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光る君へ(16)倫子はなぜ笑ったのか考えてみた・大河ドラマで学ぶ脚本テクニック

大河ドラマ「光る君へ」が面白い。ということで、「「光る君へ」で学ぶ脚本テクニック」と題した動画を作っていくことにしました。動画といっても内容はスライドとテキストなので、noteにも載せていきます。今回は第16回の学びポイントです。
歴史の知識や「源氏物語」については一切触れませんので、予めご了承ください。


今回の学び

「道長の心にはもう一人の誰かがいる」と言って笑う倫子のシーン 素晴らしかったですよね。

ということで、今回は彼女が笑った理由について考えてみたいと思います。

笑う理由

問題のシーンを詳しく振り返ってみましょう。

朝帰りした道長の後ろ姿を見送った後、倫子は赤染衛門にこう言います。

「殿様、ゆうべは高松殿ではないと思うの」

高松殿というのは第二夫人・明子の家です。

「殿のお心には、私ではない、明子様でもない、もう一人の誰かがいるわ…」

倫子はそう言うと、声を立てて笑います

結論から言うと、倫子のこの笑いは、彼女が「我に返った」という意味だと思います。

「あらイヤだ。私としたことがついポロリと本音を漏らしてしまった…失敗失敗」

これまでに描かれてきた倫子のキャラから考えると、最後の笑いは、こういうニュアンスなんじゃないでしょうか。

どういうことか、もう少し詳しく説明していきます。

「もう一人の誰かがいる」という最後のセリフは、倫子の「独り言」です。

このシーンの会話は、赤染衛門の問いかけに倫子が答える形で始まっています。でもそれは、最後の独り言を導くための、脚本的なテクニックです。

その証拠に、このシーンでの赤染衛門は背景のように扱われ、ピントすら合っていません。
カメラはずっとワンカットで倫子のアップを捉え続けています。

ですから、「もう一人の誰かがいる」といった後、倫子は他の誰かではなく、自分自身を笑っているのです。

つまり、我に返って、思わず独り言を言ってしまった自分に気づき、そんな自分が可笑しくなり、声を立てて笑った、というわけです。

第四回、竹取物語がテーマの学びの会で、こんな場面がありましたよね。

やんごとなき姫たちの前で場違いな発言をしたまひろに、倫子がイヤミを言うシーンです。

「身分の高い低いなど何ほどのこと」というまひろに、「私の父が左大臣で身分が高いということをお忘れかしら」と、倫子は厳しい表情で尋ねます。

周囲が凍りつくと、倫子は一転声を立てて笑い、「ほんの戯れ言」と皆を笑わせます。

この倫子は、今回の倫子とよく似ています。

このシーンは、皆を笑わせるために倫子が一芝居打ったと解釈すべきではありません。

その逆で、まひろのトンデモ発言に思わずマジになってしまった倫子が、すぐに空気を読んで我に返り、「冗談」ということにして誤魔化した。そう解釈すべきだと思います。

理想主義で嘘がつけないまひろに対して、倫子は現実主義で芝居上手です。芝居上手というのは、自分が客観視できる、今風に言えば、メタ認知能力が高いという感じでしょうか。

もちろん人間ですから、時には思いや感情が漏れ出てしまうこともある。でもすぐ「我に返る」ことができる。倫子のキャラを要約すると、そんな感じだと思います。

  1. 第四回の「ほんの戯言」というセリフは、ここでまひろと議論したところで何の得もないという「かしこい」判断ができる倫子をあらわしていると思います。

それと同じように、今回の笑いは、道長の心を覗いて不安に駆られる自分を、もうひとりの、かしこい自分が笑い飛ばしている、そう解釈できるのではないでしょうか。

知っているのに知らないフリをすることを「猫をかぶる」と言います。

道長の心の中の人がまひろであることを知ったとき、倫子は愛猫・小麻呂のように泰然自若としていられるでしょうか。

それとも隠している爪を思わず立ててしまうのでしょうか。

今後の展開が楽しみですよね。


最後までお読みいただきありがとうございました。

背景画像:
From The New York Public Library https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e3-fe62-a3d9-e040-e00a18064a99

動画

蛇足メモ

「華の影」というタイトルについて

第16回のタイトルは「華の影」ですが、「あれ、どこかで聞いたことのあるタイトルだな」と思った方もいるのではないでしょうか。

1996年の「花の影」というかなり有名な映画と、漢字は違うけれど読みは同じタイトルですね。

「花の影」の監督はチェン・カイコー。「さらば、わが愛/覇王別姫」の監督といえば、ご存じの方も多いと思います。主演はレスリー・チャンとコン・リー。ある年齢以上の映画ファンなら知らない人はいない、香港&中国映画の大スター共演です。

内容はアートなメロドラマといったところ。幼いころ富豪の娘とその家の召使として出会った二人が、大人になって再会し愛し合うが…というストーリーです。

身分差のある男女の出会いと再会のメロドラマという点では、「光る君へ」のまひろと道長に通ずるものがあります。オマケに「花の影」の原題は「風月」。ふたりの出会いの象徴が満月なんですね。

ただ、内容的に似たところはありません。「花の影」の舞台は1920年代の中国ですし、ストーリーもかなり陰鬱です。

しかし、これまでの「光る君へ」のタイトルをつらつら眺めると、今回だけちょっと異質です。「華の影」以外は、その回の内容を素直に示したタイトルばかりです。

「華の影」というタイトルは、「花の影」に偶然被ったのではなく、オマージュ的な、本歌取り的な意識が込められているような気がします。

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