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「て」の謎

どこで読んだか聞いたか忘れたけど「街ですれ違うときに聞こえた言葉で運勢を占う」という占いがあるらしい。本を開いたページで占うビブリオマンシーはよく聞くけれど、それははじめて知ったので新鮮だった。以来、なんとなくすれ違うひとの会話につい耳をそばだててしまう。

最寄り駅で長身で細身のシュッとしたお洒落なおじさんとすれ違った。ジーパンに黒のジャケット、白のTシャツを着ている。あえてボタンを外した様子のジャケットの襟と襟の隙間から、Tシャツのプリントが覗いている。

掌大の一文字。
太いゴシック体でたった一文字。

「  て  」

すれ違った一瞬の後、ものすごく気になった。あの「て」はなんなんだ。

ジャケットの下に続きの文字があったのか、それとも本当に「て」だけだったのか。

耳に飛び込んできた言葉で占いができるように、目に飛び込んできた言葉すべてに何かしらの意味があるとするなら、あの「て」にも何かの意味があることになる。

あの「て」は私に何を伝えようとしているのか。というか、あれを着ていたおじさんにとってどんな意味があるのか。分からない。気になる。気になりすぎる。

手の「て」なのか。おじさんは手フェチなのか。でも手の「て」なら手のイラストや写真があってもいいはず。それともおじさんのイニシャルなのか。「てらだ」とか「てごし」とか、いや名字じゃなく名前が「てつや」とか「てつろう」とかなのかもしれない。もしくは実はあれはひらがな三文字のプリントで、真ん中の「て」だけ見えていたけど本当は「こてつ」とか三文字の名前の真ん中だったのかもしれない。いやでも、自分の名前がひらがなでプリントされたTシャツ、わざわざ着るひといるかな。小学生の体操着じゃあるまいし……。

気になってずっと考えている。
今も考えている。
なんなんだろう、「て」