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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第四部  第五十四話「両親の死」


第五十四話「両親の死」

瑠璃が黙るのを見て、

「エリスさんな。一度占いを辞めようとしたんだよ。

息子さんも結婚して家庭を持って、

幸せに暮らしてるのを知って安心したんだろう。

だが、それを許さない奴らも多かった」

「あなたもその一人なんじゃないですか? 」

「俺か? 俺は別に幾つも事業を持ってるし、

困んねぇけどな。

権力がなくなるのは困るからね~

政治家は止められないね~」

井口が笑った。

瑠璃の硬くなる顔に、

「まだ若いね~

表情に出してはいけねぇ。

交渉ができなくなる」

と笑いながら話を続けた。

「エリスさんはあんたが狙われるのを知って、

連絡を絶っていた息子さんに知らせたのさ。

息子さんはそれを知って、

慌ててあんたとの待ち合わせ場所に向かった。

運が悪かったのは、

その車にあんたの母親も同乗してたってことだ」

瑠璃はその話に辛かった当時の事を思い出した。


あの日は三人で食事をする約束をしていた。

両親の結婚記念日で、

瑠璃が予約したレストランに向かう途中だった。

瑠璃はその時のことを思い返していた。

待ち合わせ場所にいきなり黒いバンが止まり、

次の瞬間父の車が突っ込んできたのだ。

一体何が起こったのか、

一瞬の出来事で、

潰れた車を見てもとっさに理解できなかった。

瑠璃は後ろに突き倒され、

軽傷だったが病院に運ばれた。

あれは………つまり………私を助けるために、

バンに衝突したという事? 

瑠璃の顔が歪んだ。

あの事故の後、

瑠璃もしばらく精神的に不安定で、

今の会社の先代、

太一の両親が瑠璃を助けてくれた。

おかげてなんとか立ち直れたが………

「あんたは何も聞かされていなかったんだな。

その後エリスさんは、

あんたを守る為に占いを続けていたのさ。

その時だよ。

それにかかわった者達の事業が崩壊。

政界を追われ、親族会社も次々と倒産。

家族の暮らしは真っ逆さまさ」

「だから祖母は魔女と言われたんですか? 」

「そうさ。末代まで祟るってね。

あんたがその後狙われなかったのは、

そういう理由もあるのさ」

井口が肩をすくめた。

「今回もあんたを狙ったものは病院送り」

「えっ? 」

瑠璃が驚くと、

「知らんかったか? まぁこれに懲りて、

奴も鳴りを潜めるだろうよ。

エリスさんは死んでもあんたを守っているようだからな」

井口が笑った。

瑠璃はその話に暫く黙り込んでいた。

そして、

「祖母のものはすでに処分されています。

残っているのはこのテーブルとソファー、

ダイニングテーブル、あとは和室にあるキャビネットです。

位牌はさすがに渡せませんが、

気になるなら家具は持っていかれても構いませんよ」

静かな怒りで話す瑠璃に、

「悪かったな。

これから総裁選も控えていて、

俺の息子も立つんでな。

エリスさんの遺品の中に占いの道具があればと思ったのさ。

あれがあればこの先も楽勝だろうからな」

井口がふうとため息をつきながら話した。



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