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マン・レイ『MAN RAY PHOTOGRAPH』/目は旅をする052(写真の未来形)

マン・レイ『MAN RAY PHOTOGRAPH』
(Schirmer / Mosel, Munchen刊)

マン・レイは1890年にニューヨークで生まれ、1976年にパリで死んだ。
86歳に亡くなる直前まで精力的に制作を行なっていたし、絵画(彼は一貫してペインターを目指していた)、オブジェ、写真、映画などその表現手法も多岐にわたる。
ポートレートやファッション写真も素晴らしい仕事が数多いが、50才代で商業写真はきっぱりとやめてしまった。だから、普通の意味で彼を「写真家」とは呼ぶのは狭すぎるように思う。
マン・レイ自身も「写真家」と呼ばれたくはなかったろう。

さらに考えてみると、彼は20世紀という時代の子である。2つの大戦を挟み、ヨーロッパとアメリカを多くの人とモノ、そしてアートが移動した。
そればかりではなく、ダダイズムという反芸術運動、そして引き続くシュルレアリズム(この言葉は、アポリネールから来ているらしい)が、世界同時多発的な創造的破壊(ディスラプション)により、アーティスト、アート作品のあり方を変えた時代に生きた。
ニューヨーク、パリ、ハリウッドを移動しながら制作を続けたマン・レイの作品は、まさにその時代の関数として考えなくてはならないだろう。

しかし、だからと言って、彼は「アーティスト」であり、「写真家」ではなかったと言いたいわけではない。

確かに彼が生前に企画して実現した「写真集」は少ない。彼が晩年に記した自伝『セルフポートレイト』(1963)によれば、初期のレイヨグラフ12枚に、ダダの僚友トリスタン・ツァラのテキストをつけた『甘美なる場』ともう一冊の計画ぐらいか。

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