品の新たな使い道を考えるというお題だったので、技術的な実現可能性を考察する上では重要な過程でした。

 ところが、この工場視察で、自分たちの取り組んでいたお題の真の難易度を思い知ることになりました。
 というのも、Mipox社のレフライトは自分たちの想像以上に「再帰性」の特徴が際立った製品だったのです。実際の製品に光を当ててみると、光軸通りには真っ直ぐ強く反射するものの、少し光軸から逸れるとそこまで明るいわけではありません。そのため、反射した光をはっきりと観測するには、思ったよりも厳密に、視点とレフライトが光軸上に一直線に並ぶ必要がありました。

 机上の空論で自分たちが考えた製品の新用途は、「再帰性」よりも「強い反射」に焦点を当てていたということもあり、工場で技術的性質を目の当たりにしたことで、ことごとく初期アイデアは打ち砕かれていきました。製品の解像度が高くなるにつれ、自分たちの初期仮説の脆弱さも顕になってくるような感じでした。

 これまで自分が経験してきたジョブやインターンではこのような経験はあまりなく、乱暴に言えば、机上調査でファクトを集めて論理武装して「それっぽい」案を出していただけで正直十分でした。製品のトガった技術的性質を自分の目で実際に見て知ってしまったが故に、中途半端なアイデアでは簡単に腹落ちできないことを痛く感じた工場視察となりました。

現場検証によって加速する具体性

 ただ、工場視察をしたことでハッキリ感じられるようになった技術的制約に、始めこそ色々と悩まされていたものの、意外にもそれは、その後の議論を活発にする触媒ともなりました。思考に条件が加えられることで、思考がシャープになり、議論の具体性が加速している実感が確かにありました。
 反射光は光源から離れると観測できないという性質を逆手に取った発想。真っ直ぐ綺麗に帰すからこそスペックが高まるニッチ製品や、光以外を再帰的に反射することで社会課題の解決に繋がる製品への応用、などなど。制約があるからこそ突破口として多くのアイデアが生まれ、製品理解も高まっているために、それらの種が苗へと育っていくのにそう時間はかかりませんでした。

 そうして議論が進むにつれ、解像度を高めるためや自分たちの仮説を立証するために、現場検証によって事実を確かめる必要が生じました。時にはエキスパートインタビューを自分たちでセッティングしたり、また時には実験室の一室を借りて検証実験を行ったり。とても素直に、でも大胆に、行動できていました。

 現場検証によって苦戦を強いられていた自分たちは、気づけば今度は、現場検証によって客観的で納得感のある議論ができるようになっていました。実際に行動して獲得した検証結果だからこそ、アウトプットが価値あるものとなり、クライアントに興味を持ってもらえるような提案ができたと思っています。

使用期限の短い「学生の特権」

 本プログラムを通して、自分の手で集めたファクトこそが、イノベーションを血の通ったものにするということを実感しました。と同時に、社会人にはない「学生の特権」というものに気がつきました。
 例えば、学生であるからして快諾してもらったであろうエキスパートインタビューや、技術的検証をするために所属する研究室の実験設備を無償で使用できたことなどは、まさしく学生の特権と言えるのではないかと思います。

 井戸が枯れて初めて水の価値がわかるように、特権を持っている学生のうちでは、この特権の真価に気がつける機会はそう多くありません。濃密なプログラムの中で素敵な同期や年長者に出会えたからこそ、自分の持っているプレミアムパスの価値を認識することができました。

 社会人になってからでは失われるこの特権は、丁寧に蓋をして箱に大切にしまっておくのではなく、何度も何度も行使して、その恩恵を幾度となく享受すべきものです。自分たちが思っている以上に、その使用期限は長くないようです。

おわりに

 自分たちの頭と足で仮説の構築と検証をひたすら繰り返した今回の経験を通して、最初に述べたような恐怖は少しは払拭され、自分に根拠のある自信をもたらしてくれました。
 また学生の特権に気が付けたことで、残りの学生生活の過ごし方を充実させる手がかりを見つけることができたように思います。使用期限があと1年しかない特権を時間いっぱい使っていくつもりです。

 この他にも、IAを通して得られたことは数えきれないほどありましたが、森山さんがおっしゃっていた「心の中のざわつき」が心に強く残っています。

チャレンジをしようとウズウズしている同期に囲まれている中で、自分はその人たちと渡り合えるようなチャレンジができているか?

 このざわつきが自分を奮い立たせ、新たな挑戦へと導いてくれることを期待しています。

 今振り返って改めて、貴重でかけがえのない4ヶ月間を過ごすことができたと感じています。この場をお借りして、関わっていただいた全ての人に感謝をお伝えしたいです。本当にありがとうございました!!

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