ブルーベリーマフィン

村上春樹の『街とその不確かな壁』を読んだ。毎晩、毎晩。読むつもりなかったのに

自分が主人公だと思いたくて、何度も影があるかを確認した。いつもそこにある。その度にやるせない気持ちになった。
それがものすごく悲しいわけじゃないけど。

わたしは、そのいわゆる特別な資格を持った人間だと思いたかった。というか思わないとやり過ごせないような苦しいことが、毎日たくさんわたしの街には降りそそぐ。夜眠るとイエローサブマリンの男の子が夢に出てくる。朝起きてもひどくぼんやりしてしまう。

本を読んで、さらに孤独になる。

この本は自分をどうしてしまったんだ、自分をどうさせてしまったんだ。

自分を現実に繋ぎとめておくために、主人公のマネしてブルーベリーマフィンをテイクアウトして食べた。
ルーティンにしたくて次の週も買いに行ったら、そのお店、もうなくなっていた。

それから、本を読まなかったここ数年の隙間を埋めていくように、10代のころみたいにずっと本を読んでいる。
村上春樹の長編や短編、エッセイ、アンナ・カレーニナ、グレン・グールドは語る、ヴァレリー詩集、音楽家の恋文、からだの美、ラストエンペラーの私生活、それから悪の華も読み返した。
いつもBGMにジャズかクラシックか讃美歌をかけた。

こんなに本を読んで、その先にはいったい何があるの?わたしは、わたしはどんどん孤独になっていく。

でも、本はわたしを世俗から守ってくれる。
本を読む孤独なわたしに与えられた唯一の特権は、世俗から距離を置けること、と思う。

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