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ヴォルフガング・ティルマンス『To Look Without Fear』/目は旅をする059(地図のない旅/行先のない旅)

ヴォルフガング・ティルマンス『To Look Without Fear』(The Museum of Modern Art, New York刊)

僕はコンテンポラリーアートの中でも、ひときわ「写真」に取り憑かれ続けてきた。それは「写真」が、他のどんなアートフォーム以上に、時代の動因と深くリンクした複合体だからだ。

そしてそれが、単に、時代を記録するジャーナリズムを意味するだけではなく、時には予言的と言ってよいほどの表象を提出してくるからだ。

理由はもっとあるが、それはヴィレム・フルッサーが言ったことと深く関係している。

「チェスのプレイヤーが駒で遊ぶのと同じように、写真家は装置で遊ぶのです。写真装置は道具ではなく玩具なのです。写真家は労働者ではなく、プレイヤーです。つまり「ホモ・ファーベル(働く人)」ではなく「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」なのです」

ディープラーニングをし続けるAIは、我々を安楽な未来につれていくかもしれないが、それは真実もフェイクも見抜けず、管理を受け入れる隷属的な人間の未来が今・ここまで来ている。

ロシアとウクライナの戦争を見よ、アメリカのフェイクに満ちた民主主義の生存を賭けたという選挙戦を見よ。我々は、我々が生み出した退行的なディストピアの中にいる。

フルッサーが亡くなる90年代初頭に、予言的に提出した、コンピュータ管理社会の中の「自由人」の可能性を体現する者としての写真家を、最もプレイできた者、それは間違いなくヴォルフガング・ティルマンスである。

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ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をす…

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