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地縛霊との対峙

今回は少し怖いお話を・・・。
苦手な方は、そっと閉じてくださいね。

大量の脂汗が額から頬、首へと滴りおちる。
同時に、高熱が出ている時のような寒気が私を襲う。
背後から感じる圧倒的な黒い、重い、膨大なうごめく思念のカタマリ。


空気が、酸素が薄い。 
呼吸がうまくできない。

身体もとても重い。
かろうじて、動かせる、その表現がぴったりな状況だ。


何がなんでもここから去らなければならない。
身体が言うことを聞いてくれるうちに……。


そして、今、通り過ぎた門の裏、ナニカがいるその場所を決して振り返ってはいけない。
私の中の本能がそう告げてくる。


今でも、覚えている。
見てもないのに脳裏に浮かぶナニカの姿。

薄い茶色の唐傘をさした、おかっぱの黒い髪、赤い着物を着た女の子。
その子の周囲にまとわりつく黒い、蛇のような触手のような思念体。
尖ったその先がわたしを捉えようと背後から向かってきている。


―――――――――――――――――――――


あれは私の大学時代。
奈良在住の友人に案内され、奈良観光をしていた。

その日はその子の家に泊めてもらえることになっていた。
普段なら門限もあって、そんなに遅い時間まで外出することはない。
ましてや家から離れた奈良にそんな時間までいることはできない。
でも、この日はたまたま行われていた、「歴史建造物のライトアップを見に行こう」と言う話になったのだ。


私は不安に思う部分もありながらも、大丈夫だろうと高を括っていた。
私の不安の原因、それは私の体質にある。


私の祖母は霊というものが見える人だった。
祖母は生前、家のあちこちに神棚を設置し、霊の通り道を塞いでいた。
私はその遺伝なのか、見えないが、察知することはできる。
特に人の持つ「思念の集合体」に敏感で、それは生死を問わない。
今でも雨の日は、いろんな人が雨に対して負の感情を抱くからか、人からの思念がうるさくて、とてもしんどいことがある。


そのため奈良や京都といった、歴史上たくさんの人が無念を抱いて亡くなっている場所には、普段からあまり近寄らないようにしていた。
油断すると、得体の知れないナニカをくっつけてしまう。
常に気を張っておかないと、自分の中の何かを持っていかれる。
そんな感覚があるので、彼の地は私には得意とは言い難い土地だった。


この日は、私の中の油断も相まって、夕暮れ時に奈良でも有名な観光名所のお寺へと行ってしまったのである。
それに加えて友人には、私のそんな面倒くさい体質のことなど話してはいなかった。
誰かに伝えたところで、多くの場合、錯覚、気のせいだと言われるからだ。


私と友人は後に食べる晩ごはんの話などをしながら、楽しい気分のまま、その門をくぐった。
二、三歩進んだところで、私の全神経が強烈に危険を訴える。


ココはアブナイ!!



一瞬でそれを悟った。
信じてもらえないかもしれない。
私の全てが、全神経が、認知できる全てが、ココが危険であることを光の速さで理解した。


頭の中は、パニックだ。
とにかく逃げないといけない。
身体の自由も徐々に奪われる、そんな感じもする。

キケン! キケン!!

ブザーのようなものが頭の中で鳴り響いている。
怖い。 

自分の中がうるさい。
頭の中で無数の生き物がうごめいて危険を告げる。

とにかく、怖い。

早く、早く逃げないと。
脂汗が頬を伝う。
寒気が私を襲う。

黒い触手のようなものが私の背後に迫ってきている。
どんどんと近づいている。



窮地を救ったのは友人だった。
私の様子がおかしいことに気づいた友人が声を掛けてくれたことで、少しだけ身体の自由を取り戻すことができた。
「調子悪い? 出て、あっちで座る?」
気遣いの言葉だとは分かったが、友人の指さしている方向は、今、きた道。

アイツのいる方向!!

それだけは……ありえない選択肢だ。



「ごめん……、向こうでもいい?」
なんとか言葉を搾り出し、逆方向を指差す。


  徐々に離れることで、少し身体の自由を取り戻すことができた。
幸いその寺には別の門があった。
別の門から出て、少し落ち着いてきた私の様子を心配してくれる友人。
友人はしきりに友人宅で休むことを勧めてきた。
しかし私はその日自宅へと帰ることにした。


この出来事で私は一つ決意したことがある。
「もう二度と、その寺にはいかない」


もう一つ、その時本能的に理解したこと。
漠然と感じただけだが、確信している。

「祖母が護ってくれている」

その時すでに亡くなっていた祖母。
亡くなってからずっと、今も私を護ってくれている。
時折、祖母の気配を感じるのだ。


いつも護っていてくれて、ありがとう。


以上、地縛霊と対峙した時のお話でした。

朗読バージョンはこちら。


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