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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について【中南米】

 この記事は法務省HPに掲載されている「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」の【中南米】をnoteに転載したものです。

第1 アルゼンチン⁸

1 離婚後の親権行使の態様

  • 離婚後も,両親が親権(アルゼンチンでは「親責任」という用語が採用されているが,本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する。)を行使する。ただし,両親の意思又は裁判所の決定により,子の利益のために,親権の行使は,両親の一方により又は様々な形式で行使させることができる(民法第641条)。なお,裁判所は,不可能又は子に有害でない限り,全ての子について親権の共同行使を許可しなければならないとされている(同法第651条)。

  • 通常は,監護者を決定するが,両親共に監護者とすることも認められている⁹。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  • 両親の間で意見の相違がある場合には,その解決を求めて裁判所に訴えることができる(民法第642条)。

  • 両親間で意見の不一致が繰り返されるか,親権の行使を深刻に妨げる他の原因が生じた場合には,裁判官は2年を超えない範囲内で,両親のいずれか一方に親権の全部又は一部を行使させるか,又は親権を分担させることができる(同条)。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 子の有無にかかわらず,協議離婚は認められていない。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め

  • 離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていないが,両親は面会交流の体制を含む養育計画を裁判所に提出することができる(民法第655条)。

  • 両親の間で合意が成立しない場合には,裁判官が検察官の関与の下に, 面会交流の具体的な内容を決定する。

⑵ 面会交流の支援制度
 
州の機関によるカウンセリングサービスの支援が存在する。

5 居所指定

 非同居親には子と円滑にコミュニケーションをとる権利と義務があることから(民法第652条),同居親は,非同居親の権利を害さないように配慮をすることが求められる。

6 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に養育費について取決めをすることは義務付けられていないが,両親は,各自が負う責任などを含む養育計画を裁判所に提出することができる(民法第655条)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 州の機関によるカウンセリングサービスの支援が存在する。

7 嫡出でない子の親権

 子の出生証明書に父の名が記載されていれば,共同親権となる。

西谷祐子「アルゼンチンの離婚及び別居法について」家裁月報59巻4・5号1頁。
なお,西谷・前掲注8)によると,5歳未満の子については,原則としては母の監護の下に置かれるという民法の規定が存在するようである(民法第206条第2項,第217 条)。

第2 ブラジル¹⁰

1 離婚後の家族権行使の態様

  • 離婚後も,両親が子に対して家族権を有する。

  • 両親は,離婚後の子の監護について,共同監護か単独監護かを選択することができるが,原則として共同監護である。いずれの形態にするのかは,離婚の訴訟において,両親の一方又は双方が両者の合意に基づく申請(民法第1584条Ⅰ),又は裁判官の宣告(同条Ⅱ)により定められる。裁判官は,「子の監護に関し,父母の間で合意が成立せず,父母共に家族権を行使することができる条件にある場合には,父母のいずれかが裁判官に対して子の監護を望まないと宣言する場合を除き,共同監護を適用する」(同条第2項)。

2 離婚後の共同家族権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  • 基本的には,個別の紛争が生ずるたびに,家庭裁判所が具体的事情に応じて判断する方法が採られている。離婚後,家族権の共同行使に関し,両親の間で意見が対立したときは,裁判官が,両親及び(家庭問題を担当する)検察官の意見を聴いて調整する。

  • 裁判官の判断のために,専門家又はスタッフの関与が認められている。「裁判官は,父母の役割及び共同監護下における同居の期間を設定するに当たり,任意に又は検察官の要請により,父及び母と同居する時間を均等に配分することを目的として,専門家又は学際的なグループのオリエ ンテーションを参考にすることができる」(民法第1584条第3項)。

3 家族権の共同行使における困難事項

 子が幼い場合は,裁判官の判断が難しいとされる。
 すなわち,子が12歳以上のときは,裁判所が,子の意見を聴き,その意見を尊重するように努めているが¹¹,子が乳児や幼児のときは,意見を聴くことができないため,判断が非常に難しくなる。そのような場合には,実務では,母親の意見を聴くケースが多い。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 協議離婚は,未成年の子(又は無能力の子)がいない場合にのみ認められている(民事訴訟法第1124-A条)。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていないが,非監護親は,監護者との合意又は裁判官の定める条件に基づき,子との面会交流をすることができる(民法第1589条)。

⑵ 面会交流の支援制度
 ア 離婚時の裁判所による両親への教育
  裁判官は,離婚後の子との面会交流等の権利・義務及びこれらを順守しなかった場合の罰則について説明する(同法第1584条第1項)。
 イ 面会交流の内容の実現を担保
  民法第1584条第4項は,「単独又は共同監護の合意事項が無許可で変更される場合又は理由なく順守されない場合には,監護者の権利が消滅され得る」と定めている。例えば,離婚成立後に,一方の親から面会交流が拒否されたときには,一般的に,家庭裁判所,検察官及び公選弁護官が対応している。裁判官は,両親を召喚して説得し,話合いでの解決を促すが,話合いで解決しないときは,審判をする。
 ウ 地域コミュニティにおける活動
  カトリック教会等が,面会交流についての支援を実施し得るが,何ら強制力はない。

6 居所指定

 共同監護においては,子の居所拠点とみなされる都市は,子の利益によりよい形でかなう都市とされ(民法第1583条第3項),転居先は,「子の利益によりよい形でかなう都市」に制限される。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に,養育費の支払について取決めをすることは義務付けられていない。ただし,実務上は,離婚と子の養育費の支払を一つの訴えとして同時に請求するのが一般的とされている(民事訴訟法第292条)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 民事訴訟法第528条に,以下のように定められている。
 「養育費が支払われない場合には,裁判官は,当事者の訴えにより,養育費支払の債務者を裁判所に呼び出し,3日以内に支払うよう命じる。債務者が3日以内に支払うか又は支払が不可能であることを証明しないときは,裁判官は,1か月以上3か月以下の拘留を命じ,支払が行われれば釈放する。」

8 嫡出でない子の親権

 父が子を認知した場合には,両親は共同で家族権を行使する。認知がされない場合には,母が単独で家族権を行使する。

¹⁰ 西谷祐子「ブラジルの離婚及び別居法について」家裁月報58巻4・5号1頁以下。ただし,同論文の公表後,ブラジル民法は改正が行われているようである。
¹¹ 子に意見を聴く際には,必要に応じて心理カウンセラー等の専門家を活用するなどし, 子の意見を慎重に聴取するための環境を整備している。

第3 メキシコ

1 離婚後の監護の態様

 父母は離婚後も共に親権を有するが,監護権についてはいずれか一方のみが有する。
 監護権について,父母が協議を行い,いずれが取得するかを決定するが,合意に至らない場合には,父母,子及び専門家の証言に基づいて民事裁判により決定される。
 財産管理権については,離婚後も父母が共に有する(ただし,いずれか一方の親が親権を法的に停止された場合はこの限りでない)。

2 離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

 メキシコ連邦民法第283条に,「離婚の裁定において,子の状況が決定される。裁判官は,親権に固有の権利及び義務,親権の失効・停止・制限,子の監護及び養育に関する全ての事項について裁定を行わなければならない。裁判の過程において,いずれか一方の親から要請があった場合には,家 庭内暴力又は措置の必要性を正当化するあらゆる状況を回避するため,父母双方及び子から意見を聴取した上で,上記裁定に必要な事項を収集する。子の意見は常に優先される。いずれの事例においても,子への危険があると判断される場合を除き,子の父母と共に過ごす権利を保護・尊重する。子の保護とは,家庭内暴力行為の回避・是正のために必要な安全,監視,治療に関する措置を含む。」と規定されている。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 子がいる夫婦の場合には,裁判手続を経ずに協議離婚をすることはできない(メキシコ連邦民法第273条)。子がいる夫婦は,裁判所に離婚の申請を行い,子の養育を行う者,養育費の支払方法,父母それぞれの居住地,未成年の子に対して支払われる食費の金額,離婚手続期間における夫婦の財産管理方法について合意しなければならない。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚裁定中に夫婦の間で面会交流に関する合意がされる。合意に至らなかった場合には,裁判官が介入して取り決められる。

⑵ 面会交流の支援制度
 「家族統合発展システム」という機関が,子との面会交流への同席,実施場所の提供等の支援を行っている。

5 居所指定

 離婚裁定後,監護権を有する親が居住地の変更を希望する場合には,他方の親の同意を得る必要がある。ただし,メキシコ連邦民法第443条に規定された「子を危険にさらす行動により親権を失っている親」についてはこの限りではない。

6 養育費

⑴ 離婚時に取り決めることが義務付けられているか
 離婚裁定中に夫婦の間で養育費の支払に関する合意がされる。合意に至らなかった場合,裁判官が介入して取り決められる。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 公的機関による支援として,裁判所の裁定に基づき,離婚時に合意された養育費を親の給与から天引きするよう雇用主に義務付けるものがある。また,メキシコ州では,養育費の支払に関する裁定履行のために公務員の給与の一部を差し押さえるための規定がある(州・市政府公務員労働法第84条第8項)。

7 嫡出でない子の親権

 親権について,婚姻関係にある父母の子か,婚外子であるかの区別はない。他方,メキシコ連邦民法第4章「婚外子の認知」第380条には,「同居していない父母が子を認知する場合には,父母のいずれが子の監護権を取得するかについて合意する。合意がされない場合には,管轄の家庭裁判官が,父母及び検察の意見を聴取した上で,子の利益に資する方に監護権を委任する。また,同居していない父母がそれぞれ認知を行った場合には,父母の間で特段の合意がなく,家庭裁判官が重大な理由により変更する必要があると判断しない限りにおいて,先に認知をした方に監護権が与えられる。」 と規定されている。


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