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売れているものはいつも「変わらない」

先日夫が言った。

「WANIMAっていつも同じ歌うたってない?」

いやいや何を言っているんだ。WANIMAはいつ見てもWANIMAだからいいんじゃないか。WANIMAがいきなり、テトラポットに登ってカブトムシになってしまったら気持ちが悪いだろ。

アーティストが『変わらないこと』というのはとても大切なのだ。ずっと変わらないから、それがいいんだ。

孤独で居場所がなかった 浜崎あゆみ

私は浜崎あゆみ世代だ。中学高校の時はみんなあゆが大好きだった。

革新的だった「君」と「僕」で成り立っている歌詞。孤独で居場所がない「僕」。自分を売らなくても生きていける強さを抱えた女性像。これが、平成不況を迎えて何だかどんよりした空気の中、女子高生たちの共鳴を呼んだ。あゆがいるからひとりで立てる、そういったファンが多く存在した。

時は経ち、2020年。あゆ世代は30~40代になった。仕事や家庭を持ち、孤独でなくなったファンも多い。ではあゆは今何をしているか? というと、彼女はいまだ孤独の中にいる。

ただひとつこの夜が明けてほしくないと願ってた
明日の来ない世界がもしもあるのならと探していた
(浜崎あゆみ/WORDS)2018

これはあゆの最新アルバムに入っている曲の一部である。彼女は、いまだに孤独を歌っている。41歳になった今でも、夜が明けてほしくないと願ったり、明日の来ない世界を探したりするのだ。

彼女の孤独がいかに辛いかという点に寄り添わずあえて言うが、最高すぎないか? ずっと変わらない、ずっと孤独だということが「これぞ浜崎あゆみ」という世界観に繋がっている。

考えてもみてほしい。あゆがいきなり夏の星座にぶら下がり始めたら、怖い。

此の先も現在もないだけなのに 椎名林檎

椎名林檎なんて、その際たる路線を走っている。彼女は1998年、歌舞伎町の女王を歌っていた。

あたし(女)と男の歌詞が多く、どの曲にもふんだんに漢字が使われていた。

十五に成ったあたしを置いて女王は消えた
毎週金曜日に来てた男と暮らすのだろう
(椎名林檎/歌舞伎町の女王)1998

キャッチーで癖のあるメロディーラインに載せられた巻き舌は、まさに椎名林檎の世界だった。

では、林檎は今何をしているか?
もちろん漢字ばかりのあたし(女)の歌をうたっている。

同じ夢で目覚めた なぜ今また昔の男など現れる。
眉や目でさえ覚えていない相手じゃ 遥か朧の月
(椎名林檎/TOKYO)2019

椎名林檎は、いつだって男に媚びない。凛と背筋を伸ばし、女性という人生を美しいメロディーで鮮やかに彩る。そんな林檎が急に、小さなあたしの身体を熱くしてあの人に焦がれたりしたら、私は気絶する。

売れているコンテンツには確固たる形がある

クリエイター、アーティスト、漫画、アニメ、とにかく売れているコンテンツに大切なことは「変わらない」こと。

いつ聞いてもB'z、いつ読んでも村上春樹、いつ見てもONE PIECE。どんなときもドラえもんはのび太君に優しくなければいけないし、ハローキティは身近な女の子でなければいけない。

売れているものはいつも変わらない。逆に言うと、変わらないのに新しいことを常に追求しているコンテンツが、売れているのだ。だから「いろんな私を見てほしい」なんて、アーティストのエゴだと思う。そんなもん見せたら売れなくなる。ファンが見たいものはもう決まってしまっているのだ。

……何が言いたいかというと、
aikoってすごくないか……?

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『マザーコンプレックス』



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