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SDGsインパクト評価(3)

 12月は先月の投稿「SDGsインパクト評価(1)(2)」に続き、「SDGsインパクト評価(3)、(4)」をお送りいたします。

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 先月にご説明したように、「SDGsインパクト評価」とは、企業のSDGs達成への取り組みによって、社会や環境に現れた何らかの変化を計測することと見なします。この社会や環境に対する変化とは、どこで現れるものなのでしょうか。バリューチェーンの観点から、変化が現れる場所について整理します。バリューチェーンとは、事業活動で生み出される価値を一つの流れとして捉える考え方であり、事業活動に関わる様々な工程を経てどれだけの付加価値が生じるのかが分析されます。「SDGコンパス」ではバリューチェーンを構成する工程の実例として、次を提示しています。

(原材料)‐(サプライヤー)‐(調達物流)‐(操業)‐(販売)‐(製品の使用)‐(製品の廃棄)

 企業が行う事業活動によりバリューチェーンの構成は様々ですが、ここでは「操業」を中心に置き、原材料から調達物流までを「上流」、販売から製品の廃棄までを「下流」として区分します。「上流」、「操業」、「下流」ごとに、事業活動の社会や環境への変化をどう測っているかを整理します。また、バリューチェーンを通じた何らかの変化を計測する場合は「バリューチェーン全体」として分けて整理します。

<上流段階での影響>
 上流段階には原材料や中間財の生産、調達、物流などのステップが含まれ、企業の事業活動によって異なります。このようなステップの中で、特に原材料の調達段階における環境面、社会面の問題が注視されます。調達先は国内のみならず世界各地に広がっており、アジアからアフリカ、南アメリカなど海外の業者から鉱産物や農産物などを仕入れている企業が少なくないです。特に食品加工業など農産物の調達を海外の農園に依存している場合、気候変動による収穫量の不安定化は大きな懸念事項です。また、農園拡大による地域の生態系の混乱や、農園内での児童・強制労働といった人権面の課題も、責任ある企業行動(Responsible Business Conduct)の観点からも注視すべき事項となります。

 こうした問題に対処するため、調達先の農園などを対象に技術面の支援を提供する企業は少なくないです。例えば、農業の生産性向上、小農の経営安定化等に関する支援はSDGsのゴール2に貢献する取り組みです。地域の生態系保全を狙う支援はSDGsのゴール14や16に資する取り組みです。さらに、農園での労働者の人権尊重に関わる活動は、SDGsのゴール8に貢献する取り組みとなります。

<操業段階での影響>
 操業段階で注視されているのは、企業の従業員の健康や働き方に関する問題であり、これはあらゆる業種に共通します。製造業や建設業のように、多くの従業員が現場での作業に従事する場合、労働安全の確保は重大な課題です。安全講習会の実施、事故情報の共有、事故防止装置の設置などにより、労働災害ゼロが目指されています。さらに、作業現場での事故だけでなく、食事や運動、喫煙、飲酒、ストレスなどの生活習慣の乱れによる、従業員の生活習慣病の防止にも努めている企業が少なくないです。健康診断の実施、禁煙キャンペーン、ストレスチェックなどを行い、従業員の生活習慣病の予防に取り組んでいます。こうした操業段階での活動のアウトカムは従業員の労働災害衛生の確保や健康増進であり、SDGsゴール8の達成に資するものです。

 また、操業段階での温室効果ガス排出についても注目されており、様々な企業努力を通じた温室効果ガスの排出削減効果を報告するケースが多いです。これは気候変動への対策という意味でSDGsのゴール13の達成に資する活動です。最終的なアウトカムは気候変動の抑制ですし、温室効果ガス削減が気温上昇を抑えた影響を見ることになるはずです。しかし、一企業の活動が地球の気候変動を抑える効果はわずかですし、他の多くの要因が影響を与えることになります。したがって、自社の取り組みを通じた温室効果ガス排出削減量をアウトカムと見なし、これを計測するケースが大半です。

<下流段階での影響>
 下流段階には製品やサービスの販売、使用、廃棄などのステップが含まれ、これも当然ながら企業の事業活動によって異なります。これらステップの中では、特に製品を顧客が使用することによる社会、経済、環境面の変化が注視されることが多いです。典型的な事例は、節電や節水型製品の普及による影響であり、顧客がこのような製品を使用することにより、CO2の排出が削減されるとか、水使用量が抑制されるといった効果が示されています。さらに、栄養補助食品の提供により乳幼児や高齢者の栄養状況が改善する、新薬の開発により感染症の蔓延が抑制される、新たな教育手法の実践により顧客の学力が向上するといったケースも、製品の使用段階での貢献と見なされます。SDGsの様々なゴールがこうした製品やサービスの使用により達成されます。

 建設業の場合には、例えば大規模の施設を設置した後に、当該施設が地域の生態系に影響を及ぼすことにならないかを確認するために、鳥類や昆虫等の棲息状況を経年調査するといったケースがあります。ここでは建造物の使用段階での負のアウトカムが注視され、計測されることになります。

 さらに、製品の使用後の廃棄も、環境面、社会面に大きな影響を及ぼす段階であり、SDGs達成に大きく貢献できる場面です。自社の製品が廃棄された後に、リユースやリサイクルが促進されるように、製品設計が工夫されたり、社会システムが構築されたり、あるいは人材育成が進められます。製品の廃棄後に、どの程度までリユース、リサイクルされたかを計測し、SDGsへの貢献度が示されることになります。

<バリューチェーン全体での影響>
 バリューチェーンの各段階ではなく、全体を通じての社会、経済、環境面の影響が計測されることもあります。特に、バリューチェーン上の環境面の影響を総合的に算定するケースが多いです。環境負荷としては温室効果ガス排出が典型的であり、バリューチェーンを通じて、いわゆるスコープ1、2、3全体の温室効果ガスの排出量が算定される事例が多いです。他にもバリューチェーン全体での3R( Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル))に取り組み、廃棄物の発生量やリサイクル比率を算定する事例もあります。調達、製造、使用、廃棄などバリューチェーン全体での影響を総合的に算定することは、場合によっては複雑な作業となります。ここでは、ライフサイクルアセスメントのように、製品・サービスのライフサイクル全体の環境負荷を定量的に評価する手法が用いられます。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次回は、11月からお届けしている「SDGsインパクト評価」についての最終回「SDGsインパクト評価(4)」です。アウトカムの変化を計測する方法について解説します。

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