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英独仏の離婚制度

 この記事は、国立国会図書館の承諾の下に、下記の研究報告書を転載したものです。
 「英独仏の離婚制度(執筆者:小沢春希)」『調査と情報-ISSUE BRIEF-』1186号,2002.3.28. <https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemld=info:ndljp/pid/12198797&bundleNo=1&contentNo=1>

 大山礼子「日本の国会-審議する立法府へ」(岩波新書)に、国立国会図書館に関する件りがあるので、本文に入る前に紹介します。

 国立国会図書館の設置もまさにアメリカ・モデルもよるものであった。アメリカの議会図書館(Library of Congress)は国の中央図書館と議会図書館という二つの役割を兼ねるもので、ほかの国々にはあまり類例のない組織である。
 国立国会図書館はそのアメリカ議会図書館をモデルとして、国立図書館と国会図書館という二重の役割を負うことになった。帝国図書館の蔵書を受け継ぎ、中央図書館つぃて国民に図書館サービスを提供する任務を負うと同時に、国会の図書館として議員の立法活動を補佐する機関でもある。国立国会図書館内には、とくに議員の立法活動を支援する組織として、これもアメリカ議会図書館の調査局にならった調査及び立法考査局が置かれた。

大山礼子「日本の国会-審議する立法府へ」(岩波新書)

国立国会図書館
調査と情報-ISSUE BRIEF-

No. 1186(2022. 3.28)

英独仏の離婚制度

はじめに
Ⅰ 我が国の離婚と子に関する措置をめぐる状況
Ⅱ イギリス
 1 離婚制度
 2 養育費・面会交流の取決め
Ⅲ ドイツ
 1 離婚制度
 2 養育費・面会交流の取決め
Ⅳ フランス
 1 離婚制度
 2 養育費・面会交流の取決め
おわりに

キーワード:裁判離婚、協議離婚、養育費、面会交流

  • 我が国において父母の離婚後の子の養育の在り方について検討が進められているところであるが、諸外国の事例と比較して考える際には、その前提となる離婚制度に国ごとの違いがあることを念頭に置く必要がある。

  • イギリスやドイツにおいては、我が国の協議離婚に当たる離婚の方法は認められておらず、両国では、裁判による離婚のみが可能であり、離婚の当事者が必要とする場合には離婚後の子に関する事項の決定について裁判所が関与する。

  • フランスでは、近年の法改正により裁判所の関与しない離婚の方法が導入されたが、弁護士及び公証人の関与が求められることとされた。この手続では、養育費や面会交流について離婚時に作成する合意書に記載する必要がある。

国立国会図書館 調査及び立法考査局
行政法務課 小沢 春希

第1186号

はじめに

 近時、我が国において父母の離婚後の子の養育の在り方について検討が進められており¹ 、海外の事情を調査、紹介する文献も見られる²。本稿では、離婚後の子の養育等に関する制度について考える際の基礎とするため、まず、我が国の離婚と子に関する状況を述べた上で、イギリス、ドイツ、フランスにおける離婚制度を確認し、併せて各国における離婚時の養育費・面会 交流の取決め方等について概要を紹介する(なお、法制審議会家族法制部会においては離婚後共同親権制度の導入についても検討されることなどが報じられているが³、本稿では親権制度については扱わない。)。

Ⅰ 我が国の離婚と子に関する措置をめぐる状況

 我が国における離婚の方法としては、協議離婚、調停離婚及び審判離婚並びに判決離婚、和解離婚及び認諾離婚が認められている⁴。このうち協議離婚は、当事者の離婚意思の合致と離婚届書の提出によって成立する簡便な離婚の方法であり、比較法的にはあまり例を見ない制度であるとされる⁵(表参照)。協議離婚制度については、父母の協議のみによってどちらか一方を親権者に決めることができ第三者の介入がないことや、養育費・面会交流について取り決めずに離婚できること⁶から、子の権利や保護が放置されていると問題視する見解もある⁷。我が国においては協議離婚が多数であり、令和2(2020)年には離婚の88.3%を占めた⁸。
 離婚届用紙に設けられた面会交流や養育費の取決めの有無を尋ねるチェック欄の集計結果によれば、面会交流及び養育費の取決めをしている割合は、いずれも60%台中程で推移している状況にある⁹ 。

(注 1)イギリスにおいて離婚について定めている1973年婚姻事件法(Matrimonial Causes Act 1973)は、同法を改正する「2020年離婚、解消及び別居法(Divorce, Dissolution and Separation Act 2020)」(以下、本表の注において 「2020年法」という。)が成立しており、2022年4月6日に施行予定である。
(注 2)現行法(1973年婚姻事件法第 1条第4項)では「離婚判決の言渡し(grant a decree of divorce)」と規定されているが、2020年法による改正後の同条第3項では、「離婚命令の発出(make a divorce order)」と改められる。
(注 3)2020年法による改正後は、離婚の申請者が、婚姻が回復の見込みのないほど破綻したという陳述書を添付する手続となる。
(注 4)フランスでは、裁判所の関与がない離婚の方法(私署証書を公証人に提出することによる離婚)が認められ ているが、弁護士及び公証人の関与が必要とされる点で我が国の協議離婚とは異なる。
(出典)各国法令等を基に筆者作成。日本については、二宮周平編『新注釈民法 17』有斐閣, 2017, pp.279-292 を参照した。

* 本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、令和4(2022)年 2月10日である。
¹ 「父母の離婚後の子育てに関する法制度の調査・検討状況について」法務省ウェブサイト <https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00054.html> ; 北村治樹「離婚後の子の養育の在り方をめぐる近時の動向」『NBL』1209 号, 2022.1.1, pp.12-13.
² 田中美穂「国際的な養育費・扶養料の支払確保」二宮周平編集代表『現代家族法講座 第 5 巻』日本評論社, 2021, pp.291-326; 新・アジア家族法三国会議編, 林秀雄ほか『養育費の算定と履行確保』日本加除出版, 2020 など。ま た、法務省が公表しているものとして、法務省民事局「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」2020.4. <https://www.moj.go.jp/content/001318630.pdf> ; 公益社団法人商事法務研究会『父母の離婚に伴う子の養育・公的機関による犯罪被害者の損害賠償請求権の履行確保に係る各国の民事法制等に関する調査研究業務報告書』2020.10. 法務省ウェブサイト <https://www.moj.go.jp/content/001348073.pdf>、当館刊行物では、藤戸敬貴「諸外国における行政による養育費の確保」『レファレンス』No.814, 2018.11, pp.49-64. <https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11182123_po_081403.pdf?contentNo=1>がある。
³ 「離婚関連規定見直し 諮問 法制審に養育費不払い問題など」『読売新聞』2021.2.11; 「(交論)離婚後の子育て」『朝日新聞』2021.11.17.
⁴ 二宮周平編『新注釈民法 17』有斐閣, 2017, p.279.
同上, pp.296, 298.
養育費及び面会交流に関する取決めは離婚届の受理要件ではないため、これらの事項が取り決められていなくとも離婚届は受理される。取決めが受理要件とされなかった背景には、速やかな離婚を望む DV(ドメスティック・バイオレンス)被害者等への配慮や、当事者が十分な合意形成をせずにこれらの取決めをする可能性があること、「事実上の離婚」を選択する者が増加するおそれがある(結果として、母子家庭等の保護の後退につながる懸念が ある)ことが挙げられる(梅澤彩「日本における養育費履行システムとその可能性」『社会保障研究』4(1), 2019.6, pp.82-83)。
吉嶋かおり「「三くだり半」よりひどい現在の協議離婚制度」『国際人権ひろば』No.151, 2020.5. 一般財団法人アジア・太平洋人権情報センターウェブサイト <https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2020/05/post-201874.html> 離婚届の記載が本人によるものなのか、当事者双方の合意があるのかという確認が必要とされないことから、当事者の一方のみが提出するだけで離婚届が受理されてしまうという問題(無断離婚)も指摘されている。
厚生労働省「10-4 離婚の種類別にみた年次別離婚件数及び百分率」(人口動態調査)2021.9.10. e-Stat ウェブサイト <https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450011&tstat=000001028897&cycle=7&y
ear=20200&month=0&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053070&stat_infid=000032118626
&result_back=1&tclass4val=0>
「離婚届のチェック欄の集計結果」法務省ウェブサイト <https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00156.html>

Ⅱ イギリス

1 離婚制度

⑴ 概要
 イギリス(イングランド及びウェールズ)の離婚について定める「1973年婚姻事件法」¹⁰は、裁判の申立てによる離婚を定めており、協議離婚に当たる方式の離婚は認められていない。
 離婚が認められるためには、①婚姻関係が1年以上継続していること、②夫婦関係が破綻し たこと(後述⑵)、③その結婚がイギリスで法的に認められたものであること、④少なくと も一方の配偶者がイギリスに永住する者であることを要する¹¹。
 なお、当事者に離婚について争いがなく離婚後の諸事項について合意がある場合には、法廷での審理なく書面のやり取りによって離婚手続を進めることができる¹²。この手続は、従来は「特別手続(special procedure)」と称されていたが、現在では争いのない事件(undefended case)のための手続として「家事事件に関する規則」¹³に定められている¹⁴。

⑵ 近年の法改正
 1973年婚姻事件法は「2020年離婚、解消及び別居法」¹⁵により改正され、離婚手続等が変更された¹⁶。同法の施行日は、2022年4月6日を予定している¹⁷。
 現行制度では、裁判所への離婚の申立ては、一方の配偶者から、回復の見込みのない婚姻関係の破綻を理由として行うが¹⁸、この婚姻関係の破綻が認められるためには、1973年婚姻事件法第1条第2項(改正前)に掲げられた事実のいずれかを証明する必要がある¹⁹。
 改正後は、申立ては、一方又は双方の配偶者から、回復の見込みのない婚姻関係の破綻を理由として行い、この申立てには婚姻が回復の見込みのないほど破綻したという申請者による陳述書を添付する。申立てを受けた裁判所は、⒜一方の配偶者からの申請の場合はその者が申請の継続を希望することの確認を、⒝双方の配偶者からの申請の場合はその両当事者が申請の継続を希望することの確認を得て、離婚の仮命令を発出する。当事者によるこの確認は、手続開始から20週間が経過するまではすることができない。仮命令の発出から6週間が経過した後、裁判所は離婚命令を確定する²⁰。
 また、改正後は、陳述書が婚姻関係の破綻の決定的な証拠(conclusive evidence)と扱われる²¹ため、離婚の訴訟を争うことはできなくなる(離婚申立てについて裁判管轄、婚姻の法的有効性、詐欺若しくは強迫又は手続違反を争うことはできる。)²²。

2 養育費・面会交流の取決め

 従来は、子を有する配偶者間の争いのない離婚事件では、1973年婚姻事件法第41条の規定により、離婚後の子に関する措置の取決めに関する文書(Statement of Arrangements for Children) を裁判所に提出しなければならなかったが²³、この規定は「2014年子及び家族法」²⁴により削除された²⁵。
 現在の制度では、両配偶者は裁判官による確認なく子の居所、子との交流、子に対する経済的な支援について取り決めることができ²⁶、それを法的拘束力のあるものとすることを望む場合に、取決めを確認する法的文書である同意命令(consent order)を裁判所に申請する²⁷。養育費の合意に当たっては、所得や子の数から養育費の目安を算出するサービス²⁸や、取決めに必 要な情報提供を受けることができるサービスが政府により提供されており²⁹、取決め内容を記入して記録するためのフォームも用意されている³⁰。
 面会交流や子と同居する者について当事者間で取り決めることができなかった場合は、調停による調整や裁判所への「子に関する取決め命令(child arrangements order)」の申立てにより 解決する³¹。また、養育費に関して当事者間で取り決めることができなかった場合は、イギリス政府の機関である「養育費サービス(Child Maintenance Service)」により、養育費の支払額の算定、一方の親が養育費を支払うように手配することなどが可能である³²。ただし、これを利用して送金、受取りを行う場合にはその都度手数料が発生する³³。

¹⁰ Matrimonial Causes Act 1973 (c. 18)
¹¹ “Get a divorce.” Gov.UK Website <https://www.gov.uk/divorce>
①について、1973年婚姻事件法第3条第1項は、婚姻後1年以内の離婚の申立ての禁止を定めている。
¹² 森山浩江「3-1 離婚の成立に関する各国の状況」大村敦志ほか編著『比較家族法研究―離婚・親子・親権を中心に―』商事法務, 2012, pp.323, 325; Liz Trinder et al., Finding Fault? Divorce Law and Practice in England and Wales, London: Nuffield Foundation, 2017, p.55.<https://ore.exeter.ac.uk/repository/bitstream/handle/10871/32620/Finding_Fault_full_report.v.FINAL.pdf>
¹³ Family Procedure Rules 2010 (S.I. 2010/2955 (L. 17))
¹⁴ Trinder et al., op.cit.⑿, p.28. 争いのない事件とは、「defended case」(申請による離婚命令に反対する答弁書が提出され、それが取り消されていない場合の婚姻事件手続等)以外の婚姻事件手続及びシビル・パートナーシップ事件手続をいう(家事事件に関する規則 Rule 7.1)。
¹⁵ Divorce, Dissolution and Separation Act 2020 (c. 11)
¹⁶ 「2020年離婚、解消及び別居法」による改正について解説する当館刊行物として、芦田淳「イギリスの離婚等に 関する法改正」『外国の立法』No.287, 2021.3, pp.105-118. <https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11643921_po_02870003.pdf?contentNo=1>がある。
¹⁷ “Divorce, Dissolution and Separation Act 2020, Question for Ministry of Justice (UIN 7278, tabled on 25 May 2021).” UK Parliament  Website <https://questions-statements.parliament.uk/written-questions/detail/2021-05-25/7278>
¹⁸ 1973年婚姻事件法第1条第1項(改正前)
¹⁹ 婚姻の破綻が認められるのは、①被告が不貞行為を行い、かつ、原告が被告との同居を耐え難いと認めること、②被告が、被告との同居を原告が合理的に期待することができないような行動をとってきたこと、③被告が、申立ての直前少なくとも2年間継続して原告を遺棄してきたこと、④当事者が、申立ての直前少なくとも2年間継続して別居しており、かつ、被告が離婚判決の付与に同意すること又は⑤当事者が、申立ての直前少なくとも5年間継続して別居してきたこと、のいずれかが証明された場合(邦訳は、芦田前掲注⒃, p.108)。従来の制度については、相手の不合理な行動や長期間の別居を証明する必要があり、夫婦の対立を深めることや子供へ悪影響を及ぼす可能性などが指摘されていた(「英、離婚手続き見直し 「無用な非難合戦」回避へ」2019.4.10. CNN ウェブサイト <https://www.cnn.co.jp/world/35135520.html>; Trinder et al., op.cit.⑿, pp.14-15)
²⁰ 1973年婚姻事件法第1条第1項~第5項(改正後)。仮命令を発出するまでの最低期間は、離婚を撤回する機会 及び離婚後に関する取決めに合意するための機会として導入された( “Divorce ‘blame game’ to end,” 2020.1.7. Gov.UK Website <https://www.gov.uk/government/news/divorce-blame-game-to-end> )。
²¹ 1973年婚姻事件法第1条第3項(改正後)
²² “Divorce ‘blame game’ to end,” op.cit.⒇
²³ 子が生活する住居の状況、子が受ける教育の内容(教育費の負担などを含む。)、子の監護養育の状況、子の養育費の詳細、子と非同居親との交流の内容、子の健康状態などについて、父母の合意結果を記載することが求められていた(田巻帝子「第 2 章 イギリス」公益社団法人商事法務研究会前掲注⑵, p.56)。
²⁴ Children and Families Act 2014 (c. 6)
²⁵ Mervyn Murch, Supporting children when parents separate: embedding a crisis intervention approach within family justice, education and mental health policy, Bristol: Policy Press, 2018, p.155. 削除の理由として、現在では子の処遇に関する紛争は離婚手続とは別の手続によりいつでも解決できることが挙げられている( “Children and Families Bill: Explanatory Notes,” 2013.6.12, p.29. UK Parliament Website <https://publications.parliament.uk/pa/bills/lbill/2013-2014/0032/en/14032en.pdf>)。
²⁶ “Making child arrangements if you divorce or separate - Making child arrangements.” Gov.UK Website <https://www.gov.uk/looking-after-children-divorce>
²⁷ “Making child arrangements if you divorce or separate - If you agree.” ibid. <https://www.gov.uk/looking-after-children-divorce/if-you-agree>
²⁸ “Calculate your child maintenance.” ibid. <https://www.gov.uk/calculate-child-maintenance>
²⁹ “Making a child maintenance arrangement - Arrange child maintenance yourself.” ibid. <https://www.gov.uk/making-child-maintenance-arrangement/arrange-child-maintenance-yourself>
³⁰ Department for Work and Pensions, “Your Child Maintenance Arrangement,” 2019.8.12. ibid. <https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/824137/your-child-maintenance-arrangement-for
m.pdf> 養育費は、定期的に一定額を子の監護をする親に直接支払うことのほか、学校や保育園の送り迎えをする こと、休日に子供の世話をすること、事項ごと(住居費、学校の制服代など)に金額を支払うことなどを取り決めることもできる(“Making a child maintenance arrangement - Arrange child maintenance yourself,” op.cit.(29))。
³¹ 1989年子ども法(Children Act 1989 (c. 41))第8条第1項及び第10条。なお、裁判所への申立て等を行う際には、家庭内暴力があった場合などを除き、原則として事前に「家事調停情報及び評価会議」(Family Mediation Information and Assessment Meeting: MIAM)に出席して調停に関する情報提供を受け、調停を検討することが義務付けられている(2014年子及び家族法第10条及び家事事件に関する規則 Rule 3.6)。
³² 養育費の管轄は、「1991年子ども扶養法」(Child Support Act 1991 (c. 48))第8条により、原則として行政機関である児童扶養局(Child Support Agency)(2013年からは養育費サービス)に移行されたため、原則として司法 による解決方法はとられない(佐藤千恵「父母間の子の監護をめぐる争い予防を目的としたイギリスの当時者支援策と新たな展開」『京都府立大学学術報告(公共政策)』12 号, 2020.12, p.20)。
³³ “Making a child maintenance arrangement - Using the Child Maintenance Service.” Gov.UK Website <https://www.gov.uk/making-child-maintenance-arrangement/using-child-maintenance-service>

Ⅲ ドイツ

1 離婚制度

 ドイツ民法典(Bürgerliches Gesetzbuch. 以下「BGB」という。)³⁴は、離婚は婚姻当事者の一方又は双方からの申立てに基づく裁判による決定のみによって行われることを定めており³⁵、協議離婚に当たる方式の離婚は認められていない。手続は、「家庭事件及び非訟事件の手続に関する法律」(以下「FamFG」という。)³⁶に定められている。
 離婚原因としては「婚姻の破綻(Scheitern der Ehe)」のみが定められており、これは配偶者間の共同生活が存在せず、またその回復が期待できない状態を指す³⁷。離婚のためにはそのような状態を証する事実を示す必要があるが³⁸、①1年以上の別居³⁹があり、かつ、両配偶者が離婚を申し立てたとき若しくは配偶者の一方が申し立て、相手方が離婚に同意したとき、又は② 両配偶者が3年以上別居しているときには、婚姻が破綻したものとみなされる⁴⁰。
 離婚するためには、原則として少なくとも1年以上の別居が必要であり⁴¹、離婚について双方の配偶者が合意しているときでも同様である⁴²。ただし、婚姻関係の継続が、離婚の申立人にとって相手方配偶者に属する原因のため不当に苛酷なものとなるときには、1年の別居なく離婚することができる⁴³。

2 養育費・面会交流の取決め

 離婚時に養育費や面会交流について取り決める義務があるわけではないが⁴⁴、離婚手続開始のための申立書には、共同の未成年子の親の配慮⁴⁵や面会交流、扶養料(養育費)等について取決めをしたかどうかの表示を記載しなければならないこととされている⁴⁶。
 面会交流(及び親の配慮)に関しては、裁判所は離婚訴訟において(夫婦に共同の未成年子がいる場合には)夫婦を審問し、また、相談(Beratung)手続を利用できることを指摘しなけれ ばならないとされている⁴⁷。当事者間で取り決めることができないときには、家庭裁判所が決定することができる⁴⁸。ただし、裁判所は、子の福祉に反しない限りで当事者間の合意による取 決めを促すこととされており⁴⁹、当事者が合意に至った場合には、裁判所は取決めを承認し、裁判上の和解としての執行力が生じる⁵⁰。
 養育費に関しては、ドイツ法では、我が国のように「子の監護に要する費用」として監護親 が非監護親に対して請求するのではなく、未成年子⁵¹の親に対する扶養請求権として構成されている⁵²(以下では「扶養料」と表記する。)。未婚の未成年子の扶養は原則として、月ごとの定期金によるが、両親は扶養について、子の利益が十分に考慮される限りにおいて取り決めることができる⁵³。扶養料について争いがある場合には、一方の配偶者からの申立てにより、離婚訴訟において併合して審理、裁判を行うこともできる⁵⁴。 
 また、子は親に対し扶養料の支払を求めて家庭裁判所に提訴することができ⁵⁵、未成年である子がBGBに定められた「最低扶養料(Mindestunterhalt)」⁵⁶の1.2倍を超えない扶養料を請求するときは、簡易手続(vereinfachtes Verfahren)を利用することができる⁵⁷。

³⁴ Bürgerliches Gesetzbuch in der Fassung der Bekanntmachung vom 2. Januar 2002 (BGBl. I S. 42, 2909; 2003 I S. 738)
³⁵ BGB 第1564条。家庭事件において裁判所は決定(Beschluss)により裁判をする(「家庭事件及び非訟事件の手続に関する法律(FamFG)」第116条第1項)。
³⁶ Gesetz über das Verfahren in Familiensachen und in den Angelegenheiten der freiwilligen Gerichtsbarkeit vom 17. Dezember 2008 (BGBl. I S. 2586, 2587)
³⁷ BGB 第1565条第1項
³⁸ Gerd Weinreich und Michael Klein, Familienrecht Kommentar, 6. Auflage, Köln: Luchterhand Verlag, 2019, p.499.
³⁹ 当事者間に婚姻共同生活(häusliche Gemeinschaft)がなく、かつ、一方の当事者が明白にそれを回復することを 拒絶している状態をいい、双方当事者が夫婦の住居内で別々に生活しているときにも別居ということができる (BGB 第1567条第1項)。
⁴⁰ BGB 第1566条
⁴¹ BGB 第1565条第2項
⁴² Weinreich und Klein, op.cit.(38), p.501.
⁴³ BGB 第1565条第2項
⁴⁴ 西谷祐子「第 3 章 ドイツ」公益社団法人商事法務研究会 前掲注⑵, pp.111, 124.
⁴⁵ ドイツでは、親権を示す表現として、「親の配慮(elterliche Sorge)」という用語が用いられている(西希代子「親権に関する外国法資料⑵―ドイツ法―」大村ほか編著 前掲注⑿, p.424)。
⁴⁶ FamFG 第133条。①婚姻当事者の共同の未成年子の氏名、生年月日及び居住地、②婚姻当事者が共同の未成年子の親の配慮、面会交流及び扶養料について取決めをしたか並びに夫婦間の法律上の法定の扶養義務、婚姻住居及び 家財をめぐる法律関係について取決めをしたか、③両婚姻当事者が当事者となっている家庭事件がほかに係属しているかの表示を記載しなければならない。
⁴⁷ FamFG 第128条第2項。ドイツ法上、子と父母双方との交流は子の権利であるとされており、父母は子と交流する義務と権利を有する(BGB 第1684条第1項)。
⁴⁸ BGB 第1684条第3項。家庭裁判所は、面会交流権の制限や排除を命じることができるが(BGB 第1684条第4項)、排除は、より穏当な手段(第三者が同席する交流(付添い交流)等)を採ることができない場合にのみ許さ れる(マイア・ローツ「ドイツにおける面会交流支援のアプローチ―付添い交流を中心に―」『法律のひろば』73(9), 2020.9, p.31)。
⁴⁹ FamFG 第156条第1項
⁵⁰ FamFG 第156条第2項。西谷 前掲注(44), p.111.
⁵¹ 成年は18歳であるが(BGB 第2条)、21歳未満かつ未婚で両親又は親の一方と同居し一般学校教育を受けている者は未成年子とみなされる(同法典第1603条第2項)。
⁵² 西谷 前掲注(44), p.116. 未婚の未成年子を世話している親は、原則として、子の監護及び養育により扶養義務を履行したものとみなされる(BGB 第1606条第3項)ことから、離婚後に一方の親が未成年子を世話している場合 では、そのことが両親の間に著しい不均衡をもたらすような場合を除き、子の養育にかかる経済的費用は非同居親が負担する(野沢紀雅「ドイツ民法における未成年子の「最低扶養料(Mindestunterhalt)」について―扶養法と租税法 及び社会法の調和の試み―」『中央ロー・ジャーナル』7⑷, 2011.3, p.94; Dieter Schwab, Familienrecht (Grundrissedes Rechts), 18. Auflage, München: Beck, 2010, pp.410-411)。
⁵³ BGB 第1612条。現物給付(子の世話、食事、衣服、住居の提供等)により扶養義務を履行することもできる(Schwab, ibid., p.411)。
⁵⁴ 西谷 前掲注(44), p.124. 子の扶養料の額を算定するため、裁判所においては「デュッセルドルフ表」が広く用い られている。同表は、最低扶養料を基礎とし、扶養料を支払う義務を有する親の収入に応じて増額される(Schwab, ibid., pp.407-408)。ドイツにおける養育費支払については、泉眞樹子「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法―ひとり親家庭への養育手当支給制度―」『外国の立法』No.284, 2020.6, pp.81-95.
<https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11499060_po_02840004.pdf?contentNo=1> において解説されている。
⁵⁵ 西谷 同上, p.121.
⁵⁶ BGB 第1612a条。最低扶養料とは、扶養料を支払う義務のある親が、その能力がある場合に支払わなくてはなら ない最低限の金額である(Schwab, op.cit.(52), p.407)。
⁵⁷ FamFG 第249条第1項。簡易手続では、裁判所は相手方に扶養料について通知し、相手方から1か月以内に異議が提出されない場合又は提出された異議が認められない場合には、扶養料及びその支払義務を確定する決定がな される(FamFG 第251条及び第253条第1項)。

Ⅳ フランス

1 離婚制度

⑴ 概要
 フランスにおける離婚の方法⁵⁸について、フランス民法典第 229条は、①弁護士の署名を備えた私署証書を公証人に提出することによる離婚(以下「相互同意離婚」という。)及び②裁判官の言渡しによる離婚(以下「裁判離婚」という。)を定めている。従来は、裁判所の関与しない協議離婚は認められていなかったが、「21世紀の司法の現代化に関する2016年11 月18日の法律第1547号」(2017年1月1日施行)⁵⁹により、相互同意離婚が導入された⁶⁰。ただし、 相互同意離婚においても、弁護士や公証人の関与はある(後述⑵)。

⑵相互同意離婚
 相互同意離婚の手続では、両配偶者は婚姻の解消及び離婚の諸効果について同意し、それぞれ弁護士と相談した上で、当該同意を弁護士の署名を備えた私署証書の形式の合意書として確定し、これが公証人に寄託されることによって、確定日付と執行力が生じる⁶¹。ただし、未成年子がおり、かつ、当該子が裁判官による審理を要求したときには相互同意離婚の手続は利用できず、両配偶者の同意があっても、裁判により離婚の手続が進められる⁶²。
 各配偶者は弁護士から合意書案を受け取った日から 15 日の熟慮期間が経過した後でなければ署名することができない⁶³。公証人は、提出された合意書が民法典に定められた記載事項⁶⁴を備えていること及び両配偶者の署名が熟慮期間経過前になされたものでないかを確認する。公証人による寄託が実行されると、その寄託の日に婚姻が解消される⁶⁵。

⑶ 裁判離婚
 離婚事件の裁判は司法裁判所(tribunal judiciaire)の家事事件裁判官(juge aux affaires familiales: JAF)が担当する⁶⁶。裁判離婚には、①離婚及びその諸効果について相互の同意(consentement mutuel)があり、未成年子が裁判官の審理を要求した場合の離婚(以下「同意離婚」という。)、②両配偶者間に婚姻解消の方針の承認(acceptation du principe de la rupture du mariage)がある場合の離婚、③婚姻関係の決定的な変化(altération définitive du lien conjugal)が認められる場合の離婚及び④違反(フォート(faute))がある場合の離婚がある⁶⁷。なお、裁判離婚では手続の開始から判決までの間に数か月から1年を要するとされ、そのため、民法典には暫定措置 (mesures provisoires)が規定されている⁶⁸。上記の①~④の離婚については、次のとおりである。
 ①両配偶者が離婚及びその効果について合意しているときには、両配偶者は離婚の諸効果を定める合意書を裁判官に提出して、共同で離婚を申し立てることができる⁶⁹。申立ては弁護士が行い⁷⁰、裁判官は判決で合意書を承認し、同じ判決で離婚を言い渡す⁷¹。離婚の言渡しと合意書の承認は不可分である⁷²。
 ②両配偶者が婚姻関係の解消の方針を受け入れたときには、そのことに基づいて離婚を申し立てることができる⁷³。離婚については同意があるが、離婚の効果について争いがある場合に利用される⁷⁴。裁判官は離婚を言い渡し、離婚の諸効果を定める⁷⁵。
 ③婚姻関係が決定的に変化したことを理由として、配偶者の一方は離婚を申し立てることができる⁷⁶。婚姻関係の決定的な変化は、離婚の申立ての前に1年以上別居⁷⁷し、配偶者間の共同生活が終了したことにより認められる⁷⁸。
 ④他方の配偶者の責めに帰すべき事由による重大又は繰り返される婚姻義務違反⁷⁹により共同生活の継続が困難である場合には、一方の配偶者から離婚を申し立てることができる⁸⁰。

2 養育費・面会交流の取決め

 離婚時に養育費や面会交流について取り決める義務があるわけではないが⁸¹、私署証書による相互同意離婚の場合では、その合意書の内容に離婚後の子に関する内容が含まれ、子の居所、 親権行使の態様、面会交流(訪問権・宿泊権)の態様、子の養育費について定めることになる⁸²。また、同意離婚の手続(及びその他の裁判離婚の手続中に当事者間で取決めに至ったとき)では、離婚の諸効果に関する取決めについて、裁判官が双方の配偶者及び子の利益が保護されていることを確認した後、取決めを承認して、離婚を言い渡す⁸³。
 面会交流について、フランス民法典には親の訪問権(droit de visite)及び宿泊権(droit d’hébergement)が規定されており⁸⁴、その行使は重大な理由がある場合を除いて他方の親に拒否され得ない⁸⁵。非同居親の訪問権及び宿泊権について当事者間で取り決めることができない場合には、家事事件裁判官が決定する⁸⁶。
 非同居親による子の監護・養育のための分担⁸⁷は、基本的には扶養定期金(pension alimentaire) により履行され⁸⁸、その額は支払義務者の収入・支出と子の需要に応じて決定される⁸⁹。扶養定期金の態様は、①裁判所の決定、②裁判官により承認された合意書、③相互同意離婚の合意書、④公証人により正式に受領された証書又は⑤家族給付に責任を負う機関⁹⁰が執行力を与えた取決めにより定められ⁹¹、争いのある離婚の場合は、家事事件裁判官が離婚の裁判の手続中又は 離婚後に扶養定期金の額を定める⁹²。

⁵⁸ 近年フランスにおいては、「司法の改革及び計画策定に関する2019年3月23日の法律第222号」(Loi n°2019-222 du 23 mars 2019 de programmation 2018-2022 et de réforme pour la justice)により、裁判離婚の申立て手続の簡素化、離婚手続に要する期間の短縮がなされている(“Loi du 23 mars 2019: les nouvelles règles du divorce.” Ministère de la Justice Website <http://www.justice.gouv.fr/justice-civile-11861/loi-du-23-mars-2019-les-nouvelles-reglesdu-divorce-33557.html>)。
⁵⁹ Loi n° 2016-1547 du 18 novembre 2016 de modernisation de la justice du XXIe siècle
⁶⁰ 松本薫子「婚姻法の再定位―フランス民法典の変遷から⑷―」『立命館法學』2020⑴, 2020, p.304.
⁶¹ 民法典第229条の1
⁶² 民法典第229条の2第1号。民法典第388条の1に定められた、弁識能力を有する未成年者は、自己に関わるあらゆる手続において、自己又は裁判官の利益のために必要な場合には、裁判官から指名された者による聴聞を受け ることができるとの規定による。
⁶³ 民法典第229条の4
⁶⁴ 合意書には、婚姻の解消及びその諸効果への合意や、未成年子が裁判官の聴取を受ける権利について両親から知らされていること及びその行使を望んでいないことなどの明示の記載がなければならず、それがない場合には無 効となる(民法典第229条の3)
⁶⁵ ジャック・コンブレ(小柳春一郎・大島梨沙訳)「フランスの離婚手続と公証人―裁判官なしの離婚の導入を踏ま えて―」『ノモス』40 号, 2017.6, p.13.
⁶⁶ 司法組織法典(Code de l’organisation judiciaire)第L213条の3及び民事訴訟法典(Code de procédure civile)第1106条。家事事件裁判官は、婚姻当事者間等の関係継続中の紛争、離婚及び別居、扶養義務、婚姻費用分担義務、未成年子の養育義務、子の居所の決定、親権の行使、子の名に関する紛争などを解決することを任務とする裁判官。フランスには日本のような家庭裁判所は存在しない(シャルル=エドゥアール・ビュシェ(大島梨沙訳)「家族法の脱裁判化」『法政理論』51(3・4), 2019.3, pp.58-59)。
⁶⁷ 民法典第229条
⁶⁸ 松本 前掲注(60), p.301. 裁判官は手続開始時に審問を行い、両配偶者と子の生活を守るために必要な措置を執る (民法典第254条)。
⁶⁹ 民法典第230条
⁷⁰ 民法典第250条第1項。それぞれの配偶者の弁護士又は両配偶者が合意により選択した1名の弁護士が行う。
⁷¹ 民法典第232条第1項及び第250条の1
⁷² 松本 前掲注(60), p.296.
⁷³ 民法典第233条第1項及び第2項
⁷⁴ 田中通裕「注釈・フランス家族法⑹」『法と政治』63⑵, 2012.7, p.209.
⁷⁵ 民法典第234条
⁷⁶ 民法典第237条
⁷⁷ 別居期間は、従来は2年以上とされていたが、「司法の改革及び計画策定に関する2019年3月23日の法律第222号」による改正で1年に短縮された(Ministère de la Justice, “Articles 22 et 23, Suppression de la requête en divorce et unification de la procédure,” p.2. <http://www.textes.justice.gouv.fr/art_pix/Articles_22_23_suppression_requete_divorce_et_unification_procedure_190324_V1.pdf>)。
⁷⁸ 民法典第238条第1項。双方の配偶者からそれぞれ婚姻関係の決定的な変化に基づく離婚の申立てとフォートによる離婚の申立てがなされている場合には、1年の別居期間を要せずに婚姻関係の決定的な変化に基づく離婚が言い渡され得る(民法典第238条第3項)。
⁷⁹ 婚姻上の義務には、条文により明示された婚姻上の義務(尊重義務、貞操義務、救護義務、扶助義務、共同生活の義務)のほか、条文にはない義務の違反も含まれる(森山 前掲注⑿, p.334)。
⁸⁰ 民法典第242条
⁸¹ 法務省民事局 前掲注⑵, pp.54-55.
⁸² 石綿はる美・大濱しのぶ「第 4 章 フランス」公益社団法人商事法務研究会 前掲注⑵, p.151.
⁸³ 民法典第232条及び第268条
⁸⁴ 多くの場合、この権利は、隔週の週末及び学校の長期休暇のうちの半分の期間に子を自宅に迎えるという態様で行使されるが、両親の合意又は裁判官の判断によりそれ以外の態様を定めることも可能である( “Séparation desparents: droit de visite et d’hébergement,” 2021.3.15. Service-Public.fr Website <https://www.service-public.fr/particuliers/vosdroits/F18786>)。
⁸⁵ 民法典第373条の2の1第2項。重大な理由の例としては、身体的・精神的暴力、性的虐待の可能性、子を受け入れるのに劣悪な環境などが挙げられる(石綿・大濱 前掲注(82), p.150)。
⁸⁶ “Séparation des parents: droit de visite et d’hébergement,” op.cit.(84)
⁸⁷ 子が成年年齢に達した場合にも、当然に養育義務が消滅するわけではなく(民法典第371条の2第2項)、子が学業を続けている場合、病気、失業の場合には養育義務がある(神尾真知子「フランスにおける扶養定期金・養育 費立替払い制度」『人権教育研究』19 巻, 2019, p.18)。
⁸⁸ 民法典第373条の2の2第Ⅰの1項。扶養定期金の態様については、その全部又は一部を、子に関して生じた費用を直接支払うことや住居などの財産の使用権を与えることで扶養義務を果たすことも認められている(同条第Ⅰの4項)。
⁸⁹ “Pension alimentaire versée pour un enfant: montant et versement,” 2021.6.3. Service-Public.fr Website 政府のウェブサイトでは、養育費の目安や、収入、子の数、訪問権及び 宿泊権の態様から養育費を算出できるシミュレータが公開されている( “Simulateur de calcul de pension alimentaire.” idem <https://www.service-public.fr/simulateur/calcul/pension-alimentaire>
; “Barème des pensions alimentaires,” Mis à jour le 11 juin 2020. Justice.fr Website <https://www.justice.fr/simulateurs/pensions-alimentaire/bareme>
)。
⁹⁰ 家族手当金庫又は農業福祉共済組合が該当する(神尾 前掲注(87), p.20)。
⁹¹ 民法典第 373 条の 2 の 2 第 I の 2 項
⁹² “Pension alimentaire versée pour un enfant: montant et versement,” op.cit.(89)

おわりに

 本稿ではイギリス、ドイツ、フランスの離婚制度について取り上げたが、イギリス及びドイツでは裁判所の関わらない離婚は認められておらず、フランスで近年導入された相互同意離婚の手続でも弁護士や公証人といった法律の専門家の関与は必要的なものとされていた。
 翻って、我が国では、当事者の離婚意思の合致と離婚届書の提出のみによって離婚することができる協議離婚が離婚の多くを占めている。法務省は、離婚に関するパンフレットを作成し 離婚届用紙とともに配布する取組やホームページ⁹³での広報啓発などを実施しているが⁹⁴、協議離婚をした父母の中には、離婚について十分に話し合うことができていない者がおり、子の福祉がなおざりにされていることも指摘されている⁹⁵。
 離婚後の子の養育の在り方を検討する際に外国(特に欧米諸国)の状況と比較することが議論を深めるに当たって有用であることは明らかであるが、国ごとに認められている離婚の方法が異なっていることを念頭に置く必要がある。我が国の離婚制度の中でどのようにして養育費の支払確保や安全・安心な面会交流の実施を実現するか、十分な議論が期待される。

⁹³ 「離婚を考えている方へ~離婚をするときに考えておくべきこと~」法務省ウェブサイト <https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00011.html>
⁹⁴ 倉重龍輔「父母の離婚後の子の養育に関する周知広報の取組について(離婚届の標準様式の改正)」『家庭の法と裁判』32 号, 2021.6, p.102.
⁹⁵ 青木聡「協議離婚制度に関する調査研究報告」『家庭の法と裁判』34 号, 2021.10, p.33. 法務省が委託した「協議離婚制度に関する調査研究業務」による(日本加除出版株式会社「「協議離婚制度に関する調査研究業務」報告書」 2021.3. 法務省ウェブサイト <https://www.moj.go.jp/content/001346483.pdf>)

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