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むかし話、突然学校へ行かなくなった朝。

それまでわたしは、それなりに順調に大学へ通ってきた。
けれどほんとうは、今思えば、一種のあきらめ、倦怠が絶えず心の中にあったに違いない。
世の中の20歳前後が思い悩む、普通ってなんだろうという気持ちに私も取り憑かれてしまって、毎日考えながら電車にゆられていた。

日ざしの強い5月のある朝、ベッドの上で私は突然、たまらなく孤独な気持ちになった。私は何時間も起き上がらないまま、尾崎豊のことや花言葉のこと、とるにたらない無数のことを考えつづけて、なんの努力もなしに、しずかに部屋の天井を見ていた。

もうそのときわたしは、両親を安心させたり、卒業する努力をしようとは考えていなかった。このままの状態でよかった。わたしは自己に確信を持った。そして同時に、自分がひどく脆いものに思えた。そろそろ変なこと考えるのはやめにして、いつもみたいに学校へ行かなきゃと思ってはいたけど、もうどうしても起き上がる気にはなれなかった。

危うくて、まばゆい世界が広がっていく予感につつまれた。カーテンからこぼれる日ざし、小川のせせらぎ、これらすべてをひっくるめた自然が一陣の風のように私をさらった。この時の感覚は、いまでも鮮烈だ。

順調な生活を捨てて、何か他のものを人生に求めたかった。この日から、もう私は学校に行くのをやめた。

こんなつたない文章を読んでくださってありがとう。

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