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【ぼーっとアート】佐伯祐三《郵便配達夫》

どうも。いかたこです。

今週から「ぼーっとアート」というシリーズを月1回ペースで投稿していきます。

ぼーっと眺めるから、見えることがある。
「ぼーっとアート」は、好きなアート作品を、休みの日にテレビをぼーっと見るように眺め、感想や考察をひたすら書くというシリーズです。美術の知識や作品の時代背景には頼りすぎず、できるだけ作品との対話の中で感じたことを書いていきます。

※この記事に書かれているのは私の感想であり、美術や歴史的な根拠は一切ありません!

私の妄想がたくさん詰まっているので、「めっちゃわかる!」とか、「いや、それは違うだろ!」とか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。

それでは、ぼーっと眺めていきましょう。
「ぼーっとアート」第1回目の作品は、佐伯祐三《郵便配達夫》です。

*写真は2023年に開催された展覧会「佐伯祐三 自画像としての風景」で撮影したものです。

《郵便配達夫》

立派なひげだなぁ。猫みたいな目だね。めっちゃカクカクしてる。ていうか、けっこう傾いてるのね。

全身から白いオーラが出てる・・・神様的な感じかな。耳周りとか右手の甲が赤いな。右手五角形やん。左手の白いのは何だろ? たばこ? 

右足太いな、鍛えてるのかな。右足だけ開く感じなのね。左足はまっすぐや。

服はだいぶ色あせてるな。左足の内側はめっちゃ色が変わってる。郵便配達ってことは、自転車とかで足の内側がこすれるのかな? 帽子はキレイなままだ。ちゃんと手入れしてあるね。

壁は結構ざらざらしてる。触ったら手に壁の色が付きそう。ポスターは長いこと貼ってるからか、ふにゃふにゃだ。何て書いてあるのかな?

床の方が赤いのはレンガの色なのか、部屋全体が暖かいからなのか、もしくは郵便配達夫の情熱なのか・・・。

静かな所で、絵を描く音だけがしてそう。とても温かくて優しい雰囲気。


眺めてみた感想は、こんな感じでしょうか。

では、ここからは感想をもとに、考察(妄想)を膨らませていきましょう。

まず私が思うに、この郵便配達夫はとても優しい人です。理由はこの立派なひげ。サンタさんみたいですね。「ふぉっふぉっ」って笑いそう。サンタさんもプレゼントを届けるから郵便配達員みたいなものですし、この人はきっと素敵なおじさまです。

優しい人と思った理由は他にもあります。それは郵便配達夫の上半身が傾いているという点です。椅子に座って体が傾くというのは、どのようなときでしょうか? そう、椅子が傾いているときです。

例えば学校の椅子。4つの脚のうち1つだけ滑り止めがとれてしまい、座ると椅子がカタカタしたという経験ありませんか? その椅子でバランスを取ろうとすれば、自然と体は傾きます。

もしかしたら、用意された椅子が傾いていたけれど、気を遣って上手くバランスを取りながら絵のモデルをしているのかもしれません。そう思うと、郵便配達夫がとても優しく紳士的で、可愛らしく見えてきます。


次は郵便配達夫の目に注目してみましょう。この目、とても見覚えがあります。図工や美術の授業で人の絵を描くとき、ほとんど下のイラストのような目になりました。私だけかな・・・?

人の目

レモン型というか、猫のような目。この目のおもしろさは、何を思っているのか感情が全く分からないところです。見ている方向は分かるのですが、おそらく何も見ていない。ぼーっとしているようにも見えますが、反対にものごとを深く考えているようにも見えます。

郵便配達夫が見えている先にはきっと、この絵を描いている佐伯祐三がいます。でも、この人は佐伯だけを見ているのではないと思います。佐伯祐三という人間の本質を見抜き、その生き様を見届けようとしている、そんな大人の思慮深さがこの目に表れていると思います。


ここで、この作品が描かれた背景を少しだけ紹介します。この絵を描いている時の佐伯祐三の状況です。

1928年3月、小雨の中での制作がもとですでに風邪をこじらせており、体調がすぐれない日々を過ごしていた佐伯。そのようななか、偶然に自宅を訪れた郵便配達夫に創作意欲を掻き立てられ、絵のモデルを依頼した。

「佐伯祐三 自画像としての風景」図録

《郵便配達夫》は佐伯祐三の晩年の作品です。この後、少し体力が回復することがありましたが、3月末には病で倒れてしまい、再び筆を持つことはありませんでした。


では、絵に戻りましょう。

《郵便配達夫》

郵便配達夫の耳の周りや右手の甲が赤くなっています。3月のパリはまだまだ寒かったはずです。寒空の下、パリに住む人々へ郵便を配達する姿が想像できます。

制服もとても使い込まれていますね。長年この仕事をされているのでしょう。服からたくさんの苦労が伝わってきます。でも、この色あせが格好いいです。

また、郵便配達夫は大きく足を開き、どっしりと座っています。右足は横に向いている一方で、左足はまっすぐ前に向いています。少し不自然な体勢ですが、その結果、傾いた体が倒れないように右足で強く踏ん張っているように見えます。

外の寒さや雨風に負けず、力強く生きてきた郵便配達夫。佐伯祐三は、この姿に憧れを抱いたのだと思います。病に倒れそうになる佐伯にとって、力強く生き続ける郵便配達夫は、スーパーヒーローのように見えていたかもしれません。郵便配達夫から白いオーラも出ていますし。きっと偶然目の前に現れたヒーローのことを、描かずにはいられなかったのでしょう。

やっぱりこの絵めっちゃ好きです! 


さて、ぼーっと見ていると、なんだかこんな感じの絵を他にも見たことがある気がしてきました。ポール・セザンヌ《庭師ヴァリエの肖像》です。

*写真は2023年に開催された展覧会「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」で撮影したものです。

《庭師ヴァリエの肖像》

椅子に座るおじさま、このかっこよさ、渋さが似ている気がします!

まぁ調べてみると、実際はゴッホの《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》の影響が強いそうです。佐伯祐三もゴッホの絵が好きだったみたいですし。

おそらく、どの人物も歴史に残る偉業を成し遂げたというわけではないと思います。言ってしまえば、一般の人たち。けれど、歴史に名を残す偉大な芸術家たちは彼らを描きました。

彼らは人々の日常を支えてくれています。生活の中の美しさ、かっこよさ、力強さに魅了されたのかもしれません。

今でも、ストリートスナップのように一般の人たちのかっこいい写真が人気ですね。有名であるかにかかわらず、絵や写真に残したくなる魅力というのがあるのかなと思います。


といった感じで、美術作品を見ているときの頭の中を文章にしてみました。

全部で3000文字超え。予想していたよりも長くなってしまいました。佐伯祐三の絵画についてこんなにも語れてとても満足です。今後の「ぼーっとアート」では、記事を前後編に分けることもあると思います。

記事を書いていて、もっと妄想を膨らませられるような気もしましたし、これ以上すると作品との対話ではなくなってしまうような気もしました。この辺りはこれから「ぼーっとアート」を続けていく中で、試行錯誤が必要ですね。

ちなみに、《郵便配達夫》に描かれているポスターの文字を調べてみたのですが、何と書いてあるのか分かりませんでした。知っている人がいましたら、教えていただけるとうれしいです。佐伯祐三の作品はポスターの文字も特徴的なので気になります!

以上、第1回「ぼーっとアート」佐伯祐三《郵便配達夫》でした。

それでは、また。


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