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「わかる」と答えたその先に。
「あーわかる、俺もだわ」
夫は最初に二人で食事をした日にこの言葉を何度も使っていた。中でも特段強く印象に残っているのが、私が「甘いものが苦手」と言ったときだ。続けて「年に1回食べることがあるかないかくらいです」と言うと、夫は繰り返し「あーわかる、俺もだわ」と言った。
酒飲みは甘いものが苦手である。酒を断つと食べられるようになったりするが、そんな時期はまぁ今のところ人生でほとんどない。スイーツ類は食べるタイミングというのがわからないし、料理に砂糖が入っている味なんかも苦手だったりする。好きな食べものは梅水晶とゴーヤ。
しかし夫は甘いものがとても好きなのだ。これは結婚してから気づいたことだが、彼は週に3回くらいスイーツを買う。「スイーツを買う」という行為をみたとき「あれ?」と思った。甘いものが苦手な人には起きえない行動だからだ。
最初の「あーわかる、俺もだわ」からかれこれ3年半が経とうとしているが、昨晩どうしても気になり「あれ嘘だったよね?」と聞くと、そうではないらしい。
彼曰く「甘いものが嫌いというのは嘘ではない。人生でそういう時期というのは実際にあった。それは高校生のときくらいで、甘いものが好きなんてダサい、と思っていた頃のこと。あのとき瞬時に「高校生の自分」が降りてきた。ASDだからかな」だそうだ。
意味がわからない。ASDと何の関係が。
「瞬時に高校生の自分が降りてきたのは、合わせるため?」
「そう。好かれたい人に……というか誰にでもそうしてしまう」
「なぜ?」
「合わせないと嫌なことが起きる」
「嫌なことが起きたことがある?」
「ある!中学生の時、人に合わせなかったらひどい目にあった」
「なるほど、それで人に合わせる癖がついていて、対面する相手によって色んな自分が出てくる、ということか」
「そうそう!それだ」
なるほど。自分の内面に起きたことをここまで言語化できる男性って珍しいなと思う。しかし、それがASD特有の固定概念(自分のルール)から来るのだとしたら、説明できなかった場合いつの間にか嘘つきになってしまうのでは?。夫に尋ねると、「そうそう。点と点が繋がらないからね。その場しのぎで答えた挙句忘れちゃうから、嘘つきに見えるだろうね」だそう。
今日も夫は、おもしろい。
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『夫の名もなき能力』
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