見出し画像

SDGsインパクト評価(4)

 11月から投稿してきた「SDGsインパクト評価」(1)(2)(3)の最終回をお届けします。今回はアウトカムの変化を計測する方法について解説します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 企業のSDGs達成への貢献は、資金や人材を投入(インプット)し、活動(アクティビティ)を通じて財やサービスを産出(アウトプット)し、社会や環境の変化に至る成果(アウトカム)を発現する過程と示されます。企業がSDGsにどれほど貢献しているかは、最後のアウトカムの変化を計測することによって示されます。その計測にはいくつかの方法があります。

<時系列の変化を示す>
 最も典型的な方法は、活動を実施したことによるアウトカムの変化を時系列で示すことです。過去3年から5年間程度のデータを提示し、活動を開始する前後で何らかの変化があったか、あるいは活動の実施期間中にアウトカムはどう変化してきたかを示します。例えば、労働災害防止キャンペーンを実施したことにより、労働災害の発生件数が毎年どの程度変化しているかを示すようなケースです。

 単に時系列の変化だけでなく、活動によるアウトカムの発現に何らかの目標値を設定し、その達成にどの程度まで近づいているかを示す方法もあります。例えば、SBT(Science Based Targets)という、5〜15年先を目標年として設定された企業ごとの温室効果ガス排出削減目標があります。この目標値がSBT事務局から認定された後は、各社は排出量や対策の進捗状況を毎年開示し、定期的に目標の達成を確認することになります。

<ベンチマークと比較対照する>
 活動によるアウトカムの変化を、何らかの別集団における変化をベンチマークとして比較対照する方法です。単年度で比較することもありますが、両者の差異を時系列で示すことが一般的です。別集団のアウトカム発現状況との違いを時系列で比較することで、当該活動の成果を明確に示すことができます。比較対照する別集団としては、次のようなものがあります。

①自社の旧型製品
 企業が新製品の効果を示す際に、顧客が新製品を使った場合と、旧型製品を使い続けた場合のアウトカムの発現状況を比較する方法です。例えば、節電機能に優れた新製品の電力消費量と、旧型の製品の電力使用量を比較し、仮に全顧客が新製品を使うと温室効果ガスが全体でどの程度削減されるかを示すケースです。この場合、新製品の販売数のデータがあれば、新製品の利用による温室効果ガス削減量は容易に算定できます。しかし、新製品が旧型製品に追加して利用されているのか、あるいは代替して使われているかはわからないので、こうした比較対象はあくまで想定される数値となります。

②業界平均
 自社の活動の実績を同業者の平均的数値と比較する方法です。自社と特定の同業者とを比較することも可能でしょうが、こうしたケースはあまり見られないです。むしろ、業界の平均値、製造業あるいは建設業の平均値などをベンチマークとして用いて、自社の活動のパフォーマンスが優れていることを示すケースが多いです。例えば、自社の事業による廃棄物のリサイクル比率を、業界平均の数値と比較するような場合です。あるいは自社の労働災害の発生率を業界平均と比べる場合もこれに該当します。

③サンプル集団
 自社の製品やサービスを利用している集団のパフォーマンスを明らかにするために、こうした製品やサービスを全く利用していない集団を特定し、両者を比較する手法です。当該製品やサービスの利用の影響だけを把握したいので、サンプル集団には他の条件は同等であることが求められます。サンプル集団の構成が大きく異なると、意味のある比較ができないためです。特に、医薬品の効果の検証といった場合は、サンプル集団は慎重に設定される必要があります。他にも教育分野において、特定の学習法や教材の効果を検証する際に、サンプル集団との比較が用いられることがあります。こうした検証に、ランダム化比較試験(RCT)のような科学的な精密さが求められる場合には、大学など外部の研究機関に委託して実施されるのが一般的です。

<総合的・統合的に計測する>
 バリューチェーン全体での影響を計測する場合には、CO2排出量といった指標を用いて、各段階の影響を総合的に計測する必要があります。さらに、環境面、社会面の複数の影響を合わせて把握する場合には、これらを貨幣価値等に換算して統合的に示す必要があります。こうした総合的、統合的な計測を可能にする手法について代表的なものを示します。なお、SDGsインパクトを検証する際には、こうした手法が単独に利用されるだけでなく、時系列分析やベンチマークとの比較対照分析と合わせて利用されることもあります。

①ライフサイクルアセスメント(LCA)
 ある製品を提供するにあたっては、生産時だけでなく、原材料の調達や、輸送、販売、廃棄、リサイクルに至るまで、様々な場面において温室効果ガス排出といった環境負荷がかかっています。ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とは、ある製品、サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法です。この手法については、ISO(国際標準化機構)による環境マネジメントの国際規格の中で、手順等が規格化されています。環境に配慮した製品・サービスを検討するためのデータを得るために利用されます。特に、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量を算定する際に使われ、これはカーボンライフサイクル分析(cLCA)とも呼ばれます。

②被害算定型影響評価手法(LIME: Life cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)
 この手法は経済産業省の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のLCAプロジェクトにおいて開発されたものです。CO2やNOxといった複数の物質が計測の対象となります。製品やサービスの生態系被害、大気汚染、気候変動、健康被害、資源消費など様々な社会・環境・経済面の影響が、貨幣価値に換算され統合的に表示されます。2018年にはLIME3が開発され、日本国内だけでなく、世界各国における環境影響の解析が可能となりました。

③社会的投資収益率(SROI: Social Return on Investment)
 SROIは1990年代末に米国で開発された手法です。費用便益分析と財務分析のROI(Return On Investment)の概念を応用し、事業への投資価値を金銭的価値だけでなく社会的価値も含めて算定されます。従来、貨幣価値として捉えにくかった社会的価値を、「代理指標」を用いて貨幣価値化することで、事業の総合的なパフォーマンスを把握することが目的です。社会的価値は客観的な把握や測定が難しいものが含まれるため、その設定に際しては複数のステークホルダーが関与することが求められています。

 以上、企業のSDGs達成への貢献度をどのように示せば良いのか、何に着目して、誰がどのように効果を測定すれば良いのかといった問題について整理しました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11月、12月と全4回に渡り、「SDGsインパクト評価」についてお届けしました。
これで2022年の更新は最後となります。2023年もIDCJ SDGs室をどうぞよろしくお願い申し上げます。
**********************************

IDCJ SDGs室では、毎月1,2回発行しているメールマガジンにて、SDGsの基礎からトレンドまで最新情報を配信しております。メールマガジン登録ご希望の方は、以下よりご登録ください。購読は無料です。

https://www.idcj.jp/sdgs/mailmagazine/


この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?