インタビュー中に聞き手が自分の話をするのはありか、なしか問題
インタビュアーの仕事は、「聞く」ことです。しかし聞き手の中には、
「自分の話は極力しません。とにかく聞くことに徹します」
という人もいれば、
「いやいや、相手との距離を縮めるためには、自分の話もした方がいいよ」
という人もいます。どちらが正しいと思いますか?
私は、基本的に聞き手は自分の話はしない方がいいと思います。その理由をお話します。
1.話し手が我に返ってしまうから
インタビューというのはある種、異常な空間です。
自分の言葉に相手がひたすら耳を傾けてくれる。話し手と聞き手の役割が固定されている。そんな状況は、日常ではあり得ません。
日常の話し言葉は、相手との人間関係、社会的な役割、環境など、さまざまな要素によって規定されています。
その規定が取り払われ、自分の思いをただひたすらに相手に伝えることが許された状況では、話し手はフロー状態になります。普段とは違う関係性の中に置かれ、高揚した感覚になるのです。
これは、インタビューにおいてはとても良いことです。豊かな言葉がどんどん出てくるからです。
ところが、話し手が「話し手は自分だ」と思い込んでいるときに、聞き手が自分のことを話し始めたらどうなるでしょうか?
聞き手が「私もこんなことがありましてね」と、インタビュー中に語り出す場面を想像してみてください。話し手は
「しまった、少し調子に乗って話しすぎていたかもしれない」
と我に返ってしまい、せっかく盛り上がっていた「話し手」モードがヒートダウンしてしまうのです。
「あれも言いたい」「これも言いたい」と、話し手の中で豊かに湧いてきていた言葉が、シュルシュル〜っと音を立ててしぼんでいく。
話し手は本当に申し訳なさげに体を小さくします。もしくは、喋り出した話し手と一緒に、話題があさっての方向に向かっていきます。
インタビュアーは相手の豊かな言葉を聞くのが仕事です。その言葉の源泉を冷やすような行為は、避けるのが賢明だと思います。
2.話し手の「正しい表現」を捻じ曲げてしまうから
特に注意したいのが、話し手と自分の共通点があるとわかったとき。話し手は思わず「私もなんです!」と、声を上げてしまいがちです。
一見問題なさそうですが、こうした反応は相手の思考のノイズになり、発言を捻じ曲げてしまうリスクがあります。例えば、
「私も○○中出身なんです!▲▲先生のこと知ってます!」
→(心の声)○○中に詳しいなら、あのエピソードを出すと変なところを突っ込まれそうで嫌だな……。別の話にしよう。
「私もリーマンショックの時に就活生でした!本当に辛かったです……」
→(心の声)自分よりこの人の方が辛かったっぽいな……。自分の苦労話なんて大したことないと受け止められそうだから、話すのはやめておこう。
「私もそのキャラクター好きです!あの○○がたまらないですよね〜〜」
→(心の声)自分と好きなポイントが違うな……。○○が気に入っている人なら、自分が▲▲を好きって言ったらちょっと変だと思われるかもしれないから、適当に合わせておくか。
聞き手はつい「テレビを見ているような感覚」になって無邪気に感想を言ってしまいがちなのですが、相手はテレビではなく、生身の人間です。
聞き手の発言一つが話し手に大きな影響を与える立場にいることを認識した方がいいでしょう。
「でも、相手と距離を近づけるのは悪いことではないよね?」
思う方もいるかもしれません。それについては、私は「悪いことではないけれど、積極的にやる必要はない」と言う考えです。
なぜなら、相手と共通点が一つもなかったとしても、インタビューを通じて深い関係を築くことは可能だからです。
そもそも自分から遠い立場の人の方が、意外に話しやすいものです。地元の知り合いにインタビューされたりするのって、ちょっと嫌ですよね? 普段の自分を知らない人だからこそ、話せることってあるんです。
無理に共通点を見出して相手に近づこうとするのではなく、「聞く」という技術を使って正攻法で関係構築をする方法をおすすめします。
3.例外あり
話し手が「私は〜」と語ってもよい、むしろ語った方がいい例外があります。それは、話し手の話に対する感想を伝えるときです。
この件については以前こちらに書いたので、よければご覧ください。
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